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いいちこ。想い出で割る。

このnoteは、三和酒類株式会社に確認の上、画像掲載しております。


小学生の頃、隣駅の学習塾に通っていた。電車に乗っている間はほんのわずかなのだが、毎日のように電車を利用していた。改札もなく、駅員もいない、いわゆる路面電車。歩いている道路から90度直角に曲がれば、電車のホームがあった。そして、ホームにはいつもあのポスターがあった。

いいちこ。

今もあるのかどうかも知らない。一度も飲んだことがない。多分焼酎だよね、と辛うじて言えるレベル。ただ、ポスターが美しく、新しいポスターに変わるたびポスターの前から動けなくなっていた。

毎日ポスターを見ているうちに、小学生ながら思った。これは企業が広く個人に商品を訴求する手段なのだ、と。

企業から個人への発信があるのなら、逆があってもいいじゃないか。そのうち、個人が企業へアピールする時代が来る。なぜかいいちこのポスターを見ながら、10歳のワタシはそう確信した。

求人広告だって、「こんな条件の人を募集しています」と貼ってある。そのうちの一枚が「私はこんな人です。雇ってください」でもいいんじゃないのかな?

今では、そんなのたくさんあるでしょ?で終わる話なのだけど、何十年も前の話で、JRを国鉄と呼んでいた頃。当然、インターネットもなく、個人発信の広告もなかったと思う。

地域で発行されている情報誌や、「りぼん」や「なかよし」などの巻末コーナーでは、文通友だち募集くらいはあったかも知れない。SNSのない時代。情報発信手段は葉書だった。

そんな時代に、私は自分を売り込む方法をいいちこのポスターの前で妄想していた。

自分でポスター作って、いいちこのように駅のホームに貼ればいいのかな?

自作の本を作って、書店の本の間にこっそり挟めばいいのかな?

広告作って電車のつり革のところに貼ってもらえばいいのかな?

ほんと、ばかみたいな発想だけど、売り込む自分もないくせに、自分を発信する方法を真面目に考えていた。広告というものを意識したきっかけがあるのなら、間違いなくそれは「いいちこ」のポスターだったと思う。


書きながら、ふと懐かしくなって、「いいちこ」で検索してみたらHPが出てきた。しかも、その年代をクリックしたらその年のポスターが観れるようになっている。何年頃に私は見ていたんだろう?

ポスターのリンクは1984年から始まっている。今から40年前だ。私は今ちょうど50歳。もしかしてポスターの初期から目にしていたのかも知れない。

月ごとに観れるようにリンクが貼ってるポスターをさっそくクリックしてみる。

春風が追い越してゆく。

エモい。エモくて涙が出る。

星がでたら飲もう。

お酒も飲めない小学生が、駅のホームに立って毎日ゴッホやピカソばりに見ていたポスター。

春間一壺酒 李白

企業の訴求相手としては間違っていたかも知れないけど、いいちこのポスターは当時の私に間違いなく刺さっていた。

下町のなんとか、という酒。

多分、同世代女子なら共感してくれると思う、銀色夏生さんの詩集。文学的な詩と美しい写真。いいちこのポスターはまさにそれだった。はっとする写真に意味深な文章が添えられている。一気にあの頃に戻った。

白いシャツが似合う酒。

ホームページのリンクは1984年から始まっている。毎月のポスターが観れるなら40年分のポスターを見るだけで結構な時間を費やしそうだ。せっかくなら、飲んだことない「いいちこ」を飲みながら見てみよう。

ポスターを見て40年後。立派にお酒が飲める成人になりすぎてしまった私は、初めて「いいちこ」を買いに行く。企業戦略にしっかりはまった瞬間だった。

いいちこ。風で割る。

#創作大賞2024
#エッセイ部門

このnoteは、三和酒類株式会社のお客様相談室お問い合せページに確認の上、画像の掲載をしております(三和酒類株式会社のご担当者様、問い合わせに丁寧にご対応頂きありがとうございました!!)

ポスターを集めた書籍もあるようです。

・風景の中の思想 いいちこポスター物語(ビジネス社)
ISBN4-8284-0657-3(1942円+消費税)

・風景からの手紙 いいちこポスター物語2(ビジネス社)
ISBN4-8284-0713-8(1942円+消費税)

・透明な滲(にじ)み いいちこポスター物語3(ビジネス社)
ISBN4-8284-0761-8(2381円+消費税)

iichikoのポスターをはじめTVCM等の広告は、アートディレクターの河北秀也さんを中心に、コピーライターの野口武さん、デザイナーの土田康之さんというスタッフで制作されています。カメラマンは浅井慎平さんです。

https://www.iichiko.co.jp/support/faq/?cid=34


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