見出し画像

寄席芸人グルメ

寄席の空き時間に行く食堂や洋食屋。
また師匠方が打ち上げで連れてってくれる馴染みの居酒屋。
我々芸人は、それらを全て称して「寄席芸人グルメ」と呼ぶ。

なんてことは無い。

だから間違ってもよそで言わないでね。

だが今回は「寄席芸人グルメ」と称して、いろいろと書いていきたい。

寄席が終わり師匠方に
「ちょっと呑み行こうか」
そう言われ、馴染みの店に連れてってもらう。

「若手の頃、◯◯師匠によくこの店連れてきてもらったんだよ」

我々の世界、先人たちから口伝で落語を教わりそうして受け継がれてきたわけだが、馴染みの店まで自然と受け継がれていく場合もある。
また「◯◯師匠はこうだった」など、その時代の話をしてくれる。この話をつまみに酒を呑むのは最高なのだ。

落語をし酒を呑み、師匠方と話をする。次の日に落語をする。これを繰り返すことによって自分も寄席芸人の世界へと溶け込んでいくのかもしれない。

また一人で出番が終わってふらっと定食屋や洋食屋に行くのもいい。
池袋演芸場の近くに「キッチンチェック」という洋食屋がある。

U字型のカウンターで、昔ながらのレトロな雰囲気。オススメはオムライスなのだが、ここではあえて違うポイントを紹介したい。

それは、働いてるシェフのおじさんたちだ。

決して広くないカウンター内の厨房で、全く無駄のない段取りでテキパキ動いてるのを見てると、もう気持ちいい。

ご飯やサラダを盛りつける人。
揚げ物やハンバーグを作る人。
仕込みをしながら、それを補助する人。

スプーンを右手に持ち、その連携を見ながら料理がくるのを待つ。これがたまらなく良いのだ。ぜひ足を運んで確認していただきたい。


まーここまで、いろいろと紹介してきたわけだが、最後に紹介したい男がいる。

後輩の前座さんに最恐のグルメ王がいる。

そいつは食に対して、貪欲だ。
どれくらい貪欲かと言うと、セミを食べる。豚の脳みそを食べる。
彼は常に新しいものを欲しているのだ。

仲間うち何人かで呑んでいるときに、そいつに質問をした。
「人間は食べたいって思わないの?」

冗談のつもりだった。ところが、、

「もし食べていい、そんなチャンスがあれば興味はあります」

けっこう、まんざらでもない‥。

「じゃあ、この中だったら誰を食べたい?」

僕の同期の仁馬が聞いた。

すると、彼は仁馬の顔をじーっと見つめて、


「僕が食べたいのは兄さんですよ」

耳を疑った‥。
これは新しいプロポーズなのか?告白か?
ハンニバル・レクターだってそんな台詞言ってなかったぞ。恐ろしいやつだ。

そんなグルメな彼はまだ前座さんだ。だが、いつかはやってくるのだ。
彼が真打になり師匠と呼ばれ、たくさんの後輩を引き連れて、虫や豚の脳みそを食べに行く日が‥。
またその店が後輩に伝わり「寄席芸人グルメ」のスタンダードになる日が‥。

その時は是非、僕も仁馬も一緒に打ち上げに参加したいものだ。

いや、どうだろう‥仁馬はもう、いないかもしれない。

(写真)三遊亭仁馬

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?