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話したいことのほうが多くなるかな。
父の父、つまり僕からしたら父方の祖父であるが、その祖父が亡くなり、いよいよ火葬する、という時。いわゆる、最後のお別れと言えるのだろうか。その瞬間に、父が顔をくしゃくしゃにして涙を流した。それはほんの一瞬のことで、火葬を待つだけの、あの独特にくたびれた部屋に戻った父は、いつも通りの顔をしていた。
思えば、父が祖父と別れの際に流したあの涙を見たのは、もしかしたら僕だけなのかもしれない。
父はその夜、アコースティックギターを手に取り「親父が死んだ後は手続きやらなにやらがとてもめんどくさい」という内容の歌を即興で作り、親戚やらが集まり酒を酌み交わしていた場を和ませていた。
あらためて、なんてすごい人だろう。
ゆうべ、夢をみた。
詳しい顛末は端折るけど、最終的には僕の母が病気でとても危険な状態だ、という内容だった。
朝方、その夢から現実へクロスディゾルブするように目を覚ました僕は、ふと不安になった。
母親を亡くすということ。
もちろんそれは、誰の身にもやがて訪れるはずの日だし、避けては通れない事だ。
父を亡くしてから、いつかは母もと想像して暗い気持ちになっていたけれど、今回のそれはまたすこし違っていた。
想像を自ずからするというのと、夢という形だとしても、ある日いきなり突きつけられるというのとは、全く違う。
どちらも僕の脳が作り出した映像であったり展開だったりするんだけど、夢って不思議とすごく客観的に見れるものなのだ。見させられるとも言うか。
だからまるで、想定はしていたけど死角から来たアッパーカットのような衝撃を与えられた。
そして、思い至った。
父は、もう亡くなってしまったあの父は、母親を亡くすという経験をしなかった。
恐らく想像を、そして夢なんかを絶する程の出来事であろうそれを、僕は父から何も学べなかった。
祖父が亡くなった時に見せた、くしゃくしゃにして泣いていたあの顔や、すぐに笑いに変えるあの強さを見て、覚えて、大人にって、やっと、やっとあの時の父の気持ちに今僕は寄り添えるようになったけれど。
父が経験をしなかったであろう運命を、この先僕は、歩いてゆく。恐らく。
父に聞きたいことがまだまだ沢山あったんだけど、いつからか、話したいことの方が多くなるかな。
面白おかしく話せるように、悲しいことも即興で歌にして和らげるようになるのだろうか。
今僕は、ただ、そういう未来を想像している。
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