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フル2Dアニメーションのプログラミング

 フランスに留学してCGの研究をする機会をいただきました。職場はNATO軍の跡地で、ベルサイユ宮のそばです。フランス人は昔から日本の文化が好きで、黒澤明や小津安二郎などの映画が頻繁に上映され、テレビでも『めぞん一刻』(現地のタイトルは『ロミオとジュリエット』)や『ベルサイユのばら』などの古いアニメも放映されていました。
 あるとき、職場の友人に「ベルサイユのばらってアニメ知ってるか?」と聞いたら、「うん、フランスの有名なアニメだよ」と答えます。たしかにパリやベルサイユ周辺の場面が多く描かれていますし、当然フランス語で吹替されています。おかしくて笑ってしまいましたが、これはすごいことなのではないか、と感じました。黒澤や小津の映画は、どう見ても日本の人物や風景が描かれています。『めぞん一刻』もそうなのかもしれません。日本びいきには受けるでしょう。でも、『ベルサイユのばら』のように、日本で制作された作品でも、ワールドワイドに通用する最強のコンテンツなんだと思いました。実際調べたところ、当時世界で流通している65%のアニメーション作品は日本のものでした。そこで、帰国したらアニメーション作品に使えるプログラミングをしたい、と考えるようになりました。
 帰国してすぐ、国内だけでなく、比較のためにディズニーやワーナーブラザーズなどアメリカのアニメーション制作会社を回っていろいろお話を伺いました。国内の多くの制作会社は都内の西側に集中しています。これはおたがいに忙しいときに融通が利くように自然とそうなったとのことでした。
アニメーション制作は、原作の漫画などがあり、キャラクター設定や色設定などの基本的なことを決めた後、各回の脚本に従って、絵コンテ、原画、動画、彩色、撮影(合成)という作業を経て、BGMや効果音、セリフを入れて完成となります。当時は彩色以降の作業のデジタル化は進んでいましたが、それ以前の工程は紙と鉛筆の手作業でした。原画を担当する人は、完成時の1秒あたり1枚程度のラフな絵を描きます。通常の30分枠のアニメーション作品で、300枚から1,000枚程度になるといわれています。動画を担当する人は、原画と原画の間をスムーズにつなぎながら(中割りといいます)、整った線で動画を作成します。これは3,000枚から10,000枚になります。昔はこの動画をセルと呼ばれる透明なシートに転写して色が塗られていました。現在はスキャナーでパソコンに取り込み、ソフトウェアで彩色します。
 動画作成を担当している人のお給料は、ずいぶん低いそうです。それでもいつかは原画担当、脚本担当、監督へと進む道がありました。当時日本のアニメーションの後工程は海外に外注しているケースが増えており、空洞化が懸念されていました。安いから海外に発注するのではなく、そもそも日本でアニメータになりたい人が減っているとのことです。これはすなわち、原画、脚本、監督に進む人が将来いなくなる、ということで、とてもショックを受けました。
 動画は一枚いくら、という計算でお給料が支払われているケースが多かったようです。だったら、ひとりで10倍描ければ、給料は10倍になって、アニメータになりたい人が戻ってくるのではないか、と考えました。原画までは従来通り手書きで描いてもらい、それをスキャナーで取り込んでベクトル図形でトレースし、自動で中割りして彩色や合成も一気にデジタル化すればいいと思い、プロ向けのアニメーション制作ツールをアニメ会社と共同で開発しました。
 実は、自動中割りは1970年代に一時期ブームになったことがあります。ですが、当時の中割りのための図形の変形方法が単純なもので、ヌメっとした気持ち悪い動きしか得られず、下火になりました。同じ課題へのチャレンジでしたが、変形方法を数種類用意して、なるべく簡単な方法で自然な中割りができる機能を開発しました。作成された映像は、放送レベルに十分達しているという評価をいただいていましたが、技術的な課題というより、昔ながらの工程を大きく変える、というハードルが高く、ソフトウェアをアニメ会社に移管し、私自身は開発から手を引きました。

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