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趣味のデータ分析003_資産所得倍増②_資産所得の定義の続き

資産所得の定義の続き

前回資産所得を国民経済計算(GDP統計)から定義したが、「資産所得」の第2、第3の定義(と考えられるデータ)があるので、今回はこれを整理しておく。
本当は4つ目があるのだけど、有識者への確認の結果、4つ目は使い物にならない可能性が高いっぽい。

第2の定義:家計構造調査

多分厳密性という意味では、この家計構造調査@総務省が資産所得の定義として最も適当だと思う。この調査は、5年に一度総務省が実施している調査で、家計の資産項目をのぞける数少ない統計の一つである。
アンケート調査であり、特に詳細な家計簿をつけさせる手法は信頼性がどうなの問題があるし、何より5年に一度のうえT+2年くらいで公表というしんどい部分もあるが、調査の規模、詳細さ、公表されているクロス集計などの視角の豊富さは、他の追随を許さない。日本の家計について言及するなら、この調査は絶対に外せないナイスな統計である。

さて、この調査は、大きく資産、所得、消費を世帯構造や世帯主属性別に調べられ(個人でない点に注意)、この「所得」には、利子配当所得の項目もあるので、ここから資産所得を確認できるのだ。結論的には下記。データがこう取れたというだけで、そこまで深い意味があるわけではないが、収入階層別にやってみた。

年収階層別利子配当金および家賃地代
(出所:総務省「家計構造調査」

ちょっと見にくいグラフになってしまっているが、政府が想定しているであろう、資産所得=「利子配当金」とすると(青点)、全体平均で2.8万円、全世帯(約6000万)で1.6兆円となった。あと所得が高い層のほうが(僅かだが)利子配当所得が大きい。確認するまでもないようなことだが、こういうことをきちんとデータで確認することが大事だと思う。
また、利子配当所得が合計13兆円という内閣府の調査(前回記事参照)と乖離が大きいが、個人的にはこの数字のほうが直感的にはイメージが近い。詳細は別記事に譲るが、各世帯が株や債券を平均200万円持っていて、企業の配当利回りが1~2%だと年2~4万円配当収入があることになり(利子収入は無視)、なんとなくこの辺になる。 内閣の合計13兆円、一人当たり年間13万円だと、上記計算でいうと、株や債券を600万円以上持っているか、配当利回りが6%ということになり、ちょっとイメージができない。国民経済計算への個人的信頼は厚いのだけど、これについてはアンケート調査の家計構造調査のほうが直感には合う。
もちろん家計が利子配当所得をどのように認識しているのか、非常に怪しいところはある。少なくとも吉野家の株主優待を金銭価値に引き直して利子配当金に含めている家計がどれくらいいるのやら。それに、いくら2014年の景気が良かったとはいえ、配当金額に2倍も差が出るのか?という素朴な疑問もあるが、やっぱ年13万円は、個人が受け取る配当金額としては大きすぎる気がするんだよなぁ。税金考慮したらなおさらである。

また直感に合うという意味では、家賃収入の面ではさらにそう。国民経済計算のデータでは家賃収入等は、利子配当の1/4の3兆円程度だったが、こっちでは完全に大小関係が逆転している、というかまさしく桁違いである。所得第十分位の家賃収入が多すぎる。個人的には、(規模感は分からんけど)絶対配当収入より家賃収入のほうが大きいと思っていて、その点も家計構造調査のほうが直感に合っている。流石に大小の直感は外してないと思うんだけどなぁ。

ま、どっちが正しいかは実際のところどうでもいい。この数字を虚心坦懐に見れば、「資産所得倍増」させると、国民の年収が(世帯あたりだが)2.8万円増えます。月換算で2千のプラス。うーん、中学生の小遣いくらい(問30)か・・・?

