小説:54歳マイクエで奇跡をみた【7-後編】戦慄の後半/感情を押し殺すという言葉があるが、文字通り自分自信が…
第1話はこちらから
54歳マイクエで奇跡をみた【登場人物】
シュン 主人公 54歳独身 サラリーマン
クトー 旅の仲間 小中学生のラグビーコーチ
アンリ 旅の仲間 心理カウンセラー
ホリアーティ 旅の仲間 占い師
ナスちゃん 旅の仲間 看護士
ニバミン 旅の仲間 ダイエット指導者
神林(株)ゴールデン•スパイラル 開発担当
千川部長 シュンの出向先の元上司
籠井先生 シュンの小学校の恩師(担任)
平山先生 シュンの中学校の恩師(陸上部顧問)
魂の指南役 正体不明
少年 シュンの小学生時代
片次 シュンの描く漫画の主人公
もやい様 片次の旅仲間
【呪い-後編】
しかし、紙のような薄い金属は、いびつに形を変え、面積を広げるよう伸びてきて、再度壁を作った。
「邪魔をするな!」
僕は大声をあげた。アンリさんがこちらに目配せしてきた。さっきから、すでに攻撃を仕掛けているが、通用しないようだ。
「戦うんだ!」僕は自分に言い聞かせるが、どうしていいかわからない。「幸せな気持ち」になるとき、不安をかき消す攻撃力が発動するのだが、焦りが心を閉めていて、少しも「幸せな」出来事が浮かばないのだ。しかも敵が巻き付いて、一歩も動けない。焦りだけが活火山のように次から次へと表に出てくる。
過去の僕は職員室を出て、自分のクラスへ戻ろうとしている。だめだ間に合わない。「シュンくん!」少し向こうのホリアーティが絞りあげるような叫んでいる。
「これから起きてしまうことを止められないなら、事後の対応を考えるの!シュンくんにはわかってるんだよね?未来が?」
そうだ。僕は落ち着きを取り戻すことができた。詳細に当時の場面を思い浮かべるのだ。
幼い頃の僕は、絵の上手なクラスメイトの村松くんに声をかけていた。彼の描いた街の景色は同学年が描いたと思えないほど群を抜いてうまくて、ただただ、仲良くなるなら、彼しかいないと思っていた。自分が描いた物を手にして声をかけた。声をかけるのに、緊張するなんて初めてかもしれない。定番の期待と不安が入り混じった気持ちが一番合う。
だが、こちらの思いとは裏腹に相思相愛とはならなかった。
教室の外から二人のやり取りが見える。「下手だね~」と言われて、ボクはそこから会話が続かず、凍りついているのが分かる。村松くんは他の友達に声をかけられ、その場から去ってしまった。
ボクは想像もしなかった状況をどう受け取ればいいのか、ショックをうけてオンオン泣き始めている。
手遅れだった。だが、ホリアーティのいう通り、全てを思い出しているから、予想どおりともいえる。今の僕にできることを考えるんだ。そうだ。当時は絵の描き方をしらなかった。当時の絵なら空でも描ける。「未来は明るい。成長できることを示すんだ。」
そんなアイデアが浮かぶと心があたたかな気持ちで満たされた。
「グワーーッ」
と、絶叫が後ろで響いた。クトーくんの薙刀が焼けた鉄のように赤くそまり、敵を切り裂いたのだ。
「シュン!武器に新たなパワーが宿った!これならいける」
僕らの縛りも緩くなった。アンリもパワーアップした武器で敵を不気味な壁を押し返していく。壁は炎の中で溶けるビニールのように収縮して、ちぎれ破れていく。僕らは打ち払ったのだ。
少年を慌てさせないようにゆったりとした足取りで、近づいた。少年は、手にくしゃくしゃになった紙を手にしている。昨日、一生懸命に楽しい未来を想像しながらで描いた力作だ。
それを村松くんに絵を見せてダメだしされた後だ。とてもツラいだろう。すっかり忘れていたが、当時のツラい気持ちを容易に思い出せる。この出来事から僕は自分はダメなヤツだとレッテルを張ってしまったに違いない。だが、問題は気持ちの切り替えだ。
「君、泣いてたけど、大丈夫?」
僕は明るい声だが、ゆっくりとした口調で少に声をかける。
「う・・・うん。 おじさん誰?」
「おじさんは絵描きなんだ。」
不思議そうな顔をしている少年の前で絵を書いた。彼が落書きしているマジンガーZ、銀河鉄道999やドラえもんをサラサラと書いた。
「うわっ!すごい!本物みたいだ。」
喜んでくれているのを感じる。よかった。
「だろ?君もいっぱい描けば、おじさんなんかすぐ追い越しちゃうよ。 おじさんは小さいときに下手って言われて、自信なくしちゃったんだよ。友達もあんまりいなかったんだ。」
少年は僕が描いた絵を真剣に見ている。
「だけど、おじさんは、君のお父さんよりずっと歳をとってから描けるようになったんだ。だから大丈夫。」
できるだけの笑顔で言いたいことを伝えた。あとはこの少年が時間を味方にして未来に希望をもってくれればいい。僕もこんなアドバイスが欲しかった。未来を信じろって。
