①ジョイニング過程について


はじめに
 家族療法やシステムズアプローチでは、来談者と家族からなる、家族システムを対象としています。そこへセラピストが合流して治療システムを形成していくことで、セラピストは家族システムと治療システムという複眼的観察(東,2018)を活用しながら面接を進めていきます。
 また、個人の内界を対象としてきた多くの精神療法や心理療法とは異なり、個人間の相互作用やとその関係を対象としている家族療法やシステムズアプローチでは、実際に複数の来談者と家族とやりとりをするという大きな違いがあります。そこで、来談者と家族の動きや個々人が持っている枠組み(個人のそれぞれの意味づけ方や認知的なフレーム)に合わせながら、治療システムを形成していく土台となるジョインニグが重要になってきます。

基本的な面接過程
 吉川(1993)は、システムズアプローチの面接過程について、基本的には「情報収集→仮説設定→介入→そして再び情報収集」であり、面接一回では「ジョインニグ→情報収集→仮説設定→介入」であり、面接全体では「治療システム形成→情報収集→仮説設定→介入の下地→介入→治療システム解消」としています(引用元では治療過程という表記ですが、ここでは面接過程としています)。
 また中野(2017)は、セラピストの視点から見たシステムズアプローチの面接過程を、「0)事前情報からの仮説設定→1)やりとりを開始し、治療システムを形成する→2)情報収集→ 3)仮説(アセスメント)の設定→ 4)介入の下地作り過程→ 5)治療的介入→6)変化を増幅し、問題のシステムを解消する」としています。
 これらを参考に、ここでは面接過程を「①ジョインニグ→②情報収集過程→③仮説設定過程→④介入の下地作り過程→⑤治療的介入→⑥継続または終結過程」と定義します。

初回面接
 初回面接が重要なことは学派やアプローチに限らず共通してます。システムズアプローチで初回面接が重要な理由には、第一にセラピストが家族システムに合流する前の家族の働きを観察できる貴重な場面のため、第二に初回面接でどのような治療システムを形成していくかが今後の面接の展開に関わるため、第三に初回面接は来談者と家族の期待と不安が高まっているため、などが考えられます。
 吉川(1997)は、“初回面接は、治療システムに合流する前の家族システムを観察できる貴重な場面である。この観察から「基本情報」を、面接の継続ごとに「追加情報」を情報収集しながら「変更情報」を集めていく。”と述べています。このように初回面接は、治療システムに合流する前の家族システムを観察できる場面であり、この観察からなる「基本情報」が、今後の面接の展開の基となることを理解しておく必要があります。
 また、初回面接の前に、セラピストが持っている事前情報は、セラピストの仮説の基になり、初回面接でどのような治療システムが形成できるかにも影響を与えます。こうした事前情報には来談者と家族が置かれている状況や背景、それに伴うニーズや期待、過去の対処法といった情報が含まれていることが多くあります。こうしたこと留意しながら初回面接に臨む必要があるといえます。

来談経緯と主訴の一周
 初回面接の来談者がひとり(個人面接)なのか、複数(複数)なのかでも面接の進め方が変わってきます。基本的な進め方として、個人面接の場合は来談者の主訴を、複数面接の場合は来談経緯を手掛かりに面接を展開していくといえます。
 例えば、複数面接では、セラピストが家族全体を見渡しながら「今日はご相談にこられたことについて、どなたからでも結構ですので教えてもらえますか?」などと投げかけ、家族全体の反応を観察しながら、来談経緯を軸に初回面接を展開していく方法があげられます。その時に、「社交の窓口」や「問題の窓口」と呼ばれる役割に留意する必要があります。「社交の窓口」の役割を取っている人は、挨拶や家族紹介などの話を担当し、「問題の窓口」の役割を取っている人は来談経緯や現在問題とされていることについての話を担当することがみられます。複数面接では、こうした家族のルールや役割に注意しながら進めていく必要があります。
 また、個人面接では、「今日ご相談にこられたことについて、あらためて教えていただけますか?」などと投げかけ、来談者の訴えを軸に、来談者がどのような状況や立場にあり、どのような負荷があり、どのように困っているのか、そして何を一番に訴えたいのか、をまずは理解し、そこから面接の目的やニーズを共有し(探り)ながらを面接を展開していく方法があげられます。この時、来談者が初回面接で一番分かって欲しいポイントをしっかりと把握することが重要となります。そして、そのポイントを来談者が主訴についてひと通り話し終えたタイミングで断定ではなく、よりその主訴のポイントについて語れるような投げかけの形で応答することがポイントになります。このように、主訴を一周することで、面接の目的やニーズを模索しながら、これから面接を進めていくために分からないことを教えてくださいというように自然な流れで、情報収集過程に入っていくことができます。
 余談ですが、期待と不安が入り混じる初回面接で主訴を分かりやすく語れる来談者はほとんどいません。相談に来るということは、何かしら情緒的な不安や混乱を伴っている方が自然な状態です。そして、来談者はセラピストに分かってもらおうと必要なことを語ろうとしているのです。考え方を変えると、来談者が語る主訴が長過ぎたり短過ぎたりすることは、セラピストの反応がそうさせているとみることができます。
 セラピストが主訴のポイントに外れた反応(とくに非言語に注意したいです)ばかりしていれば、来談者は分かってもらえなさから、話題を変えていろいろなエピソードから主訴を伝えようとするかもしれません。また、セラピストが分かったつもりになって来談者の話題を早急に打ち切ってしまえば、来談者はそれ以上語る必要がないと思い、その話題から伝えたかった主訴のポイントを語らなくなってしまうかもしれません。
 こうした来談者⇄セラピストという相互作用を、セラピスト自身の枠組みと振る舞いに対して、来談者がどのように応答しているのか、その応答(来談者からの要求でもあります)にセラピストがどのよう応答(セラピストからの要求ですもあります)しているかという要求⇄応答のキャッチボールとして、面接場面で起きていることを捉えていくことは人間関係を語用論的に読み解く第一歩だといえます。

