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俺たちはドキドキしている

気づけば300球投げ、

ノックを打ち、

大声を出して鼓舞をしていた。

自分が監督を務める野球部は翌日に試合をひかえ、最後の調整の練習をしていた。

弱小とまでは言わないまでも、進学校であることもあり戦力はまばら。当然、甲子園は夢みるものでリアルではなく、「目の前の1勝」が最大の目標である。

練習メニューは非常にシンプルで「フリーバッティング(通常の打撃練習)」「ノック」。時間にして2時間半の練習だ。

それほどハードな練習じゃないけれど、暑さが「まさに夏!!」と呼べるような炎天下。入道雲とブルースカイに太陽。残酷なほどに美しい。

そんな環境のもと、フリーバッティングで部員全員に15球ずつ投げ込む。自分で投げることによって、15球の中にメッセージを込めたり、コミュニケーションをしたりすることができる。

この日は試合前ということもあり、ややスピードは速め。その上で打てるコースで勢いづかせて、変化球や苦手なボールを織り交ぜつつ、最後は最後は気分良く打たせて終わる。これが一つのプランである。

打てるコースが限定されていて、かつ体に近いインコースが得意な選手にはデッドボールを投げるわけにはいかないので慎重になる。この日は体がよく動いていたのである程度投げられたのでホッとした。正直、インコースを投げる時には「ちゃんと真っ直ぐ行ってくれー」と思いながら投げている。

打撃はいつも通り。想定した打順で問題ないだろう。

もうこの日は選手も自分もハイになっていて、一つ一つのプレーに力が漲っている。こうなると体力の消耗も激しくなるので、10分休憩を3回入れている。

「ナイスバッティングやったな。明日は頼むで」

「次のノックこんな感じでやろか。あとはどんなん入れたい?」

などと休憩中に打ち合わせしつつ、ノックで締めて練習を終えた。


こんな気分のいい練習はいつぶりだろう。

まだまだ荒削りで、うまいとは言えないけれど、全力で取り組む生徒たち。そんな彼らにボールを投げ、コミュニケーションをとり、ノックを打っていると同調してくる部分もあるのであろう。気づけば自分も汗だくになって野球をしていた。

彼らを見ていると、「野球が好き」「野球面白い」という気持ちが伝わってくる。

「自信がある」わけではない。

「絶対勝てる」という奢りもない。

目の前の試合にドキドキしている。

うまくいくかどうかわからないけど、この高ぶりを抑えられない感じ。

「初恋か!!!」と突っ込みたくなるのだが、実は自分もドキドキしている。

試合がどうなるかはわからないけど、試合前日の雰囲気に「部活をやること」の目的はかなり達成されているんではないかと思う。






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