なぜ町のゲーム屋はどんどんなくなっていったのか?

以前はどんな地方都市でも「町のゲーム屋」が多数存在していた。駅前には複数のファミコンショップがひしめき、休日になるとそれらに子どもたちが押し寄せ目当てのゲームを買い、中古の棚を漁り、小遣いとにらめっこしながら、友達と貸し借りの相談をしながら、長い時間を過ごしていた。

今、そんなファミコンショップは恐ろしいほどに数を減らしている。「町のゲーム屋」は絶滅危惧種となった。ゲオやツタヤがその代わりを果たすようになった……といえばいいのだが、それらも今やゲームから撤退した店舗すらある。

そういう薄ら寒い状況にあるゲーム業界の小売店だが、さて、いったいいつ、どれだけ町のゲーム屋が減っていったのかを把握している人はいるだろうか? 

衝撃的なデータが存在する。メディアクリエイト(一部の人にはとても有名なゲーム関連のデータをやり取りしている会社だ)が発売している「テレビゲーム産業白書」には、「テレビゲームの小売を主たる業務とする専門店および複合店」の数が記載されている。その推移は以下の通りだ。

1997年 6898店
1998年 6000代
1999年 6555店
2000年 5045店
2001年 4973店
2002年 2666店

なんと1997年には7000店近くあったゲーム屋が、5年後には4000店減ってしまっている。(1998年のデータは存在しないが、推定として「一割ほど減ったのではないだろうか」との記述あり)4000店に減ったのではない。純粋にその数を1/3に減らしたのである。グラフ化すると以下のようになる。

テレビゲームの小売を主たる業務とする専門店および複合店の推移

(1998年のデータは存在しないので、推定して微減した6700店と入力した)

一体何がこの業界を襲ったのか? いったい誰のせいなのか、犯人はいったい何者なのか?

答えを先にいってしまうと「みんなのせい」になるわけだが。



まず市場規模を見て頂きたい。GOD BIRDゲーム史研究所さんにファミ通ゲーム白書が記した家庭用ゲーム市場の推移のグラフがある。それを引用しよう。


これを見るとたしかに1997年のピークに緩やかに市場規模は縮小を続けている。しかしその縮小はあくまで緩やかだ。2000年からの急激な店舗数減少とリンクしていない。

しかもこの市場データには中古品が入っていない。あくまでメーカー側から見た市場規模である。2002年には最高裁にてゲームの中古売買が合法というお墨付きが出たし、2000年のPS2発売時にはSCEがリベート制を廃止することをきっかけに多数のフランチャイズが中古の取り扱いに舵を切った。実態としては減少ではなく、むしろ現状維持か、もしくは市場拡大していてもおかしくないことを頭に入れておいてもらいたい。
それならばなぜ小売店が次々に潰れる現象が起きたのだろうか? 少なくとも「ゲームソフトが売れなくなったから」ではないようだ。

まず抑えておきたい要素がある。大店法(大規模小売店舗法)の改正だ。1998年に改正されたこの法律は2000年から施行された。大雑把にいうと今まで大型店の出店に規制がかかっていたが、それがなくなり郊外に大型店がより出来やすくなった。
面白い資料がある。2002年テレビゲーム産業白書に「資本金別ゲーム関連部門の購買客数推移」というデータが存在する。それを引用しよう。

(2000年の資本金一億円以上の企業のデータは存在しない)

資本金1億円未満の中小ゲーム店は1997年、1998年あたりをピークに一度そこから大きく落ち込み、2000年で底を打っている(小売店も2000年で1度大きく減少している)。2001年に一度上昇に転じているが、この分析をメディアクリエイトは「トレーディングカードやベイブレードなど、ゲーム以外の遊びのブームがやや下火となり、子どもの関心が再びゲームに戻ってきたこと」を一因としてあげている。その上2001年はゲームボーイアドバンス、ゲームキューブの発売年である。PS2よりもやや低年齢層に強い購買力を持っていたこれら二つのハードの発売と、順当にPS2で展開しはじめた大手ソフト(ファイナルファンタジーⅩもそうだ)との相乗効果で、一気に市場は活性化した(統計にはでないが中古市場が盛り上がったおかげもある)。

しかしその後の2002年、小売店の市況は最悪を迎える。2003年テレビゲーム産業白書に記載がある売上判断D.I.(Diffusion Index。売上が昨年と比べて増加したと答えた企業を、減少したという企業で差し引いた値)は2001年で11.8ポイントだったところ、2002年で-53.6ポイントとなる
圧倒的大多数が売上が落ち込んだ、と答えたのだ(改めて前述のゲーム市場規模を見て欲しい。全体の市場規模は2001年とほとんど変わりない)。