ジョイニングについて
 東(1993)は、“ジョインニング(joining)とは、構造的家族療法の創始者であるS・ミュニーチン先生が呼び出した用語で、平たく言えば、お仲間にさせていただくことといった意味です。”と述べています。
 また東(1993)は、“1. 相手のムードや雰囲気(家族であるなら家風といったようなもの)に合わせること。2. 相手の動きに合わせること。3. 相手の話の内容に合わせること。4.相手のルールに合わせること。”と技法を4つに分類し説明しています。そして、ジョインニングシステム全体に行われるものであるということも述べています。 
 吉川(1993)は、ジョインニングの過程は、3つの具体的成立していると述べて、アコモデーション(Accommodation):患者と家族のルールに治療者が合わせること(例えば「社交の窓口」や「問題の窓口」など)。トラッキング(Tracking):患者・家族の役割や行動に合わせること(患者・家族の提示している様々な枠組みに対してサポーティブに共感することや、興味を持って聞き入りつつ枠組みを明確にしようと質問することを含みます)。マイム(Mimesis):患者・家族のもちいる情報伝達手段(患者・家族のシステムの用いている言葉や非言語のコミュニケーション、比喩表現や感情の表し方の程度など)に治療者が合わせること、とジョインニングを3分類しています。

ミニューチン先生の言葉
 ミニューチン(1984)自身は、ジョインニングを、参加作戦(joining operation)としています。そして、適応(accommodation)・追跡(tracking)・模倣(mimesis)という3つの作戦に分類して説明しています。少し長いですが、以下ミニューチン(1984)の引用になります(あくまで、当時の構造的家族療法におけるジョインニングの説明であることは留意してください)。
  “参加すること(joining)と適応すること(accommodation)とは、同一の過程を描写する2つの方法である。参加は、セラピストが家族員や家族システムと直接に関係をもとうとする行為を強調する場合に、用いられる。適応は、セラピストがうまく参加するために、自らを調整すること強調する場合に、用いられる。ある家族システムに参加するために、セラピストは家族の組織とスタイルを受け容れ、それらに溶け込まなければならない、セラピストは家族の相互交流パターンと、そうしたパターンの強さを体験しなければならない。すなわち、セラピストは、ある家族員が仲間はずれにされたり、スケープゴートにされているという痛みを感じ、また家族内で愛されたり、頼られたり、でなければ、認められているという喜びを感じなければならない。セラピストは、いくつかの問題がとくに重要であることを確かめ、家族員と一緒にそれらを探る。”
 “追跡(tracking)は適応のもう1つの技法である。セラピストは家族のコミュニケーションと行動の内容の赴くままにしたがい、それらのコミュニケーションと行動をつづけるように促す。セラピストはレコードの溝をたどるよう針のようなものである。追跡とは、そのもっとも単純な形では、明確化するための質問をしたり、参加のコメントをしたり、要点を敷衍(ふえん)したりすることを意味する。セラピストは、人が話しているのとを否定しない。セラピストは自分自身を当事者の立場に置く。追跡は、押しつけがましくないセラピストの典型的な作戦である。”
 “模倣(mimesis)は人間が普遍的に用いる作戦である。スプーンで乳児に食べ物を与える母親は、乳児が口を開けるように、彼女自身、自分の口を開けようとする。(一部省略)。あるセラピストは、ある家族のスタイルと感情の広がりに適応するために、模倣を活用する。例えば、会話の間が長く反応の遅い習慣の家族においては、セラピストはその家族のコミュニケーションのテンポに順応して、自分のペースを抑える。陽気な家族においては、陽気になり、開放的になる。束縛の強い家族においては、セラピストのコミュニケーションは希薄になる。セラピストは、人間的条件のあらゆる普遍的特質において、家族員に似る。したがって、セラピストも家族員も共通の体験を持っているという状況が生まれるだろう。セラピストは模倣の作戦において、家族と融合するためにこうした状況を強調することができる。”
 以上が、ミニューチン先生からの引用になります。

