21.足が痺れる

 長い時間、正座をしているとどうなるか。
 感覚を失っていることに気づきもしないまま、いざ立とうと思った時に立てないはずだ。

 ――集中することの沼がここにある。

 立ち上がるという、ついさっきまでできていたことすらできない。
 人はこれを笑って見ているけれど、自分にとっては笑いごとではない。為す術もない時間を過ごすしかなく、なによりも恥ずかしい。

 途方にくれながら過ごす一週間はあっという間であり、私の足を痺れさせるには十分な時間だった。

「進捗は何も進んでいません……」
 蚊が鳴くように絞り出された言葉。この一言に私の一週間が詰まっていた。決して何もしなかったわけではないが、事実としては何も進んでいない。藻掻けば藻掻くほど、深みにハマっていた気分だ。

「そうだと思ったよ」
 ただ、岡田先生はビデオ通話の画面越しで穏やかに笑っていた。
 私は「どういうことですか?」と聞かずにはいられなかった。まるで知っていたかのような口ぶりであるからだ。
「この課題は今までとは目線が違うんだ。今までが精巧な一つ一つの部品を作っていたとしたら、今回は『車を作ってね』と言われた感じじゃないかな」
 確かに私の頭の中は漠然としていた。車を作ることは知っていたが、軽自動車なのか普通車なのか、はたまたスポーツカーなのかも定まっていない。これで車を作るとはどういうつもりだったのだろう?と自分に自問自答したくなる。
「堂城くんは設計書なしでプラモデルは作れるかい?」
「無理です」
「プラモデルにかなり慣れた人なら無しでも作れるかもしれない。だけどやっぱり設計書は必要だと思うよ」

 岡田先生の言いたいことは十分に伝わった。
 私がやろうとしたことは部品を無理に繋ぎ合わせようとして、形にならない車を作ろうとしていた。
 どういう規格で、どういう性能を持つものを作りたいのか。まずはノートにまとめてみよう。

「あ、ちょっと待った」
「なんでしょうか」
「かなり課題について頑張ってくれているし、少し休憩も入れた方がいいと思うよ。堂城くんは最近、自分の好きなことはできてる?」
「そういえば……」
「だよね。堂城くんからゲームの話が全くでなくなったからさ」
 ロールプレイングゲームの世界で物事を考えようとするのは自分の得意分野だった。しかし、肝心なゲームはここ最近で全くと言っていいほど手つかずになっていた。心の余裕がなくなっていたのかもしれない。

「岡田先生!」
「はい、なんでしょうか」
「今日はちょっとゲームしてきます!」
「はい、いってらっしゃい」

 息抜きを忘れるほど集中できる時は、基本的に楽しい時だ。
 無理やり奮い立たせた集中力は長くは続かない。だから今日私は思う存分ゲームをしよう。
 ――足の痺れは頑張った証だ。

--------------
登場人物
IT戦士を目指す人 堂城一斗(たかぎ かずと)
アカデミー事業部臨時講師 岡田啓介(おかだ けいすけ)
※この話は完全なフィクションです。
--------------

毎週木曜日19時40分更新!

IT道場
IT道場はIT業界への就職を目指す、プログラミングスクールになります。
興味を持たれましたら是非ホームページをご確認ください!
https://sy-it-dojo.studio.site/

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?