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第42回 清少納言からの筆誅

香子(36歳)の『源氏の物語』が評判になっていった寛弘(1005)年の春、従兄の信経(37歳)が血相を変えて西の対にやってきました。
「香子殿、これを見てみよ」
ふとその冊子を見ると『枕草子』とあります。
※『枕草子』の成立にも諸説ありますが、皇后定子の崩御の長保2(1000)年のあたりから数年かけて書き始めたという説を取ります。

信経が怒りに震えた手で開けた所を見ると、「信経という方の漢字の書風や字体が何とも言えず下手糞なのを見つけたので、『この指示通りにお作りしたら、変てこなものになるでしょうよ』と書き付けて殿上(てんじょう)の間へ届けたので、みんなが手に取って見て、ひどく笑ったらしいのを、信経は大変腹を立てて私の事を憎んだ事です」
と、そんな事が書いてありました。香子は、
「信経様は書がお上手ではないですか。何故このような事を・・・」
「香子、恐らくそなたの『源氏の物語』が評判になっているからであろう。諾(なぎ)子は遠縁だが、遠縁故に妬む気持ちが出たのかも知れない。そなたの夫、宣孝殿の事も書いてあるぞ」
もう何年も前の御嶽詣での事が書いてありました。質素な身なりで行く所を派手な格好で行って、罰どころか逆に筑前守に任じられて得意気になっている変な人ーと笑い者にしていました。
もう故人である夫の昔話を今更の様に悪意のある話として書いてある清少納言に、香子は次第に憤慨して言いました。
「諾子・・・許しませんぞ。信経お兄様、きっと私がこの仕返しをします」(続く)

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