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YOASOBIが持つコンセプトの弱点

コンセプトが持つ面白さと難しさ

“YOASOBI”というアーティストをご存知だろうか。
私は数年前から知っていたものの、興味を持ったのはつい最近のことです。
「クリエイティブ力」という言語化しにくい芸術性で顧客へのアプローチを競う音楽業界に、「コンセプト力」という明確なベネフィットと特性を持つ商品で参入した大きな事例となったことで話題になりました。

「人の五感にどのように呼びかけるか」といった評価指標がわかりにくい“芸術性”で争われている市場に対して、「小説を題材にした楽曲」というめいかくな『コンセプト』で参入したことが、YOASOBIが大きな注目を集めることに成功した一つの要因です。

曲が持っているすばらしさは、もちろんあります。
中でも“転調”と呼ばれる「一つの曲の中で急にテンポが変化したり、印象ががらりと変わるような効果をもった手法」は、YOASOBIの代名詞ともなっています。音楽の知識に乏しい私でも、そのくらいは分かるようになったほどに、独自の世界観をつくり出しています。

ただ、そうした素晴らしい楽曲は多々あれども、多くのミュージシャンが持っていないものとして注目されるのは『コンセプト』になるのではないでしょうか。
私がこの、YOASOBIの存在を知ったのは、小説を題材にした頃ではなく、アニメ化された二つの作品、『推しの子』と『葬送のフリーレン』の主題歌を手掛けられたころです。
中でも、『推しの子』という漫画原作をアニメ化した際の主題歌には驚きました。
先ほども記述した“転調”という技法を、私はこの曲で知ったのです。
音楽をあまり聞かない私は、どのような音楽が巷であふれていて、どのような音楽が素晴らしいともてはやされるのかを知る由もありません。
しかし、この楽曲を聞いた時の率直な意見としては、「すごい」「ヤバい」しか出てこなかったのを覚えています。
一曲の中に、いろんな顔を持っていて、テンポも雰囲気も、まるでリミックスのような面白さと変化を愉しめる。
「これはすごいミュージシャンが出てきたぞ! きっとこれからも、コンセプトに乗っ取って、手がけた作品の多くを素晴らしい楽曲にしあげてくるだろうな」
私は、そんな感想を持っていました。実際に、YouTubeで拝見しても、世界中の配信で、YOASOBIの楽曲を褒めたたえる評価が多かったのも目にしました。私の感想は、現実化するだろう、そう思われていたのです。

しかし、時を待たずして『葬送のフリーレン』という漫画原作をアニメ化したときの主題歌を担当して、評価は一変します。
『推しの子』の「アイドル」という楽曲では、「内容に忠実で、作品の内容にピッタリとハマった楽曲となっている」という評価でした。
しかし『葬送のフリーレン』の「勇者」という楽曲は、あまりにも評価が低く「内容に合っていない」という感想が多く寄せられたのです。
こうした事実は、どうして起こったのでしょうか。

YOASOBIの楽曲は、「第一話を見て作られる」と言われています。
そう考えてみると、『推しの子』という作品は、第一話のボリュームが凄まじい作品だったことが原因だったのではないかと思われるのです。
内容はこうです。
《あるアイドルが苦労した果てに、トップにまで上り詰めていきます。根っからのアイドルだった彼女はその素性をさらすことは無く、ある日突然妊娠が発覚します。アイドルを推していた男女が双子誕生の直前で絶命した暁に、その双子として生まれ変わります。妊娠を知ったファンに逆恨みされ、アイドルは殺されますが、双子は成長と共に父親を特定していくのです》
ここまでが第一話です。
ボリュームがすごいですね。
一方、『葬送のフリーレン』という作品の第一話はこうなります。
《魔王を倒した勇者一行は、それぞれがそれぞれの人生を歩んでいくために別れます。主人公であるエルフは寿命が1000年以上あると言われていて、50年という、エルフにとっては昨日のことのような時間が経過してから街へ戻ったのですが、間もなく勇者は寿命を迎えて死んでしまうのです。月日が経って初めて、時間の持つ大切さに気付いたエルフは、“人間を知る旅”に出ます》
どうでしょうか。
私は、ここに秘密が隠されていると思うのです。
つまり、小説でもアニメでも、作品というものは読む人によって感じ方が違うものです。
そう、読む人によって、感想が違うことが、読書の醍醐味でもあるのです。
そのように考えると、「小説を題材にした楽曲」というめいかくな『コンセプト』によって、差別化ができる一方で、「同じ感想を持たない層」からは批判的な意見が出てしまうのは否めません。
『推しの子』では、第一話のボリュームが大きすぎたために、その後の展開が予想しやすいのに対して、『葬送のフリーレン』ではその後の展開によって物語が作られていくものとなっています。つまり、第一話だけでは予測不可能だったのではないでしょうか。

それに、「読書は人それぞれである」という点を踏まえても、それまで数多くの小説を元に楽曲を作ってきたはずです。それなのに、小説好きな私の元まで楽曲が届いてこなかったことを考えても、「小説の内容を楽曲にすることの難しさ」を感じることができます。

読み方は一つでは無い。
だからこそ、読書は面白いのです。
でも、だからこそ、「みんなが納得する感想や主題歌」を作ることは難しいのでしょうね。
でも、私はそんな多様な感想を愉しむことも、読書の一つだと感じています。

読み方は一つでは無いのだから、感想もいろんな意見を聞きたいですね。

そんな私は、YOASOBIの大ファンである。

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