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趣味のデータ分析004_資産所得倍増③_資産所得の定義のまとめ

定義は色々あるけれど

資産所得に関して、政府公表ではその定義を全く明らかにしていないことと、そのうえで、前回、前々回と、公表データをベースにその定義と水準を明らかにした。今回は、各定義、水準を整理して、参考までに妥当性を傍証していきたい。
ちなみに前者については明言していなかったが、「定義は明らかにしない」、端的には資産所得倍増プランとは資産所得を倍増させるわけではない、ということを国会でも言っていて、このノートで言っているような定義や数字の話はもともと岸田総理(というか、ロンドン講演をシャドーライティングした人)の頭にはない、ということは予め付言しておく。今後いかなる議論が政府で行われるとしても、今回挙げた数値の水準が政府文書に出てくることはない…と思う。出てきたら誰か教えて。

定義整理

さて、では前回、前々回の定義を整理しよう。とりあえず資産所得とは、株や債券からの「利子所得、配当所得」でしょう、ということで、公的データを渉猟している。ただ常識的に「資産所得」は、不動産所得も含まれると思うので、そこも可能な範囲でサーベイしている。
ひとつ目は内閣府の国民経済計算によるものである。GDP計算=マクロ統計から計算された、「家計部門(個人事業主含む)」が得た利子収入、配当収入のデータがある。水準は下記で、直近2020年度は約14兆円。日本全体の世帯数が6000万なので、1世帯あたりだと年間23万円くらいの収入になる。

利子所得と配当所得の推移
(出所:内閣府「国民経済計算」

次の定義は総務省の家計構造調査によるもの。ミクロなアンケートをベースにしたもので、マクロ統計にどうしても付きまとう推計は入らないが、回答に当たっての恣意性とか適当さは逆に避けられない。水準は下記で、利子収入と配当収入は分けられない。所得階級別でグラフは作ったけど、あまり意味はない。直近2019年の平均値は1世帯当たり2.8万円で、日本全体では1.7兆円になる。

年収階層別利子配当金および家賃地代
(出所:総務省「家計構造調査」

最後は厚労省の国民生活基礎調査。基本的には総務省の家計構造調査のバリアントである。資産所得という意味では、利子配当収入と不動産収入も原則分けられず、全体で「財産所得」と定義されている。財産所得全体での水準は、直近2019年で15.8万円だが、利子配当金だけを推計すると、多分3万円程度。利子配当収入だけの日本全体での推計は、大体1.8兆円程度になる。

財産所得の推移
(出所:厚労省「国民生活基礎調査」

どっちが正しいの?

無駄に再掲した気がする…利子配当収入だけを抜き出すと下記である。

  • 国民経済計算:1世帯当たり23万円、日本全体で14兆円

  • 家計構造調査:1世帯当たり2.8万円、日本全体で1.7兆円

  • 国民生活基礎調査:1世帯当たり3万円、日本全体で1.8兆円

国民経済計算だと1世帯当たり23万円で、家計構造調査と国民経済計算だと、大体3万円。前者が8倍くらい大きい。前者は統計としての信頼をしているんだが、どうしてもマクロ集計で推計部分が出てくるし、特に家賃収入より配当収入が大きいというのに納得感がない。後者はミクロ集計ならではの正確さはあると思うんだが、配当収入とかを正確にアンケートで回答しているか、と言われると微妙なところもあると思う。

まあどっちが正しいかを追求するつもりもないのだが、ちょっと検証してみたい。株や債券等の金融資産保有額に、配当利回りを乗じれば、配当収入の概算ができる。この方法で「資産所得」を計算してみたい。

まずは配当利回りだが、これは東証にデータが有る。こんな感じ。大体2%くらいなのがわかると思う。ちなみにダウとかS&Pでもこれくらいの印象。グロース株はもうちょっと高いのかな?いずれにせよ、米株の平均配当利回りは5%!とかいうことはないはず。

株式の加重平均利回りの推移
出所:日本証券取引所

次に株式や債券をどれくらい持っているか、金融資産保有額のデータである。これについては、家計構造調査のほか、金融広報中央委員会、日本証券業協会のアンケート調査、また日銀と内閣府のマクロ統計からそれぞれデータが取れる。こう見ると結構ソース多いな。
データに関する詳細は別途言及するとして、数字は下記のような感じになっている。なおそれぞれデータの時点が異なる点は留意。

有価証券等(株や債券等)の保有額(統計間比較)
(出所:総務省「家計構造調査」金広委「家計の金融行動に関する世論調査」日証協「証券投資に関する全国調査」日銀「資金循環統計」内閣府「国民経済計算」

100万円~600万円で幅がすごくあるのだけれど、ともかくこれらがすべて株式で配当利回り2%という強烈な仮定を置くと、配当収入は年間2万~12万円になる。利子収入自体はこの低金利時代、実質無視できるとすると、家計の「資産所得は最大でも10万円を超える程度」とするのが妥当な推計だろう。とすると、内閣府の23万円と言うのはいくらなんでも大きすぎると思う。少なくとも内閣府のデータは、配当利回りを2%と仮定する限り、ストックとフローで水準感が整合していないように感じる。内閣府の数字には、単なる配当以上のなにかが入っていると思われるが、背景はよくわからない。ちなみにこの中には、キャピタルゲインは入っていない。

総務省や厚労省の推計はそれはそれで下限に近いが、別に全部が株なわけでもない(個人国債とか)だろうので、まあそんなもんだろう。かなり荒い検証だが、割と合理的だと思う。
というわけで、「資産所得倍増」について、このノートでは総務省および厚労省のデータが真に近い、つまり、資産所得倍増とは、(まともに読めば)「国民所得を年間3万円増やす」という意味だと結論しておく。年間3万円…一日8時間200日働くと仮定すると、30,000 / 1,600 で、時給が20円弱上がるのと同じくらいの影響である。じゃあ20円上げろよ。と思いました。

以上で、資産所得というフローについては一応整理ができたと思う。ただ前々回や今回の冒頭でも触れた通り、資産所得倍増計画は資産所得を倍増させるというわけではない。何をするかというと、ストック面、つまり国民の金融資産を現預金から株式等に振り分ける、というのがアウトプットになるはずである。国会でもそんな感じのことを言っている。ま、その施策の是非はおいておくが、政府の言う「2,000兆円の金融資産」とうち「1,000兆円の現金資産」について、誰がどういう形で保有しているのか、ということは掘り下げる価値があるんじゃないかと個人的には思っている。
というわけで、分析の目線を、フローからストックに移そう。そのへんから、次回。


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