ジョインニングの実際
 こうした合わせるということを実際の面接で行うにはトレーニングが必要になります。例えば、待合室で待っている来談者と家族に声をかけ、面接室に招き、セラピストを含めて全員着席するという入室から着席までをロールプレイする方法があげられます。
 この時、声をかける時は声をかけ、観察する時は観察するという、ひとつひとつの動作のメリハリが必要になります。何かをしながら、何かをすることは難しいです。慣れないうちは、はひとつひとつの動作を区切って、声をかけ、相手の反応を観察し、その反応に合わせながら、次の行動を考えることが必要になります。ちなみにこの動きは「観察→見立て→介入」という対人援助における面接全般に共通する面接者の基本的な活動過程と考えられます。(システムズアプローチでいうと「情報収集→仮説設定→介入」という過程になります)。
 また、入室から着席するタイミングを家族の動き合わせることも実際にやってみると難しいです。しかし、トレーニングを重ねていくと自然に出来るようになり、ムードや雰囲気といったことにも合わせることが出来るようになっていきます。セラピストは家族システムに合わせながら、家族システムを擬似体験し、家族の文化や習慣を理解していくともいえるかもしれません。
 また合わせるには基準が必要となります。例えば、相手の動きに対して0.5秒以内であれば合わせられ(同調した)たと定義したとしたら、0.5秒より早ければ前にずれた(先導した)ことになり、0.5秒より遅ければ後ろにずれた(追従)したことになると考えることができます。面接の文脈に合わせて、こうした細かい間合いを調整する(時には敢えてずらすことと必要です)ことも必要になります。
 加えて、セラピスト自身の表情、頷き、話し方のテンポやトーン、といった非言語のメッセージが相手にどのように伝わるのかというある程度の基準を持っておき、それを来談者と家族に合わせて調整していくことも必要となります。
 そして、こうしたジョインニングを行うために必要になるのが観察です。複数面接では、周辺視野(吉川,2011)を使って、話し手だけでなく、話し手を見ている他の来談者や、話し手の話を聞くセラピストの反応を見ている他の来談者、または話し手に関心を示さない他の来談者など、家族全体の動きを観察することが大切です。

おわりに
 簡単にですが、以上がシステムズアプローチのジョイニング過程になります。ジョインニングは初回面接だけでなく、面接全体で常に必要となります。また、ジョインニングの仕方によってどのような治療システム(面接での暗黙のルールなども含む)が形成されるかも変わってくるので、システムズアプローチを実践するにはしっかりと身につけておきたい技法です(簡単に技法といってよいかは賛否両論あるかもしれません)。とはいえ、基本的な技法ほど難しいので、まずはひとつひとつの動作をしっかりと身につけるという姿勢でトレーニングに望んでみてください。最後に、家族とやりとりするコツについてまとめた簡単な資料をつけておきます。よろしければ、ご参考にしてください。

(筆者作成)



引用文献
サルヴァドール・ミニューチン著,山根常男訳(1984)家族と家族療法,誠信書房.
中野真也・吉川悟(2017)システムズアプローチ入門ー人間関係を扱うアプローチのコミュニケーションの読み解き方,ナカニシ出版.
東豊(1993)セラピスト入門ーシステムズアプローチへの招待,日本評論社.
東豊(2018)漫画でわかる家族療法2ー大人のカウンセリング編,日本評論社.
吉川悟(1993)家族療法ーシステムズアプローチの〈ものの見方〉,ミネルヴァ書房.
吉川悟(2001)言葉になりきらない相互作用を見立てるために,家族療法研究,第18巻第2号,金剛出版.


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