22.別れは突然に
『晴子さん、ご卒業おめでとうございます。とても親身なってくれてありがとうございました』
この言葉を私は伝えたかった。
でも伝える時はやってこなかった。
受講者のタイミングは様々だ。一人一人いつ入ってきて、いつ去っていくのかわからない。だからこそ、「晴子さんいつ卒業ですか」と聞いておけばよかった。後悔とはこのことだろう。
でも最近はプライベートなことを聞こうとすると、セクハラだとか、モラハラだとか、パワハラだとか、『何とかハラ』で溢れている。だからみんな臆病にもなるし、疎遠にもなる。きっと昔は声掛けを失敗しながら、人とのコミュニケーション力を成熟させていったのだろう。
でも今はその機会すら作れない。モラルを実践で学ぶ機会がないのだから、これから先もっと『何とかハラ』は増えていくに違いない。ただ、モラルの無い人から守るための盾であるということはわかっている。他人がモラルを学ぶための被害者には誰もなりたくないからだ。
「晴子さん卒業しちゃったんですね」
「そうだね。ちょうど堂城くんが休んだ日が晴子さんの卒業日だったんだ。晴子さんが『堂城くんがんば!』って伝えてほしいって言っていました」
「楊さん、伝言ありがとうございます。あっという間でここでお話していたのが昨日のことのように思えます」
「僕も来月の今日卒業となります。今度は堂城くんが皆の先輩となりますね」
私は乾いた笑いしか出なかった。立派な先輩になれるのだろうか。後から入った御柳さんの方が先輩っぽいような気もしてくる。
「堂城くん、自信をもって大丈夫です。えーと、トラップに引っ掛かった人の方が強いです」
「それは躓いた人の方がってことですね」
「そうです。それです」
確かに経験値が積まれている実感はある。
「ぜひ楊さんの卒業の際には見送らせてください!」
「もちろんきてください! 堂城くんありがとうございます」
会話って難しいけれども、人にとって大切だ。
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登場人物
IT戦士を目指す人 堂城一斗(たかぎ かずと)
生徒 晴子(はるこ)卒業
生徒 楊(よう)3ヵ月生
※この話は完全なフィクションです。
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