27.NeverEndingStory

「あ、そろそろ部屋閉めるよ?」

 確かに毎日同じような言葉を言われているが、これは決してループものの物語ではない。

 テストの消化率は上がっているのにバグの数は依然として放物線を描いてはくれない。まるでこれは私の伸びしろだと言わんばかりに右肩上がりの真っすぐな線が引かれている。

 私はウォーターフォールモデルにいる魚であり、何度目かの滝登りを成功させている。鮭界隈ではきっと期待のホープだろう。

 そんなこんなで日々は無情にも流れていった。

「僕は堂城さんの課題を最後まで見られなかったことが心残りです」
 教室で少し笑いが起きる。いつの間にか片言ではなくなった流暢な日本語で、楊さんは別れの挨拶をしていた。
「これまで大島塾長や岡田さんがたくさん相談に乗ってくださったおかげで、本日IT道場の卒業を迎えることができました」
 二人から「何も教えてないよー!」という野次が飛ぶ。
「確かに、実際には確認が多かったかもしれません。ただ、教室にこようと思ったモチベーションを保てたのは、IT道場の人たちのおかげです。そして教室にいる同じ受講者とのかかわりのおかげです」

 楊さんの思いのこもった別れの言葉であった。
 大島塾長はハンカチを手放せなくなり、岡田さんは常に頷いて見守っていた。上村さんも笑顔で楊先輩を見送った。
 
 こうして卒業式は幕を閉じた。

「あらためて卒業おめでとうございます。就職も無事に決まったんですよね」
「はい、そうです。ありがとうございます」
……
「楊さんが最強にこだわる理由ってなんですか?」
 楊さんは面を喰らったような顔をした後、自信を持ってこう言い切った。
「昨日の自分を超えることです。どんなに辛いことがあっても経験値なことに変わりないです。だから僕は今の自分が最強で、明日は今の自分よりも最強です」
 
 日々、自分をアップデートできること。言うは易しであるが、楊さんがそれを実践している姿を私はこれまでずっと見てきていた。
 私は楊さんのことを素直に尊敬しカッコいいと感じている。

 だからだろうか、楊さんとの別れ際に私はこう宣言した。
 
「私も『最強のエンジニア』を目指します!!
 今までありがとうございました。大変お世話になりました」
「頑張れ、堂城さん」

 生まれて初めて、自然と体が動いた最敬礼であった。

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登場人物
最強のエンジニアを目指す人 堂城一斗(たかぎ かずと)
アカデミー事業部受付担当 上村桃香(うえむら ももか)
アカデミー事業部塾長 大島 英雄(おおしま ひでお)
アカデミー事業部臨時講師 岡田啓介(おかだ けいすけ)
生徒 楊(よう)卒業
※この話は完全なフィクションです。
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