そして減少した要因をアンケートすると、その70%が「競合店の増加」と答えている。店舗数は上記の通り、1997年から減少し続けている。それなのに競合店が増加するということは、つまり至る所に大型店が出来上がりつつあった、ということだ(新作の動向、ライトユーザーの減少というそれらしい理由は40-45%程度でしかない)。

恐ろしいことに2004年以降はメディアクリエイトも小売店の動向を詳しく載せることはなくなる。おそらくは「こういうデータを必要としている顧客がすでに存在しなくなった」ということだろう。上記のような「資本金別ゲーム関連部門の購買客数推移」というデータも2001年分を最後に終了した。

さて、大型店の出店が如何に町のゲーム屋にとって影響が大きかったのがよくわかる。次に考えなければならないのは、「何故人々は大型店でゲームを買うようになったのか」である。

「2001年 TVゲームウォーズ」という本がある。ここに興味深いアンケートが記載されている。1999年にとあるフランチャイズ店に実際に訪れたゲームの消費者2000人強に対して、「あなたは、どんな目的でゲーム店に行きますか?」という質問を複数回答可で行った結果が以下の通りである。

1.欲しいソフトがあるなど、目的買いでいく
 66%
2.何か面白いゲームがないか探しに行く
 59%
3.ぶらぶらと暇つぶしに行く
 21%
4.新作などいろいろな情報を手に入れに行く
 18%
5.試遊機などで遊びに行く 
  5%
6.友達に誘われたり、ただなんとなく
  7%
7.その他    
  2%

これに関して違和感を覚える方は多くないだろう。概ね納得頂ける結果ではないだろうか。

それに付随して別の質問も行われている。「あなたは何を情報にして買うソフトを決めますか?」という質問の答えは以下の通りとなった。

1.雑誌の記事や広告   63%
2.TVコマーシャル   39%
3.友達や家族の口コミ  29%
4.店頭のPOPや情報   20%
5.現物のパッケージ    9%
6.デモ機や試遊機     7%
7.その他         3%

これもあまり違和感がない結果かもしれない。たいていのゲーム消費者はファミ通なりTVコマーシャルを見て予習をしてから行くものだし、目的がない買い物にいったときでも「そういえばこのゲームCMでやってたな」と思い出し、購入意欲が刺激されることだってあるだろう。

しかしよく考えて欲しい。半数程度の消費者が「何か面白いゲームがないか探しに行く」と答えているのに、店頭のPOPや情報を参考にしている消費者は20%しかおらず、大多数の消費者は雑誌の記事や広告、TVコマーシャルを参考にしている。つまり、店舗に行ってはいるものの、店頭にある情報は参考にしていない。ならば単純にTVCMでの露出が多い・多かった商品、雑誌広告が多い商品が多数置かれている場所こそが、消費者にとって理想の場所となり得る。よって、より大規模な店に消費者は流れ行くことになると推察される。

そしてこのアンケートは致命的な問題を露出させている。メーカー視点から考えてみよう。体験版や製品版での試遊台で購買意欲をそそられる消費者はごくごくわずかの7%。実は体験版には販促効果がない、という結果が現れてしまっている。
店頭のPOPを用意したり、ポスターを作ったりした効果は雑誌広告やテレビCMといったものと比べても非常に限定的だ。ならばメーカーの営業マンが末端の小売店を回る際、もっとも効率的なのは大規模店だけを周り、販促品をそこだけで展開することだ。あまりに広くばら撒いても効果は期待できないため、コストだけがかさむ。ならば大型店でコストを絞って効果的に……というのがメーカーの理屈となる。

「テレビゲーム産業・流通白書」には実際の小売店の声が匿名で記載されている。その一部を実際にご覧いただこう。

・カプコンが一度も営業巡回に来なかった。大タイトルを持つメーカーの営業はまず来ません。それはなぜか?(SNKは除く)せっかく販促を大きく取り上げても無意味です。

・営業の方が来て下さることはほとんどありません。店を見て頂いて、広さや客層にあう販促物やイベントを提供して欲しいといつも思います。

・販促活動がなにもない……

・SCEの営業活動は小売店を削除しようとしているとしか思えない。メーカーと小売店が協力して、業界を盛り上げるのが理想だと思っていましたが、現実はメーカーの独断でした

