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【現代哲学】マルクス・ガブリエル(6)最終回

ついに、「Why the World does not exist」の最終回となります。

今回は、最後のまとめとなる第7章「テレビについて」を取り上げたいと思います。

まず、最初にお約束ですが、哲学を学ぶ時に、絶対に間違えてはならないポイントがあるので、確認です。

問い:なぜ哲学を学ぶのでしょうか?

答え:世の中をありのままに見るため

哲学を学んだ結果、当たり前なことをややこしく説明するようになったら最悪です。

さらに、偏った考えに凝り固まってしまったなら、もはやマイナスでしかありません。

ここを絶対に心得ておく必要があります。

それでは、復習をしてから、内容に入っていきましょう!

復習

まず、今までの復習をしておきます。

この本のテーマは、「存在」です。

「存在」の前提となるのが「領域」です。

「領域」とは、一定のルールが当てはまる物事のグループのことを言います。

例えば

○自然界

○僕の頭の中の世界

○あなたの頭の中の世界

などは「領域」です。

「存在」とは、「領域」の中で、他のものと区別して認識されることを言います。

イメージとしては、領域が白い紙で、存在はその紙に描かれたイラストです。

白い紙があって初めて、イラストは存在できます。

例えば、石ころや雲や空は、自然界という「領域」に存在しています。

僕は今お腹が空いているので、豚骨しょうゆラーメンが、僕の頭の中の世界という「領域」に存在しています。

あなたの頭の中の領域には、何が存在していますか?

ここで重要なのは、「存在」という意味を、「自然界」に限らない、ということです。

だから、サンタさんも、ルパン三世も、ドラえもんも存在しているのです。

ただし、自然界という「領域」ではなく、色々な人の頭の中や、漫画やイラストという「領域」に、です。

これで長年問題になっていた「サンタさんはいるか?」問題は解決です。

答えは、「自然界」という領域には存在しないが、「きみの頭の中」という領域には存在する、ということです。

他にも例えば、嫌な噂を流されて辛い、という行き場のない感情の問題も、一応は解決です。

嫌な噂を流す人の「頭の中」という領域には、残念ながら、「ダメなあなた」が存在しています。

こればっかりはもうどうしようもありません。

しかし、自然界という領域に存在するあなたは、それとは全く別のものとして存在しています。

どうでしょう?

世の中がありのままに、シンプルに見えてきませんか?

これが、New Realism新実在論です。

以上を前提に、導き出される重要な結論が、「世界は存在しない」ということです。

ここで世界というのは、全ての存在を含み込む絶対的な存在・領域です。

なぜか?

「存在する」とは、「領域」の中で他のものと区別して認識される、という定義でした。

全てのものを含み込む絶対的な存在は、ある領域の中で他のモノと区別して認識することができません。

なぜなら、ある領域に含まれているという時点で、絶対的な存在ではなくなってしまうからです。

無限に大きい白い紙は、全てがそれに含まれてしまうので、もはや他と区別して認識することができません。

故に、存在しません。

したがって、全ての存在に当てはまる絶対的なルールは存在しない、ということも言えます。

全てを包み込む絶対神も存在しません。

一神教でも、「神は他のものと区別して認識可能である」とは言わないはずです。「人知を超えた無限なもの」という表現は、「存在しない」、と同義です。

逆に、次のことが言えます。

世界以外のものは全て存在する。

絶対的なものは存在しませんが、それ以外のあらゆるものは、なんらかの領域上に、確かに存在するのです。

ジャンボジジェット機も、相対性理論も、子供の空想も、あなたの白昼夢も、それぞれの領域内で、確かに存在するのです。

世の中の本当のすがた

では、世の中の本当のすがたはどのようなものでしょうか。

ここで、「テレビ」の話が出てきます。

テレビは、画面を通じて、直接目の前の自然界という領域には存在していないものを見せてくれます。

テレビの後ろに、実際に芸能人はいませんが、我々の視覚という領域には、確かに芸能人が存在して、喋っています。

テレビを見ている時、我々の感覚の領域には、自然界には存在しないものが確かに存在しています。

同じことが、聴覚、触覚、味覚、嗅覚にも言えます。

五感に限らず、同じことが思考にも言えます。

自然界に存在していなくても、思考の中に存在しているものはたくさんあります。

それぞれの人の感覚にも、無限の領域があり、その中にも、ありとあらゆるものが存在しています。

結局、世の中には、自然界、感覚、思考の領域が無限に存在し、そのそれぞれの中に無限の物事や領域がさらに存在していることになります。

まとめ

さて、終始一貫した結論に戻ってきました。

○世の中には無限の数の領域があり、それぞれの領域の中に無限に物事が存在している

○全てを包み込む絶対的な領域、ルールは存在しない

他人にとって確かに存在するもの、自然界に確かに存在するものを、自分の見知った領域に存在しないからといって、否定するのは避けたいですね。

この本は、絶対的なものに縛られる呪縛から思考を解き放ち、世の中の無限の豊かさを気付かせてくれました。

本文の最後の単語はinfiniteです。

ガブリエルは、あえてこの単語で終わらせたんじゃないかな、と思います。

ここまでお付き合いいただきありがとうございました。






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