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コラム0111 人と共同でプログラムを書くのが難しい理由

 人と共同でプログラムを書くのは、ものすごく大変なこともありますが、ためになります。若い頃、コンピュータグラフィクスのソフトを3人で開発しましたが、整理整頓・首尾一貫していないと仕事にならないので、ずいぶんスキルが上がったと思います。美意識のぶつかり合いになります。相手に合わせることも必要な場合もあります。いい組み合わせだと投入人数の何倍にも効果が出ることがありますが、一般的にはそうではないようです。擦り合わせに時間がかかったり、スキルの低い人がプロジェクト全体の足を引っ張ったりして効率が下がります。
 うまくいかないことの全ての原因は、意思伝達にコストがかかる割にはうまく伝わっていないことにあります。これはプログラミングに関わらず、どんな仕事でも同じようなことが言えるかもしれません。
 あなたが思いついたアイデアが、上司や部下、作ってくれる人や売ってくれる人、買ってくれる人の脳に瞬時に転送されて同意してもらったら、全てがスムーズに進みますよね。でもそれは不可能なので、上司を説得するための書類を作り、部下に丁寧に説明をして、作ってくれる人にアイデアの詳細を伝えて、売ってくれる人にアイデアのセールスポイントを伝え、買ってくれる人に宣伝しなければいけません。この労力は情報のトランザクションコストと呼ばれていて、GDPの相当部分を占めると概算する経済学者もいます。
 作曲家や画家の多くは一人で作業しますが、ある時、名古屋の現代音楽の作曲家グループの数人が共同で作品を発表したことがありました。セルゲイ・プロコフィエフの『ピーターと狼』のオマージュ作品でした。作品自体は素晴らしいものでしたが、この賛辞や批判は誰が受け止めるのか、責任の所在が曖昧で不満に感じたことがあります。彼らには直接そのことを伝えましたが。
 一方で、工芸や浮世絵などの分野では分業して作品を作り上げるスタイルもたくさんあります。これらの多くは工程が明確に分けられていて、それぞれやることが独立して情報のトランザクションコストが低く抑えられているのだと思います。

c. ピーターと狼


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