「...おじさんはすごいよ。村松くんとかみたいに才能があるんだよ絶対に。でもボクはいいんだ。」
少年は下を向いた。
「何が?いいって何が?」
急に胸が締め付けられる。少年は下を向いたまま、答えた。
「人には絶対にこんな下手な絵を見せないし、どーせ、誰からも相手にしてもらえないんだ。」
僕が愕然とした。何をいってるんだ?慌てて僕は取り繕った。
「いや、、、そんな思いつめなくても、きっとまた描きたくなる時がくるから」
僕は完全にパニックになっていた。おそらく口調も説教じみていたことだろう。
「うるさいな!ボクは村松くんやおじさんと違って、下手だよ。ちゃんと描けないよ。」
と同時にこれまで感じたことのない重力が全身に一気に襲ってきた。無理やりはいつくばされる。立ってられないとかそんなレペルではなかった。床に横たわるというより、暴力的に押し付けられた。さっきは切なさで胸が締め付けられたんじゃない。
感情をおし殺すという言葉があるが、文字通り、今自分自身が激しい憎悪のカタマリというか、空間に圧殺されかけている。胸がさらに頭や身体も床に押し付けられる。身体はストレスホルモンを解放しているが、突然押し寄せた巨大な重力の波に到底追い付かない。僕は抗うことを考えるところにさえ、たどり着けない。頭蓋骨が背骨が肋骨が敵意を剥き出しにするように締め付けくる。喉は開かず声も出ない。激しい痛みに涙だけがこぼれでる。首の向きどころか、身体の向きを変えることさえできない。鼻血が目の前に広がる。教室の窓のフレームも歪み、窓ガラスがくだけ散る音が周囲から聞こえた。
少年の声が続く。泣きながら訴える。「もう人に声なんかかけないよ!誰にも頼らないよ!ボクの気持ちなんか誰にもわかるもんか!!」
瞬間だ。
ダメな自分呪ったのではない!人と交流することを諦めてこれからの訪れる暗い人生を呪った瞬間だ。
それを理解できたが、それどころでなかった。意識までが潰されてかけている。「助けて」と、声にできないながら、救いの願いを吐き出した。そのまま意識が途切れた。
どのくらい時間が経ったのだろう。幸い目覚めることができた。そこに仲間がいるかどうかもわからない。天井が崩れ、壁に穴があき、床がいびつに隆起する崩壊した教室だけがあった。散乱したガラスに自分の姿が見つけた。ガラスや天井板が至るところに刺さり、全身血まみれで、横たわっている。そこで自分がひどく傷ついていることを理解した。目だけがかろうじて動く。少年の姿はない。指一つ動かせない必死な状態で姿をさがしたが、やはりない。伝えたい思いがあった。
「チガんだ。。。そうじゃないんだ、そうじゃない。それだと君が僕になってしまう。」
背中に気配を感じた。震えた。
「ご主人様、ご理解いただけましたか?」言葉遣いは丁寧だが、デジタル的なフィルターを通した生成されたような声だ。
「お前は...」無論、声は出ない。
「そうです。ご主人様が希望を持ってあの子と対話しようとなされたから、私は敗れたフリをしていたのです。失礼ながら私はご主人様の力を試させていただきました。」
薄い紙が揺れている影だけが視界に入る。
「私のことは魂の指南役とでも、お呼びください。」
魂の指南役と名乗る化け物は、たんたんとつづけた。
「認めてもらえらない。友達を作るきっかけを失い、 絵を描くのに自信を持てなくなった。ですから、あの子なりに自分を守るため「覚悟」して「心を閉ざして生きる決意」を選択したのです。『覚悟とした決意』に良いも悪いもありません。簡単に誰かによって変えるものができないものなのです。その象徴がご主人様の命を奪いかけたあの強さなのです。ご主人様の感じる痛みは、このオズウェイでは外傷ですが、現実社会では心の傷、人によってはトラウマとして残るのです。どうぞ、過去からお引き取りを。そしてゆっくりお休みください。」
本当の意味で気がついたのは、ダイニングテーブルだった。全身汗だくでなんだか熱っぽい。全身に筋肉痛も感じる。喉はカラカラで、目はしょぼしょぼ。泣いていたらしい。一体何がおこったんだ?説明できるはずもない。
一つだけハッキリしたことがある。「呪い」は単なる思いつきでなく、40年も前に自分自信がかけたのだ。ニ度と傷つけられないよう心を閉ざすという呪いだ。思い出したくない出来事の一つとしか考えてなかったが、そんなもんじゃなかった。当時の僕は、本気で自分を殺す、いや自分自信をこの世から消し去りたいくらいに傷ついていたのだ。自分のことはいえ、僕はそこに軽率に踏み込んでしまった。
オズウェイをすすんで「呪い」が解けたらいいなぁと呑気に構えていた方が幸せだったとさえ思う。僕はこの先、何をして冒険をすすめればいいのか?だからこそ、こんな自分を変えたいとマインド•クエストに出たというのに。
しかし、しかし、しかしだ。本当にどうしたらいい?