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夏と、ゲームと。

夏休みに入ると、いつも誰かしらの家に遊びに行ってゲームをしていた。
ぼくの家に集まることも多く、そこにはいつからか、いくつかのルールが勝手に出来上がっていった。
それは主に時間に関することで、まず午前中の訪問は10時から。朝早すぎるとお家の人に迷惑だからねなんつって。
正午になると一旦それぞれ帰宅する。お昼ご飯は家に帰って食べなさいということだ。
そして午後は13時からで、18時には帰りましょう、というものであった。
自然発生的に出来上がっていったこのルールは、夏休み等の長期休暇だけでなく、普通の日曜日などにも採用された。

当時プレイステーション(初代)が発売されていて、ぼくは「プレイ'98」といういくつかのゲームの体験版が収録されているディスクの中に入っていた「テイルズオブファンタジア」というゲームをやたらと好んでプレイしていた。小学生だからお金が無いのだ。製品版はなかなか買えない。

それでもどうにかやりくりして中古ゲームショップで製品版を買い、そこからはもう怒涛の日々である。ぼくの小学5年生の夏休みは、テイルズオブファンタジアと共にあった。

すごいのは友人である。
彼は夏休みのほとんどの時間ぼくの家にいて、ぼくがプレイするのを同じテンションでもって見守ってくれていた。
だけど不思議なことに、同じ時期に製品版を買ったはずの彼のゲームの進捗状況はぼくよりずいぶん先を行っており、わからないことがあると彼に相談する、という構図が出来上がっていたのだ。
ぼくに会わない日や僕の家から帰宅した後に黙々とプレイしていたのであろうか…。未だに謎である。
余談ではあるが、その友人の家には「Windows '95」があった。ぼくはパソコンというものをそこで産まれて初めて見たのだった。

彼との出会いは忘れることが出来ない。
小学校4年の時にドラゴンクエストⅤをプレイしていたぼくは「ブオーン」というボスに苦しんでいた。レベルはじゅうぶんに上げているはずなのに、どうしても倒せない。
そんな話をクラスの友人にしたところ、隣のクラスに詳しいやつがいるよと紹介されたのが先の友人である。彼はぼくの説明を聞くとすぐに「さくせんはどうしてる?」と聞いてきた。
わからない人のために説明すると、ドラゴンクエストには「さくせん」というシステムが有り「ガンガンいこうぜ」や「いのちだいじに」などといった命令を味方に下すことで、ターン中に起こるアクシデントにそのターンの中で対応が出来る、というぼくにとっては夢のようなシステムがあるのだ。
ぼくはずっと「めいれいさせろ」という体制をとっていた。というか、「さくせん」というものを全然理解していなかったのだ。

「さ、さくせん…?」
「さくせんっってのがあるから、それを『いのちだいじに』にしてみ?多分大丈夫だよ!」

帰宅後すぐに彼の言う通りにしてみると、あんなに苦戦していた「ブオーン」を楽々と倒すことが出来た。ぼくはその時、ゲームシステムの把握こそが勝利の鍵だということを学んだのだった。

彼とは次の年に同じクラスになり、より親睦を深めていった。
そして冒頭のような、まるで熟年期の夫婦のような関係になるのだ。

夏になると、あの頃の事をよく思い出す。
ぼくらがブラウン管の中に映るドット絵に心を奪われていたその時、母は家事をし、父は仕事をしていたのであろう。
その時は考えなかった自分以外の誰かの「一方その頃」を今になって想像したりする。
そして「ああ、ぼくはゲームをしていたんじゃなくて、ゲームをさせてもらってたんだなぁ」ということに今更気づいて、得も言われぬ感情になる。

最新のゲーム機も高いゲームソフトも自分が働いたお金で好きに買えるようになった今のほうが、なぜだかゲームに熱中出来ない。

ぼくが喪くしてしまったものは、なんなのだろう。

と、「#自分を作り上げたゲーム4選」というタグを見ていて思った。
あんなふうに、寝る間も食事も惜しんでプレイ出来るゲームにまた出会いたいな。

(テイルズは他にも好きな作品があって選べないから入れなかった)

そういえば、あの頃は自室にクーラーなんて無かったから、相当暑かっただろうなぁ…。
でも暑さとか覚えてないくらい、ゲームに熱中してた自分のほうが暑かったのか!なんつってね。

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