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本の中で同感する言葉を自分の言葉に変化させる

他人の意見と完全に一致しているのは思い込み

「それそれ! 私はそれが言いたかったのよ」
このような言葉は日常会話でも繰り出されている。
友人や知人、はたまた赤の他人でも、自分ではない誰かが言った言葉が、自分の思想や思っていることをうまく言語化してくれているときに、冒頭の言葉が口をついて出てきます。
しかし、こうした完全に一致していると思われる言葉でも、寸分たりとも違わずに一致しているのかと問われれば、絶対に「そうだ」とは言い切れないのではないでしょうか。

私たちは、日頃から、資格で物事を捉えます。
妻は無類の『テレビドラマ好き』として知られていますが(知られてはいないだろ)、ドラマなどは映像として物語を追っていくものです。そのため、うまく言語化して説明することが難しくなります。
先日、帰宅した際に、妻が突然「ラブレターって書いたことある?」と聞いてきました。私がなぜ? と質問すると、妻は長い説明を始めたのです。
「えーっとね……。ほら、紫式部やってるじゃない。大河ドラマの。その中で“まひろ”が代筆の仕事をするのよ。それで、お客さんで来た男の人に、男になりきって代筆をするんだけど、代筆にはセンスがいるのよ。ほら、ラブレターもセンスがいるじゃない? それで、その言葉が綺麗なの。なんて言葉だったか……。忘れちゃったけど……」
こんな感じで話し始めます。これはこれで、内容はわかるのですが、妻が伝えたかったことは、恋文を代筆するシーンに出てきた言葉の美しさです。
当然ですが、人それぞれ、映像で見たものを言葉にするとなると、注目するポイントというものは違ってきます。そのため、こうした話を聞いても、「そうそう! それ、私も思った!」となるわけです。そして、その興奮度があまりに高いと、自分が本当に感じた内容を忘れてしまうという事態になってしまうのです。

自分が映像を見た時に、それをどのように言語化するのかというのは、それこそ無限のバリエーションが存在することがわかると思います。
その無限の選択肢の中から、自分の感じたことを伝えるというものに、完全一致などあろうはずがありません。
これは映像に限ったことではなく、文章でも、写真でも、実際に起こった出来事でも同じことが言えます。それを的確に表現することも不可能ですが、自分の考えていることを表現することも全部を言語化するのは不可能に近いかもしれません。
しかし、それを諦めてしまうのではなく、自分の感じたことやモヤモヤした思考を形にしていくことによって、自分の考え方というものが明確になっていくのです。

よく「自分の価値観ってなんだろう?」と悩まれている方がいらっしゃいます。
そうしたことを悩むよりも先に、こうした日常を言語化していくことが重要なのではないでしょうか。
それを、じっくり考えることを拒否して、他人が発した言葉を自分の言葉としてしまっては、自分を失うことにつながるのです。
そうした例として、よく見られるのは、読書でしょう。
これは読書をするときによく見られます。

「有名なあの先生が言っていることだから、間違いない」
「私の尊敬するあの人が言っている言葉は私と同じだ」
このように考えやすいのは、「頭がいい人が言っていることは、バカは自分よりも説得力があるから」と思ってしまうためです。
実際に、書籍に書かれている内容は、理論立てて整理して書かれていることが多く、説得力があります。そのために、そのような視点から突っ込まれても、言い返すことができるように論理が組み立てられています。自分以外の人に説明する時も、その言語化された内容を話すことで、切り抜けることができるのです。
これは楽です。
なんと言っても、考えなくても、説得力のある言葉が手に入るのですから。
しかし、本当にそれでいいのでしょうか。
本当に、自分の意見そのままの言葉が、その理論の中で語られていますか?
書籍に書いてあることは、あくまでも、他人の意見です。
他人が、必死にまとめ上げた、他人の考えを言語化したものです。

そういった内容を、自分で考えたように話すのは、あまりにも浅はかであると、言わざるを得ません。
自分の意見は、自分で言語化するのです。
こうして思考をすることを拒否すると、思考や思想を操作されるのです。
ふと思ったのですが、最近のテレビにも似たようなことが言えますね。
最近の教養番組は親切丁寧で、何も予備知識がなくても、なんだか専門的な知識を得ることができたような錯覚に陥ることがあります。
「〇〇は、こういう仕組みになっているんです」
と言われると、その予備知識がない人たちはその情報を信じてしまいます。
宗教団体のことを「洗脳している」などと言って反対する人がいますが、これと何が違うのでしょうか。

他人から聞いたことはもちろん、本で知ったことでも、後で自分で調べてみる。
そして、そのことについて、自分の言葉でまとめることをしなくては、自分だけの言語化などはできようもありません。
他人の言葉を鵜呑みにしては、その人と同じなってしまうだけです。
自分の人生なのに、他人が作った思想の中に生きて、何が楽しいのでしょうか。

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