見出し画像

殿が見る星空

なにやら今夜はペルセウス座流星群というのが見えるそうですぞ、殿、と家臣が申しておったのでほうほう、左様か、ならば見てみねばならんのうと残っていた麦酒をぐいと呷り、城下町へと繰り出した。
ひとりで行かせるわけにはいかないですぞと息巻いている家臣をだまくらかし、そそくさと城を抜け出したものの、町の灯りが煌々と点いておったので、これはいかんと歩みを海沿いの方角へと進めた。
行き交う人々や、だだっ広い空き地で焚き火に興じる若者を横目に見ながら、下駄を鳴らす。
やがて辺りはその下駄の音しか聞こえなくなり、明るさも純粋な闇に近くなってきた。
そうしていざ波打ち際に着くと、黒い蠢きが寄せては引く音が耳を支配した。ほほう、夏の宵に聞く波音もイトヲカシじゃのうなどと思いながら頭上に視線をむけると、そこには無数の瞬きがあった。
言葉を失って、ひたすらその瞬きを見つめる。赤々と光るもの、弱々しく光るもの。
むかしむかしの人間は、これらの光に名前をつけ、またそれらを線で結んで例えば天秤や魚などに準えたのだという。
今なら、その途方もない作業の楽しみが分かる気がした。それほど、夜空の煌めきは見てて飽きることがない。

そうして口をぽかんと開けながら光の粒を見ていると、大勢の家来を携えて家臣が走ってくるのが見えた。
やれやれと呟きながらその場を離れる。結局、流星群を捉えることは出来なかったが、闇夜に身体を染め、視界を星空でいっぱいに出来ただけでも出てきた甲斐があった。
忙しくしていてすっかり忘れていたが、夜空とは今も昔も変わらず美しいのだな、と深く納得した。また来よう。

家臣をだまくらかすのに骨が折れるが、仕方ない。


.。*゜+.*.。☆゜+..。*゜+。.゜☆.。*゜+.*.。.

いやなんで殿!!!!

#日記 #エッセイ

こんな駄文をいつも読んでくださり、ほんとうにありがとうございます…! ご支援していただいた貴重なお金は、音源制作などの制作活動に必要な機材の購入費に充てたり、様々な知識を深めるためのものに使用させて頂きたいと考えています、よ!