ウエルシアホールディングス株式会社(TYO: 3141)の事業内容と財務分析

 ウエルシアホールディングス株式会社は、僕も利用頻度の高いウエルシア薬局を擁する持株会社です。個人的なことを言えば、ウエルシア薬局では夜間のアルバイトもしたこともあります。保険調剤のみならず、OTC医薬品や健康食品などの取り扱いについて、一通りの実務を学べたことは、僕にとって貴重な経験となりました。

 余談ですが、ウエルシア薬局で働かせていただいた際、当時の勤務メンバーと学会発表も行っています。僕が勤務していた店舗は夜間休日急患センターの処方箋も応需しており、その処方内容から抗菌薬に関する患者満足度調査を行ったものです。

 前置きが長くなりましたけど、この記事では、ウエルシアホールディングス株式会社の2020年3月1日~2021年2月28日事業年度の有価証券報告書、並びに2022年2月期 第1四半期決算短信をもとに、同社の事業内容や財務状況を考察していきます。

事業ポートフォリオ

 ウエルシアホールディングスは関係会社14社(連結子会社11社、非連結子会社2社及び関連会社1社)により構成され、「ドラッグストア」を基本として、医薬品・衛生介護品・ベビー用品・健康食品、調剤、化粧品、家庭用雑貨及び食品等の販売を主たる事業とする小売業を展開しています。ウェブサイトにはドラックストア事業介護事業海外事業と、3つの事業が紹介されていますが、有価証券報告書上は小売業の単一セグメントとなっています。

 ちなみに海外にもウエルシアがあったとは知りませんでした。在外子会社はWelcia-BHG(Singapore)Pte.Ltd。シンガポールで店舗の展開をしているようです。日本のドラックストアチェーンの海外展開は今後の成長戦略には欠かせないものだと思いますので、ぜひとも応援したいところです。

経営方針

 経営の基本方針は『お客様の豊かな社会生活と健康な暮らしを提供します」という企業理念のもと、4大方針(「調剤併設」、「カウンセリング営業」、「深夜営業」及び「介護」)を軸としたウエルシアモデルを推進し、地域社会に貢献する「かかりつけ薬局」の実現を通して社会の求める価値を提供する企業として成長を追求』とのこと。また、具体的な経営指標は以下の通りです。

中期計画(最終年度:2023年2月期)
売上高   1兆800億円
経常利益  540億円(経常利益率5.0%)
店舗数    2,308店舗

  生活のプラットフォームという意味では、コロナ禍において、ウエルシア薬局をはじめとしたドラックストアの存在感は一段と増したように感じています。経常利益率5%という数値目標が企業の成長を裏付けるだけの目標値になり得るのかについては議論の余地があるかもしれません。ただ、小売業の経常利益率は全体的に低く、1.5%ほどが平均といわれている中で、5%はまずまず妥当な数値目標なのかもしれません。

事業リスク

 主な事業リスクは、調剤過誤や薬剤師の確保、法律に関連した事項など、他の調剤事業と重複するものが多いです。また、大型の店舗を数多く有する同社は固定資産の減損リスクも大きいかもしれませんね。ただ、これは他のドラックストアチェーンでも同じでしょう。その他、特筆すべき事業リスクは見当たりませんが、小売業全体として「新型コロナウイルス感染症の影響によってもたらされた景気変動による業績悪化リスク」については、今後の感染動向に大きく左右されそうです。

 ちなみにウエルシアホールディングスの株式は、その50.6%をイオン株式会社が保有しており、名実ともにイオンのグループ企業となっています。そういえばトップバリュー製品も扱っていますよね。これがなかなか便利です。

事業セグメントの状況と業績推移

 連結会計年度(2020年3月1日~2021年2月28日)における売上高は949,652百万円営業利益は42,974百万円(営業利益率4.5%)経常利益は45,800百万円(経常利益率4.8%)親会社株主に帰属する当期純利益は27,999百万円となっています。経常利益率は4.8%と目標値まであと少しという状況ですね。

 一方で、2017年2月から2021年2月までの利益率(親会社に帰属する当期純利益/売上高)の推移は、2.3%→2.5%→2.2%→2.6%→2.9%とやはり低空飛行な印象はぬぐえません。また経時的に従業員の数が増えている点も気になります。おそらく店舗拡大や夜間営業の拡充に伴う薬剤師の確保によるものなのでしょうけれど、2017年の6,776人に比べて、2021年では11,708人と大きく増加しています。

 損益計算書に目を通すと、販売費および一般管理費で目立つのはやはり「給料」です。売上総利益が296,044百万円に対して給料は99,485百万円賞与は4,068百万円と、その割合は35%です。マツモトキヨシホールディングスの売上総利益に占める給料と賞与の割合は30%ほどですから、同業他社に比べるとやや高い水準と言えるかもしれません。

 薬剤師からすればお給料がたくさんもらえる方が良いわけですけど、持続的な経営という観点からすれば、人件費の負担は小さくない問題です。実際、同社は膨らむ人件費に頭を抱えているようです。

キャッシュフロー

 営業活動によるキャッシュ・フローは46,396百万円投資活動によるキャッシュ・フロー△16,147百万円財務活動によるキャッシュ・フロー△16,970百万円となっています。投資活動は主に有形固定資産の取得に関わるもので、その額△13,638百万円です。やはり設備投資が多いのかなぁ、という印象ですね。借り入れと返済は同額という状態です。

貸借対照表

小売業だけに流動資産で最も多いのが「商品」で、103,283百万円。ちなみに有形固定資産の建物および構築物に計上されている額が160,562百万円ですから、商品在庫の多さが良く分かると思います。商品は減価償却として費用化しませんが、減耗損評価損を生じるリスクがあります。できれば少ない在庫で、キャッシュを多めにプールできる財務が健全ですけど、扱う商品の品目数が多いドラックストアでは、致し方ない側面でもありますね。

2022 年2月期 第1四半期 決算短信

 2022年2月期 第1四半期決算は、売上高248,861百万円(対前年同四半期増減率7%)、営業利益7,282百万円(対前年同四半期増減率△30.8%経常利益8,851百万円(対前年同四半期増減率△21.3%親会社株主に帰属する四半期純利益5,307百万円(対前年同四半期増減率△19.6%)と増収減益となっています。経常利益率は3.5%となっており、目標値の5%から遠のいてしまっています。一方で販管費は前年同期比で8338百万円増加しており、これが営業利益を圧迫しているのは明らかでしょう。

 同社は経常利益率5%を目標に企業を運営しています。その経常利益率が目標に近づくどころか前年同期比で低下し、加えて人件費が増えているとなれば、経営陣はどう考えるでしょうか。今後、人件費の削減策を同社がどのように打ち出していくかという点は、就職を考えている薬学生にとっても重要なポイントかもしれませんね。

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