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第59回 源為義、息子に処刑される(4)

為義は、義朝の嘘の助命の言葉に疑いもなく喜びました。
「あわれ、人間の宝には子に過ぎたるものはないのう。子でなければ、誰が身に代えて助けてくれようか。生々世々にもこの恩忘れぬぞ」
為義は涙して、坊主になった頭を下げて息子に両手を合せました。
義朝も涙が出てきました。この嘘はすぐにばれる。しかし僅かでも親孝行を味わう事ができました。義朝は涙を拭って平静を取り繕い、家来の政清を呼び、「これ、父上を東山のお邸まで輿車に乗せてお送りせよ」と言いました。
政清は驚きました。その前に、朱雀大路で斬れという命令を受けていたからです。しかし「ははっ」と言って従いました。これが義朝と為義の今生の別れでした。
為義を乗せた車は当然東山には行かず逆に西に進んでいました。

途中で為義も気づきました。そして真実を言えなかった息子を憐れみもしました。「これなら為朝の進言に従い、六人残った息子たちと矢種のあらん限り戦い、討ち死にすれば良かった」
輿は止まり、政清が震えながら太刀を構えています。
「君命により、お命頂きます。御念仏を」
為義は降りて、座し念仏を唱え始めた。しかし政清は主人に刃を振るえません。見かねて政清の郎党が太刀を抜いて斬りつけますが、暗くて狙いが定まらず、首を外して骨に当りました。為義は振り向き、
「政清、きちんとせぬか。夜が明ければ見物人が増えるではないか」
そしてますます声高に念仏を唱える為義の首は、地面に転がったのでした。

義朝は、届いた血みどろの父の首に手を合せ涙しました。
しかし義朝は更にやらねばならぬ事があります。為義の子も全員殺せという命令なので、投降してきた弟たちを次々と処刑させました。
更に東山に住まう幼い弟4人も家来に殺させました。
一人、十郎後の行家だけが逃げ延び、平家滅亡に尽力しますが、頼朝に疑われ、命を落とします。
「信西、許さぬぞ」義朝はこの過酷な命令を下した信西をいつか殺害する事を決意したのでした。(続く)

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