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【ひとり空間の都市論】行き来する〈ウチ〉と〈ソト〉

ひとり空間の都市論を読んで1か月以上経っている。

この本のことが頭の片隅から離れることがない。

ひとり空間を求め、ひとり空間を作り出し、ひとり空間を生きる

自分が生きてきた34年間の人生そのものではないかと感じたからだ。

結果よりも試行錯誤

自分はイチロー選手と野茂英雄投手に影響を受けて野球を始めた。何か始めるときには憧れがあって近づくために行動を起こすことが多い。

野球を始めてからはテレビや雑誌からの情報を集めては「こうすれば近づけるかもしれない」と朝と夜に練習をするようになる。本書でいうところの「ひとり空間」であり、誰にも邪魔されず自分なりに考えて試行錯誤する時間がとても好きだった。

この「ひとり空間」は父親からの離脱の効果もある。理不尽で何を言い出すかわからない父親といかにして距離をとるか。それはスマホもネットもない当時の自分にとって、父親に何も言われずに離れられる貴重な時間であった。

このように自主練習というのは家族という〈ウチ〉から道路という〈ソト〉へ飛び出すための口実でもあった。

中学高校と府大会は優勝して近畿大会などに出場することはできたが、全国には届かなかった。でも当時は結果が欲しいというよりも「この練習をしたら自分の体はどう変化するんだろう」「もっとこうすれば打てるようになれるかもしれない」と"調べて試す”という日々を楽しんでいた。

全体練習よりも個人練習。学校管理下よりも誰も見てないところ。つまり〈ウチ〉よりも〈ソト〉の時間を作り、充実させることがライフワークだったと言える。

こうして親と指導者から離れ、「ひとり空間」で培った知識と経験と技術の積み重ねが体育教師の仕事をするうえでのベースとなっているし、運動は結果よりも大事なことがあると言える根拠にもなっている。

RPG(ロールプレイングゲーム)

浪人して宅浪という壮大な「ひとり時間」を満喫したあとに、晴れて大学生となる。

実家の駅前には大抵のものは揃っている。駅近くに住んでいたため、「飯・風呂・寝る」というドラクエの教会としての実家を拠点にして、チャリで少し漕げば様々なものにアクセスできる環境を存分に活かして20代を過ごした。

この街は、部屋を拡張する機能もあれば、その場所(ジムや店)に行けば家とも勤務校とも違う世界があって居場所がある〈サードプレイス〉的な機能もある。

ゲオとブックオフは自分の本棚だと思っていたし、ジムに行けば体を絞ることもできる。街に出て経験値を積むことで教師としてのレベル上げをしている感覚もある。
行きつけの古着屋はクドカンドラマの溜まり場のような場所で店長や常連の仲間で音楽やアメリカカルチャーなどを語り合ったし貴重なスケボー仲間でもあった。小さな店でも、世界観があり、人間関係を深めれば新しいシナリオが動き出す。

街というフィールドでRPGをしているような気分で〈ウチ〉と〈ソト〉の行き来や、匿名性のもとで〈ひとり空間〉を過ごしていたと思う。

チャリで〈ソト〉へ離脱する

20代はスマホを持たないこととLINEをしないことの2つをマイルールとしていた。ネットを通じてつながることを極端に嫌っていたからだ。アクセスはチャリでその場所に行くのが常だった。ケータイを持たずにウォークマンで音楽を聴きながら移動していた中学時代から変わることない習慣だ。

基本的には連絡を取らないし、予定も組まない。飲み会の予定も職員室の会話からの流れが多かったし、古着屋の仲間とも店にふらっと訪れたときに予定が合えば飲みに行くこともあるし合わなければ映画館へ行くというような感じだった。

ネットを連絡で使わず、自分が移動することで〈ウチ〉から〈ソト〉への離脱が容易になることに気づいていたのだと思う。

リアル空間の縮小とネット空間の拡張

30歳になる年に結婚し、翌年に子どもが産まれた。その過程でスマホが必要になり、購入することになった。

それは奥さんとの連絡用でもあるのだが、それまでのように外出できなくなり、今までやっていたことをネット空間に置き換えていく必要が生じたからだ。

本棚とゲオはkindleとネトフリとYouTubeへ、飲み会や古着屋といった溜まり場のかわりにSNSとオンラインサロンに交流を求めるようになった。

家にいる時間の〈ウチ〉の世界から細切れでおとずれる〈ソト〉の時間。その時間をスマホを相棒にして「ひとり空間」にしていく。

その時間では「発信する」ことで自分のレベルを上げたり、新たな交流を生み出そうと試行錯誤している段階である。

この時間がないと正直、結婚生活はきつい。この時間があるからこそ家族も仕事も大事にできる。〈ソト〉に逃げられる安心感が〈ウチ〉の時間に余裕を与えてくれている。

今後の展開

今後、幼稚園や習い事など娘を外部接続させて自分に「ひとり空間」が生み出されるようなこともあるだろう。自分が動き回らずとも、相手に動かさせて自分がひとりになる展開も悪くない。

ひとり空間を求め、ひとり空間を作り出し、ひとり空間を生きる

そんな性分はこれからも変わらないと思う。〈ウチ〉と〈ソト〉を行き来できるからこそ〈ウチ〉に過度な期待もせず、優しくいられるのだから。

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