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マジックアワーの空に。

                《875文字》

FUJIFILMのミラーレスを空に向けて、染まっていくマジックアワーの空を撮る。
ファインダーを覗く私の頬を、生温かな一筋がつたって落ちる。

あの人の好きな色は青色だった。

私の好きな色は赤色だと言うと、あの人は

「混ぜたら綺麗な色になるね、ほら、マジックアワーの空みたいな。」

と、優しいこと言ってくれた。
あの人の言葉が好きだった。

夢中になって撮る写真は、いつの間にか、あの人にも見せたい景色や花や鳥ばかりになって、

「あなたらしい写真だ。ひかえめで、可憐で、小さな幸せがたくさん詰まっている。」

と、あの人は素敵な表現で褒めてくれた。

私と違ってあの人は、いつも冷静で、いろんなことを知っていて、私はまるで子どもに戻ったみたいにあの人のそばを離れなくなって、

「かわいい人だ。」

と、あの人も微笑みながらそばにいてくれた。

春に咲いたスズランの花を、

「あなたに似ている花を見つけました。」

と、ポストカードに鉛筆やパステルで描いて送ってくれた。あの人らしいタッチの、誠実で優しいスズランの絵を、部屋の一番いい場所に飾った。

あの人の青を、私の赤で染めすぎてしまったのかもしれない。連絡は少なくなり、写真を見せてもあの人らしい言葉で褒めたりしてくれなくなった。

あの人のアトリエには、アマリリスが揺れて、甘い香りがたちこめ、バーミリオンの絵の具が、頬に、額に、髪についても構いもせずに、取り憑かれたように絵筆を握るようになった。

艶やかで華やかなアマリリス。
あの人は夢中になっていった。

マジックアワーの空は綺麗で、青と赤がうまく溶けて、新しく買ったオールドレンズに馴染む。
ボケの強いレンズのせい。泣いてなんかない。

あの人が送ってくれたスズランのポストカードの消印は5月1日で、その日のことを知ったのは、私があの人から離れたあとだった。純白の花びらとうつむく愛らしいスズランを大切な人へ贈る日。スズランの日。

開けていく空に、透けていく青。

大丈夫、出来上がった写真は、きっと今ほどボヤけてはいないはず。
私はもう、私の好きな写真を撮る。
他の誰でもない、
私の好きな景色を切り取っていく。



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こちらの企画に参加させていただきます。
青豆ノノさんの生ボイス告知より、やってまいりました。課題曲「ブーケ・ドゥ・ミュゲ」を聴きながら、とある思い出がよみがえり、インスピレーションで小説にしてみました。
どうぞよろしくおねがいいたします🎧


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