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今も昔も「若い頃は人目が大事よ」

まずは、オモコロというWEBメディアで本日(1/14)公開された記事をご覧ください。

作者、逆襲さんの学生時代を描いたコミックエッセイです。
短い中で、青春の残酷さをヒリヒリ感じさせる名作だと思います。
と、同時に、私は松任谷由実(ユーミン)さんの、とある名曲を思い出さずにはいられませんでした。

飛び越えられない「5㎝の向う岸」

その名曲とは、1980年に発売されたユーミンのオリジナルアルバム「時のないホテル」に収録された「5㎝の向う岸」です。

この「時のないホテル」は、ユーミンのアルバムの中でも、異色の作品で、暗く、かなり具体的なストーリーを含んだ歌詞の曲が多いのが特徴です。
「5㎝の向う岸」も、そんな特徴を色濃く持っている曲と言えます。

歌詞の中の主人公は、自分より背が低い男子と付き合っていました。
ある日、デート中に同級生と出くわし、背が低い彼氏をからかわれます。
その後、主人公も背の事を気にして、結局は別れてしまいます……。

「子供だな~」とか、「本当に好きなら気にするな」とか、主人公に対する思いは様々だとは思います。
しかし、歌詞にも繰り返し出てくるように「並んだら5㎝も」背が違うのは、「学校」という。彼女たちの限られた世界では大変なことです。
青春時代は、学校という世界の中での完璧さを求め、また、求められます。

冒頭の「わたしといるとモテない」と通じるところが大いにありますよね。

「友達」と「モテ」

漫画の中で出てくる「オシャレでかわいい女の子」は、笑いのツボがあう逆襲さんと仲良くなりますが、「モテ」を優先して疎遠になります。
傍から見れば、同じことに笑いあえる友人なんて、きっとかけ甲斐のない存在だと思いますが、それよりも「モテ」。
友達という存在も、モテのパラメータを上げたり、ステキな学校生活を彩る装備的な感覚なのでしょう。
言葉にしてしまえば、残酷ではありますが、逆襲さんとしても、1年生のころは、「一人でいるのが恥ずかしい」と思っていたわけですから、やはり「人から見てどうか」が優先されているわけですね。
この学校的な第三者目線をつきつめれば、閉塞的な現代の「スクールカースト」へと悪化していくのでしょう。

「5cmの向う岸」でも、率直に歌われています。

若いころは人目が大事よ

1980年の歌にしろ、現代の社会問題にしろ、脈々と受け継いでしまっているんですね。

これを偉そうに描いている私だってそうです。
基本的に八方美人で、友達付き合いはオープンにしなかった学生時代でした。
そうすれば人目はとりあえずごまかせますから。
卑怯で、思い出したくもない過去です。

たどり着くべき「やさしさ」

さて、逆襲さんが「オシャレでかわいい女の子」から、友人解消を宣言されたとき、色々な感情が湧き出したのだと思いますが、結果として納得し、許しています。
寛容だなと思う一方、ここでも「5cmの向う岸」の歌詞へと通じていきます。

子供だったの5㎝の向う岸
二人とも渡れずに
    *****
もっと大事なやさしさを失くしても
気付かないこともある

歌の主人公は、結局5cmの向う岸を飛び越えられず、恋人と別れてしまいます。
彼女が、恐らく自戒をこめて最後に歌うのは、「やさしさ」を失くしたのだということです。
逆襲さんは、「モテたい」という考えも尊重し、自分一人でいることを「権利」として意識しますが、これが正に、「もっと大事なやさしさ」に気づいた、ということではないでしょうか。
そんなやさしい逆襲さんだからこそ、卒業式で「オシャレでかわいい女の子」と、アルバムのイラストという思い出をつなぐことができたのだと思います。

ああ、青春の苦み……。

本当に、記憶を揺さぶられる、すばらしいコミックエッセイでした。
ありがとうございました。

余談

因みに「5cmの向う岸」、ぜひ聴いていただきたいポイントがあるんです!
それは「2回目までのサビの歌詞は、主人公以外の言葉」ということです。
曲として盛り上がる部分で、主人公の胸にぐさりと刺さったセリフが歌詞になっているわけですね。
ここはぜひ!CDで聴いていただきたい!ぜひ!

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