第3の定義:国民生活基礎調査

第3の定義、データは、厚労省の国民生活基礎調査である。家計構造調査より粒度は下がるものの、同様のアンケート調査(若干小規模)かつより高頻度で、世帯構造等別に世帯の資産、所得、消費を確認できる。
興味深いのは「世帯員の健康状態」等が切り口になっていること。調査の規模感も若干小規模なので、クロス集計に耐えうるロバストネスがそもそもないような気もするが、使い方によっては結構化ける統計だと思う。ただ最大の欠点は、公表csvがやたら見にくいことか…csvなのにcsvじゃないというか、そのまま統計ソフトに突っ込んでも全くデータ分析できるような構造になってないのは、なんとかしたほうがいいと思う。

さて、このデータには「財産所得」という項目があり、ざっくり定義は利子配当所得+家賃地代収入である。直近値でこの細分化はできないが、資産と財産なんてほぼ同じ意味だろうし、故に資産所得のデータとしてもきっと有用なはずである。結果はこちら。なんか時系列でサクッと取れたので、時系列で出している。

財産所得の推移
(出所:厚労省「国民生活基礎調査」

財産所得=利子配当+家賃地代の直近値は2018年の15.8万円(青線)で、大体家計構造調査と同じ。またデータは古くなるが、過去は利子配当と地代家賃を分けて集計しており、当時は(ブレが大きいが)利子配当が財産収入のざっくり20%くらいだった模様で、現代に引き伸ばすと、利子配当所得は大体3万円。この辺の感覚も家計構造調査と近い。やっぱ内閣府の数字が変なのかなぁ。
さらに本調査で面白いのは、「当該所得のある世帯の構成割合」を所得種類別に取得できるところ。つまり、財産所得がある(ゼロでない)世帯数がわかるのだ。これがこっちのグラフ。

有財産所得世帯割合及び財産所得額の推移
(出所:厚労省「国民生活基礎調査」

この数字は直近で8.3%。つまり、そもそも資産所得がある世帯は、全体の10%に満たない。残りの90%は、資産所得が「倍増」しても、もとがゼロなので、ゼロのままですな。これと裏腹で、財産所得がある世帯に絞って財産所得の平均額を算出すると、財産所得の額は10倍に跳ね上がる。
ついでに、所得階層別の財産所得の状況が取れたので、(家計構造調査との平仄の意味でも)こちらも掲載しておく。これは2018年時点の数字である。

所得階層別財産所得額及び有財産所得世帯割合
(出所:厚労省「国民生活基礎調査」

確認するまでもないようなことだが(2回目)、全体的な所得が高いほうが、財産所得も多く得ている。そして財産所得を得ている世帯の割合も高いし、その中での財産所得額も、全体的な所得額に完全に比例している。

いやほんと、格差云々の話はどうなったんですかね。資産所得倍増の前に大声で謳っていた(そして現在は事実上眠らされている)「令和版所得倍増」は、格差是正策として鳴り物入りで出てきた施策だったわけだけど、その類似の名前を負うもので、同じく鳴り物入りで出てきた「資産所得倍増」は、どう見ても格差是正とは程遠い施策なんだよなぁ。
まあこの2つの施策は矛盾はしないし同時にやればいいんだけどさ、ただでさえ(本筋であるべき)令和版所得倍増は眠らされているし、単純に舌噛むでしょ、このネーミングセンス。このへんがマジでセンス無いと思うわ。政策以前の問題ですよ。

使えない4つ目:国税庁の調査

話が逸れた。最後に使えない3つ目について、メモだけしておく。
国税庁の調査に統計年報というのがあり、そのなかの源泉所得税申告所得税というカテゴリの細目で、所得種類別の統計が取得できる。そこに、配当課税の項目がある。最初に見つけたときは、「これさえあればいいんじゃね?」と思った。
そもそも所得や資産を調べるにあたって、課税当局のデータは基本的に最強である。一番正確だし、事実上全数調査でもある。ただこのデータには唯一最大の欠点がある。法人と個人の区分がされていないのだ。
グラフ化までするのは面倒なのでもうしないけど、このデータでは源泉徴収された配当が37兆円となっている(徴収額自体は4.8兆円)。国民経済計算の数字すら遥かに超えるデータになっており「???」となったのだが、結局法人が受け取った分が含まれていることがその原因だったようだ。法人が受け取る配当利益も、一旦源泉徴収された上で、別に還付手続きを取ることになっているらしい。ただこの統計では、還付手続前の、源泉徴収された時点の法人分の配当についてもそのまま掲載されていると考えられる。全数調査の徒ですな。法人と個人くらい区別しろよ、と思うけど。だからこのデータ、どこにも引用されないんだよ。。。

というわけで、次回に資産所得に関するデータを再度整理して、資産所得の話は終わりにする。




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