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コラム0001 現実の現象をデジタル空間で模擬する「デジタルツイン」

 これまでも、計算機上の仮想世界と、現実世界をつなげようという考え方はいくつもありました。1997年から、電子技術総合研究所(現在の産業技術総合研究所)による、「リアルワールドコンピューティング」というプロジェクトが始まりました。最近では、同様の考え方を、「サイバー・フィジカルシステム」などと言うこともあります。
 「デジタルツイン」は、米国防総省のDARPAが提唱した、現実世界の現象を計算機上で再現する考え方で、NASAや大手メーカなどが積極的に取り入れています。たとえば、GEは自社製品のデジタルツインで、常に顧客に納入したものを計算機上で再現できると謳っています。私も、既存のプラントの再現や、まだ存在しないプラントの挙動をシミュレーションするデジタルツインを開発してきました。
 これまで大規模なシステムでは、経験則や統計、室内実験等で得られた知見をもとに、安全係数を取り入れて、安心して動かせるように設計されてきました。しかしながら、新しい材料や機構、未知の環境など、すべてのケースを経験的に知ることは不可能です。特に宇宙開発では未知の環境だらけなので、NASAとしては切実なのだと思います。
 そこでデジタルツインでは、「統計的評価は物理的アプローチの一部でなければならない」という考えのもと、複数の物理モデルを持ち、マルチスケール(いろいろな解像度)で、確率的なシミュレーションを行います。つまり、実機の「デジタルな双子」を作るというわけです。
 私はこの考え方が好きです。私なりに言い換えると、「帰納的評価は、演繹的アプローチの一部でなければならない」となります。異論は多そうですね。

c. デジタルツイン


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