・セガ・ユナイテッドからセガ・ミューズへ……昨年9月頃より告知ポスターやフラッシュセガサターンといったデモ機用の販促物が送られてこなくなりました。再三のこちらの催促にもかかわらず……です。返答は『すみません。すぐ送ります』ばかりで、実際送られてきたのはこの半年で1度だけ…ニューマシンも結構ですが、このような流通問題もキチンとして頂きたいものです

テレビゲーム産業・流通白書(1998-2001年)

1998年から2001年までのゲーム白書には忌憚のない声が入っているが、2002年以降については収録がない。また「役にたったメーカー販促物」という項目が1998年にだけは存在するが、翌年以降からはなくなっている。販促物のあるなしがほとんど売上に影響しないことがわかっていたことになる。

前述したようにSCEはPS2発売を機に今まであった小売店へのリベートを廃止した。その理由がこれである。小売の頑張りが売上に反映しないのだから、小売への報酬は削り、代わりにTVCMの枠を一つでも多くしたほうが売上は上がる……。それが可視化されてしまったのだ。そしてSCEは直販体制を整える。通販サイトの「PlayStation.com」を立ち上げ、そこでゲームを売りはじめた。既存の小売店に配慮する必要はなかった。(ただしPlayStation.comは色々問題が生じ、結局ただの通販サイトとしての枠で終わった。本格的にダウンロード販売にまで至るのはPS3期、PlayStation Storeの登場まで待つ必要がある)

これらの状況を踏まえると、「町のゲーム屋さんが潰れていったのは、大型店にしか行かない消費者と、見放したメーカーのせい」と言えるだろうか。しかし残念ながら小売店側にも責がある。


昔から「良いゲーム屋の条件」とは、より多く、より安い品物が揃っていることであった。これはファミコン時代から変わらない。PCエンジンやメガドライブといったライバル機が登場し、スーパーファミコンへと世代交代が行われたあとも、人気の商品がどれだけ多く、どれだけ安いかが店の価値と直結していた。

ファミコン登場から15年以上が経過したこの時代においても、「町のゲーム屋」はその他の違う価値基準を創造し得なかったのである。
たとえば店の常連に対し「世間的には埋もれているが、この客なら面白さに気づくだろう」とオススメできた店はどれほどあっただろうか? もっと具体的にいえば「高機動幻想ガンパレード・マーチ」を発売日から推すことが出来たゲーム屋はどれほどあっただろうか?
その個別個別に潜んでいるゲームの魅力を発信し、売上へ繋げようとするゲーム屋は、はたして存在していたのだろうか? そうでなければ、より多く商品が並び、より安く商品が売られている大型店に、町のゲーム屋が勝てるわけがないのだ。

しかし、そもそもゲームというのは長時間付き合わせるコンテンツである。長くとも3時間あれば映画ならば一つは見切ることができる。しかしゲームの場合、3時間プレイしてようやく最初の盛り上がりへ到達できるかどうかだろう。はたして、毎週毎週大量に発売されるゲームの中から、光る原石を見つけることが常人にできるだろうか?
ゲームよりは少ない時間でコンテンツを味わうことができる映画や、CDにおいても、最終的には大手量販店に圧され、最終的に「町のビデオ屋」や「町のレコード店」は潰れていって、同じように絶滅危惧種だ。ゲームではいくらなんでも無理があるように思える。

つまり「違う価値基準の創造」はとうてい到達不可能な無理難題であり、小売店はいずれ大型店に駆逐される運命だった、という結論にいたる。ならば、「なぜ町のゲーム屋はどんどんなくなっていったのか?」という質問の答えは「みんなのせい」となる。しかし、言い換えるならこういうことだ。


立ち並ぶ町のゲーム屋という存在は、あの時代に、あの熱気と混沌を帯びた市場が作り上げた一瞬の夢のようなものだったのだ


最後にテレビゲーム流通白書のなかの小売店からの声で、当時のゲーム市場の難しさを痛烈に表し、私の心を貫いた現場の声を一つ紹介してこの記事を終わりにしたい。

-DC(ドリームキャスト)をやらなかったことが年末になって響いてしまった。セガのように人を馬鹿にしたような販売、エンドユーザーの切り捨て、こんなわけのわからないメーカーのハードを買う人間こそがゲームに対してお金を使うのだ。


参考文献

2001年TVゲームウォーズ 森岡巧

1998年テレビゲーム流通白書

1999年テレビゲーム流通白書

2000年テレビゲーム流通白書

2001年テレビゲーム産業白書

2002年テレビゲーム産業白書

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