32.何を伝えたいか--終着点--

「それじゃ良さが生きない」

 私はもう何度目かわからないダメ出しを受けていた。

「どういう思いがあってその機能を実装したのか。それをプレゼンターとして訴えかけないで、機能の説明だけをされても『おっ?』とは思わないし、オブザーバーの方が質問したくなるような気持ちにはならないよ」

 大島英雄塾長。普段は講師の岡田先生に一任している姿しか見ていなかったが、今日この日は違った。

「堂城くんはロジカルシンキングができている。でも『ここは目玉だよ』と思わせることで、『質問を局所化してその回答をあらかじめ用意しておく』と言った会場をコントロールする力も大事なんだ」
「会場をコントロールですか……」
「そう、その質問を誰かがしてきた時に『よく、聞いてくれました!これはですね……』と楽しくハキハキと話す。これができるだけで、その物の価値はグッと上がるし、質問を生かしてオブザーバーの心を掴める」

 塾長はサラッと言っているが体現するにはとても難しいことだろう。

「意図した質問がされなかったらどうしますか?」
「そこは会場の雰囲気にもよるがパフォーマンスだよ」
「パフォーマンス?」
「そうだな~。実はですね……私はこの機能について突っ込んでほしいと思っていました。それは○○です!というように、急に機能の説明を始めるのではなく、この一言があるだけで人は注視してみようという気持ちになる」
「臨機応変ということですね……」
「いやいや、プレゼンというのは試合前に勝負は決まっている。どれだけ準備できたかどうかだよ」
「つまり、その一言だったり、間の取り方も準備をしておくのでしょうか」
「YES!大正解!!」

 準備期間がすさまじいものになってしまうのではないだろうか。

「つまり、資料作りには終わりがない?」
「堂城くん、冴えてるね!そう、終わりがない。だから、資料作りに時間が余るなんてことはないし、時間が許す限り突き詰められるものだよ。現場では突き詰められる時間なんてないかもしれないけど、普段から意識していれば、どの部分が発表の肝なのかが見えてくる」

 奥が深い……。

――そして、早くも当日を迎えた。

 ここからの物語はとても駆け足だった。

 悩みながらもじっくりとコーディングしていた頃と比べて、全てがスケジュール通りに進行したからだ。発表の準備と就職準備。人と人が連携しながらスルスルと進んでいく。IT業界への就職が遠かった自分はもういない。今ならできないならできないなりにやるべきことを見つけられる。そして、できるように覚えればいいことを知っている。

 IT道場の講師や現場で働く社員の前で私の発表は開幕した。

『RPGから学ぶプログラミング用語検索』
 
 私は全くと言っていいほどIT用語を覚えられず、理解するのに苦戦した。そして、その苦戦はイメージのできないカタカナ用語だ。勿論、なんとなくは英語だから意味はわかる。けれども、イメージができなければその言葉を自分の口で説明することができなかった。

――だから、私の覚え方は自分の好きなもの(ゲーム)と紐づけた。

「皆様、これは私の脳内のITの物語でございます」

 できる人には『くだらない』と思われてしまうかもしれない。でも、私と同じように苦労している人の力に少しでもなったらいい。

 そんな私の思いが込められた作品であり、発表だった。

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登場人物
IT戦士を目指す人 堂城一斗(たかぎ かずと)
アカデミー事業部塾長 大島 英雄(おおしま ひでお)
※この話は完全なフィクションです。
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