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『春のこわいもの』と絶望

読みました、めちゃんこ難しいね!
ほんほんほん、へえ、という感じではなかった。
分からん…分からん…何…?となる。
こんなことしか言えないことが悔しいけど、悔しいとは、一体何に対して悔しいのか、そもそも何と戦っているのか、という感じですが、私は読書する時いつも何かと戦っているみたいです。
そういう本と遭遇することは毎回ではないけど、確かにそういう本がある。川上未映子さんの『春のこわいもの』はまさにそういう本だ。

んーーーーー。
どこからどう言えば良いのか、という感じですけれども、この短編集の中から「ブルー・インク」について少し考えようかな。

ある男の子と女の子が同じ高校に通っていて、付き合っているわけではないが、公園で話をしたり電話をしたりする関係にある。それはすごく親しい友人という感じでもない。
ある時女の子が手紙をくれる。その手紙というのは、受け取り相手の男の子に対して何かを告白するようなものではなく、一体彼女が何を伝えようとしているのかわからないものであった。その手紙をあろうことか男の子は無くしてしまうのだ、おそらく学校の中で。
深夜の学校に潜り込み、2人は手紙を探す。宛先や書き手の名前が書いていないことから、見つかったって恥ずかしい思いはしないと考える男の子とは正反対に、その女の子は手紙が見つからないことに絶望し、デッサン室の中で泣き続ける。彼女は、その高校の暗室で亡くなったとされる女の子の話もし始める。

内容としてはまとめるとこんな感じですが、いや…まとめたってね…要約したってね…
こうやって内容をまとめながら、なぜあの女の子の絶望具合が伝わらないのか、とこっちが絶望した。
本の中であの子はめちゃくちゃ絶望していて、それはもうやめてくれ…と思うほどだった。彼女は何かに自分の言葉が残ることを異常なほどに恐れていて、うん、それは確かにわかる。

人はそれぞれ、なにかしらに執着していると思う。
あなたは何に執着していますか?
色々な形をとって、人は何かしらに執着していると思うけど、それが露わになるかとか、自覚しているかとか、それとはまた別の問題だと思う。
本当に些細なことでも、何かがきっかけで、「あ、自分ってこんなことに執着してたんや」と気づくことがある。
その原因の一つとして、感染症(例えばコロナ)がトリガーとなっているのかな、と思った、この小説の中では。
それが露わになった時、人は何を思うのだろう。
悲しくなるのか、はたまたそんな性質を見つけて嬉しくなっちゃうのか。これは他人には理解してもらえないだろうと思って絶望するだろうか。

この小説の女の子は、もしかしてこの子にはわかってもらえるかもしれない、わかってもらえているのかもしれない、という執着が、全く理解されていなかったことを理解して絶望した。
手紙が他人に見られるからとか、彼に大切にされてなかったとかそういうことが問題なのではない、自分の大切にしている言葉をあなたに託したのに、どうしてそれを雑に扱うのか?扱えるのか?というもう説明もしたくない疑問。
そういうのってどう。

ただこれを男の子の側から見てみると、いや無理な話よ〜ともなる。
確かにこの女の子は言葉に執着してそうだけども、それがどのレベルなのかこの男の子には何も伝わっていないから。
この男の子は女の子のことが好きだ。それは人としてとかじゃなくて、性的な感じ、というか彼女にしたいとかそういう類の好き。
人として理解することと、異性として理解することって違うでしょう。それって本当にわかったことになるのか?
まずそれが違う!!違う!!!2人のポイントがずれてる。
女の子だってそりゃこの子のことが好きだったとは思いますよ、でもそれ以上の気持ちを込めて、自分の残したくない言葉を手紙にして残した。それはもう告白とか、付き合うとか付き合わないとかそういうことより、大きな途方もない問題でしょう。
それを紛失して、挙句の果てには、別に誰がみるもんでもないしええやろ、というスタンス。無理無理、全然良くない。

一つのすれ違いから、今まで絡まっていた糸がするすると解けて、ああ、ここもここも絡まっていたのだなと気づく。

短い短編ではあるが、2人がこんなにも見事にすれ違っているのが感じられて、すごく面白い。
その、誤解を恐れずにいうけども、悲劇って、絶望って、面白い。本当にいろんな種類があるから。
書き手によって、おお、人はこういう風にも絶望するのか!と新しく気づく。

私はというと、この話が小説という形をとって表現されているのがおもしろいなと思った。だって小説ってめちゃくちゃ先まで残るし、なんなら誰が書いたのかも公開されていて、恐ろしい枚数刷られている。皮肉みたいで。

新しい絶望と出会えた私、万歳



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