昨日の夜
僕はじゃんけんで負けた
その瞬間から僕は僕ではなくなった



僕はパーを出し、君はチョキをだした
たったそれだけのことで
僕は鬼になったのだ
それはツノが生えるわけではない
それはいいパンツをはけるわけではない
それは桃太郎に倒されるわけでもない
ただ君を探すだけ
どこかに隠れた君を探すだけだ

「もういいかい」
「もういいかい」

返事がなかった
何度叫んでも返事がない
「もういいよ」
それだけでいい
その言葉だけでも聞かせてくれ
そう思いながら
叫び続けた

「もういいかい」

次第に言葉は姿を変えた
「もういいよね」
「いいの?」
「いいよね」

何度君に尋ねても僕の声は届かない
きっと君は遠くに隠れたのだ
声が届かないような
どこか遠くの方に

ふと昔君とした話を思い出した

君が
すごくかくれんぼが得意だという話だ
小学二年生の頃、友達とかくれんぼをしているとき、誰にも見つけてもらえず、さみしい想いをしたと
僕に教えてくれた
きっと君は小学二年生の頃の君よりもっとすごい、誰も想像つかないようなところに隠れているのだろう

そして僕は走り出した
君を探す旅へと出かけた

近所の公園
スーパーマーケット
コンビニやファストフード店
町のありとあらゆる所をくまなく探した
でも見つからない
君はいない
どこにもいない


どこにもいない君を
ただただ探すだけの日々

いつまでも君に依存してしまう

本当はじゃんけんなんてしていない
君とは5年会っていない
5年前君の家で涙を流したあの日から
僕は君とは会っていない

でもじゃんけんをしたことにすれば
鬼になったことにすれば
君を探す権利を得られる
君を見つける権利を得られる
そう思った

今の僕をみたら
君はどう思うだろう
また僕を好きになってくれるのだろうか
あの日の様に笑いあえるのだろうか

気づけば僕は5年前に涙を流したあの家の前にいた
何度もインターホンを鳴らし
ドアを叩き
君の名前を呼んだ

ふと周りを見ると、人だかりができていた
やけに騒がしい

遠くの方からサイレンの音が聞こえる
次第に音は近づいてきて
すぐ近くで止まった
そしてサイレンの正体であるパトカーの中から
3人の警察官が降りてきた

「君どうしたの?なにしてるの?そんな鬼みたいな顔して」

その瞬間から僕は鬼になった

これからも君を探し続ける
そばに君がいるはずないのに
返事なんてあるはずないのに

「もういいかい」

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