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クソにわかファッションヒップホッパー(笑)

30歳を超えてからというもの、服装にどんどん無頓着になっていっているのを実感している。
クソダサファッションや、利便性だけを重視したよくあるおじさんのジャージスタイルではないと思ってはいるけど、まぁ、それもどうかな。
なるべく清潔感のある、自分の身の丈に合った服を着るようにしている。とはいえ、Tシャツ一枚に3000円とかそういう買い物は絶対にしないし出来ないから(好きなバンドのTシャツなら3000円出せる不思議)、ユニクロやGU、しまむらアベイルという、所謂プチプラの服飾店はとても優秀だなと感じざるを得ない。というか、もとい、ありがたい。

服装に関しては、何が似合うのか、というのを未だに自分で理解出来ていないところがある。着たい服が自分に似合うものでは無いだろうから、無難で安牌なデザイン、カラーリングのものが僕のタンスには収められている。結果、モノトーンの服が多いこと多いこと。
「着れればなんでもいい」というところまではいかないけれど、「他人が見て違和感がなければ何でも良い」という領域には達してしまったかもしれないな。

僕が中学二年生の頃、『ストリートファッション』の流行が訪れた。
とにかく『STUSSY』と『A BATHING APE』というブランドこそが最高にかっこいいもので、雑誌は『ストリートジャック』が良しとされた。ちょうど世間的にJ-HIP HOPが盛んな時期で、その影響もあったのだろう。
イメージしづらい人は、『池袋ウエストゲートパーク』のカラーギャングの服装を想像してもらうと分かりやすいかも知れない。…いや、その例え自体がもう古いものなのか。
まあ、よくあるダボダボ系ファッションである。ダボダボしてて、バスケットのユニフォームのようなタンクトップを着て、YO!YO!と街をママチャリで走り抜けるのだ。

スクールカーストの上部に居たい身としては、その流行に遅れを取ってはならない。
そう、僕もある日からB-BOYになったのだった。

とはいっても、中身はフォークソング好きの純朴な青年である。
ヒップホップの起源である、今で言う「ディスり、ディスられ」みたいな知識も当然持ち合わせていない、クソにわかファッションヒップホッパー(笑)でしか無かった。簡単に言えば、似合ってなかったのだ。

それでもなんとかしてSTUSSYのアイテムが欲しかった。Tシャツでもなんでもいい。ただ、ブランド物は値が張る。当たり前だけど、中学生が気軽に買えるような品物は皆無と言って良かった。
それでも、と、親を説得し地元である長崎の片田舎にある「原宿」というふざけた名前が冠された服飾店に入店した。
所狭しながら服しか置いてない空間はとても新鮮で、緊張していた。
欲しいものは山程あった。Tシャツ、アウター、デニム…。でも、どれもこれもバカ高い。これ一着で例えば漫画が何冊買えてえしまうんだとか考えると気軽に「これが欲しい」だなんてイカれたことを親に伝えることは出来なかった。
諦めて帰ろうかと思ったところ、ひとつのアイテムが目に入った。それはSTUSSYのあのロゴが刺繍された、オレンジ色のサンバイザーだった。
サンバイザーというと、なんとなくダサダサアイテムの決定版!的なところがあるけれど、当時は確かに流行っていたのだ。値段もまぁ高くない。3000円しないくらいだ。
それを買うことに決めた。オレンジ色なんて普通は絶対に買わないけれど、とにかくSTUSSYのロゴが入ったものを身に着けたかったのだ。

それからというもの、どこかに出かけるときは必ずそのサンバイザーを装備していた。ダボダボのジーパンを履き、メッシュ素材のダボダボタンクトップをTシャツと重ね着して。
サンバイザーの"つば"は、正面でなく、斜めに来るように調節するのがカッコいいとされていた。また、ずるりと額から外し、そのまま首にかけても良かった。
そうして僕は、『オレンジサンバイザーフォークソング好きにわかヒップホッパー青年(笑)』へと神々しい進化を遂げたのであった。

やがてヒップホップファッションブームが沈静化し、どんどん時は流れ、すっかり身につけなくなったオレンジ色のサンバイザーは、それでも過去の栄光にすがるように部屋の片隅にいつまでも飾ってあり、僕を乾いた目で見つめていた。「悪そうなやつはだいたい友達なんだろ?」と。

大好きだったオレンジ色のサンバイザーは、僕が高校を卒業して一人暮らしのアパートへ旅立つ際に、そっと処分した。
陽に焼けて、すっかり色あせてしまったそれは、自身のオレンジ色よりももっと濃ゆい暖色の炎に焼かれてこの世から消えてしまっただろう。

僕がある時期、クソにわかファッションヒップホッパー(笑)及びオレンジサンバイザーフォークソング好きにわかヒップホッパー青年(笑)だったことを、当時聴いていたJ-HIP HOPの曲が耳に入ると、赤面しながら思い出す。

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