【ビジネスのための現代哲学】マルクス・ガブリエル(1)
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今回、ビジネスに役立つ現代哲学として取り上げるのは、現代哲学のスター、マルクス・ガブリエル氏の著書「WHY THE WORLD DOES NOT EXIST」です。
ガブリエル氏は、ドイツ人で、29歳でボン大学の教授(!)になったという超ド級の天才で、一般向けに書いた上記哲学書は、異例の大ヒットとなりました。
さっそく、その内容をまとめていきたいと思います。
イントロダクション
哲学ってなんのためにやるのでしょうか?
ガブリエル氏の目的は明解です。
世界をありのままに見ること(recognize the world as it is in itself)(p5)
です。
私たちは、常に世界を偏った目線で見ています。
その偏見を取り払い、世界をありのままに見つめられるような思考を身につけること。
それこそが、人生、対人関係、ビジネス、全ての基本中の基本です!
そのためのツールとして、ガブリエル氏が提唱する思考が、新実在論(new realism)です。
New Realism(p5−8)
新実在論について理解する前に、まずは伝統的な世界の見方を整理しておく必要があります。
それは、大きく2つに分けることができます。
1つが客観主義的な見方(metaphysics)、もう1つが主観主義的な見方(constructivism)です。
metaphysicsは、客観的な事実こそが存在するもので、それ以外は単なる主観に過ぎない、というスタンスです。
俗にいう理系タイプという感じですね。
constructivismは、客観的な事実なんて存在しないし、そんなもの分からない。私たちそれぞれの主観こそが確かな存在だ、というスタンスです。
こちらは、文系タイプに多そうな感じですね。
では、これらの見方とnew realimはどう違うのでしょうか?
次のような思考実験をしてみましょう。
富士山があって、山梨県のAさん、東京都のBさんが見ているとします。
そうすると
1 富士山
2 Aさんから見た富士山
3 Bさんから見た富士山
というモノが見出されます。
metaphysicsの人は、存在するのは1だけだ、と考えます。
constructivismの人は、存在するのは2や3だけだ、と考えます。
しかし、これらはどちらも偏った考え方です。
new realismは、1も2も3も存在する、と考えます。
これが一番自然な考え方だからです。
さらに、別の角度から見ていきます。
世界は多様で、何もない(p8−15)
metaphysicsは、世界は1つのルールの元にまとまっていて、全てをそのルールから説明できると考えます。
しかし、そのような1つのルールは存在しない、とガブリエル氏は主張します。
また、constructivismは、世界はそれぞれの人の解釈の中にしか存在しない、と考えます。
しかし、人間の解釈とは無関係に、物理的に世界が存在していることは明らかだ、とガブリエル氏は主張します。
これが、new realismの立場です。
さらに具体例に即して考えてみましょう。
月の裏を飛んでいるペガサスを思い浮かべてください。
思い浮かべたあなたは、metaphysics, constructivism, new realismの立場の人たちに、質問に行きます。
「私が思い浮かべている月の裏を飛んでいるペガサスは存在しますか?」
metaphysicsの回答
「そんなものは存在しない、アンタの妄想だ。客観的には存在しない。さらに言えば、ペガサスを思い浮かべているアンタの意識は、脳の物理化学的な状態の産物に過ぎない。」
ペガサスを否定するくらいなら良いですが、この見方を徹底すると、相当不毛な世界観になってしまいませんか?
生きる意味なんて妄想だ、あるのは分子と原子の振る舞いだ、感情や思考は脳の状態に過ぎない、なんて言われると、そこで話はストップです。
constructivismの回答
「存在するかもしれませんよ、客観的な真実なんてないのだから」
これは、スピリチュアル寄りな人ですよね。
優しいママのように語りかけてくれるうちは困りませんが、「ペガサスはいるかも知れないから月の裏まで探しに行こう」と言われたり、「それはそうと、ここには霊がいる。私には見えるから、たしかに存在している。御祓には100万円かかる。」と言われると・・・。
では、new realismはどう答えるか?
new realismの回答
「存在しますよ!
重要なのは、どこに存在するか?(whetherではなくwhere)、です。
ペガサスは、宇宙(物理法則が支配している時空間のこと)ではなく、アナタの想像の中に確かに存在しています。」
new realismは、「ペガサスはなんてものは空想、妄想で、存在しない。意識自体、脳の物理化学的な状態に過ぎない」、などと言って、話を終わらせたりはしません。
また、「ペガサスは月の裏にいるかもしれない!本当のことなんて分からないのだから。望遠鏡を買って見てみる?月の裏までロケットで探しに行く?」などと言って、想像を現実に引っ張り出したりもしません。
むしろ、想像の世界に寄り添い、「そのペガサスは、どこに行くの?どんな色なの?(あなたの考えを)聞かせて?」と答えるでしょう。
さて、どの見方が世界を一番ありのままに見るのに適しているでしょうか?
以上がイントロダクションでした。
次回以降、詳しい本編に入っていきたいと思います。
お読みいただきありがとうございました。
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