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アニメや漫画やゲームしかしないオタクこそ実はMCラップバトルにハマる素養があるかもしれないと俺は気付いてしまったのかもしれない

 オタクとラップの相性はいいのかもしれない。俺がそれに気づいたのは2021年6月10日午前5時15分の事だった。世間では既にフリースタイルダンジョンの流行やクリーピーナッツの台頭、さらにオタクコンテンツ界隈ではヒプノシスマイクが十分以上の人気コンテンツとなっている時代で、何を今更、と言われるかもしれないが、少し落ち着いて俺の話を聞いて欲しい。

 俺がこれから話したいのは、「ラップ?なんかガタイの良い怖い人たちが、麻薬を吸いながら地下の怖い所で怖い顔して早口で罵り合うヤツですか?怖い…」というような、偏見によって今までラップというジャンルを意図的に遠ざけてきたオタク…少年漫画やテレビ(ソーシャル)ゲームなどを主戦場とするお前たちに、「ラップは確かに怖いけど、別にその怖い要素に触れずとも、エンタメコンテンツの一つとして楽しく摂取出来るんだよ」という事を伝えたい。それだけの為に今こうして筆をとっているんだ。特に少年漫画…とりわけバトル漫画が好きなオタクには、MCバトルの「個性的なキャラ同士が、己の得意技を持ち寄ってしのぎを削り合う」という様子が刺さる可能性があるから是非最後まで読んで行って欲しい。

「どんな所がオタク向けなの?」

 ラップやヒップホップと言えば、何時もクラスの中心にいる、帽子を斜めに被ったテンションの高い男子生徒達が、「ズィーブラやべーべ!やべーべ!」と言っている、というイメージを持たれている方は未だ少なくないことだろう。かたや俺たちは、クラスの隅っこで涼宮ハルヒの憂鬱を読んでいた冴えないオタク男子。聴く曲と言えばアニソンゲーソン東方アレンジボカロそして平沢進。いったいどうやって俺たちオタクとあのヒップホップが交わるって言うんだ?オタク歴が長い、30代以上のオタクであればあるほど、こういった価値観を持っている人は多いかと思う。ずばり言おう。

 MCバトルはそのまんま少年漫画なんだよ。

 ちょっと前に、映画好きの間で実写版クローズが「不良漫画と思っているオタクにこそ見て欲しい、実はオタク向けの作品」としてバズっていた時代があって、俺はそっちを見たことが無いからそれに関しては何とも言えないんだけど、初めてADRENALINE 2019 FINALのR指定と晋平太のMCバトルを見終えた時に「こ、これは少年漫画の主人公が、修行時代に勝てなかった伝説(レジェンド)に10年越しに勝って成長を描くシーンじゃん!!!」と、鼻息も荒く立ち上がって部屋の中をうろうろしてしまった。

R指定とか晋平太とか言われても、まったく興味の無い人には何のことやらだと思うので、オタク向けの言語に翻訳すると、

R指定…たぶん今日本で一番有名なラッパー。実力も人気も凄まじい、今も最前線で戦い続けている少年漫画の主人公みたいな男。かつて晋平太にMCバトルで負けており、9年越しにリベンジする為に今回の大会に出場した。

晋平太…日本語ラップ界におけるレジェンド。既に前線を退き、現在はラップそのものを広める為の活動にシフトしている。界隈においては誰もが実力とその貢献を認める存在だが、自分の限界を悟り後進に自分が見られなかった夢の先を託す。

 なにこれ。完全にバトル漫画のキャラ紹介じゃん!

 ぶっちゃけ、こうして訳知り顔でこんなこと書いている俺も、上の動画を見て2,3日の浅い知識で語っている「にわか」なのだ。でも、逆にいえば、そんな「二人の関係性の文脈を知らない、知識ゼロの素人」が観ても、このMCバトルが持つ「少年漫画の山場のような熱量」は伝わってくるし、何よりも「MCバトル=けなし合い、罵り合い」というイメージが強かった俺にとって、「尊敬しあっている男同士が、お互いの思いの丈をぶつけ合う」この戦いは、今までラップに抱いていた先入観が一瞬で塗り替えられた、まさに青天の霹靂のようなバトルだった。(勿論普通に罵り合うバトルも沢山ある)

 ラッパー同士が舌戦を繰り広げるという事で、お互いがお互いのパーソナルについて詳しくなっていけば、必然的にそこに因縁が生まれてくるもので、「何年前のどこそこではお前に後れを取ったが、今回は絶対に負けねえ」とか「お前、地元ではちょいと鳴らしてたみてぇだが、俺にそれが通用するかな?」とか、俺たちオタクが漫画の中で見てきたような展開がYouTubeで検索すればゴロゴロ出てくる。それがMCバトル。脚本の無いドラマがそこにある。

「個性豊かなキャラがめっちゃいるけど…それってバトル漫画じゃない!?」

 ラップと一口に言っても、そのスタイルは千差万別で、リズムに乗って韻を踏んでいく王道のスタイルもあれば、とにかく自分の内からこみ上げてくる熱に任せて勢いよくまくし立てていくような、素人から見ると「え!今のってヒップホップなんですか!?」というようなスタイルまで、ラッパーの数だけ独自のスタイルがあって、そんな一癖も二癖もあるような男たち、女たちが、俺のラップこそ世界一だとしのぎを削り合ってる様子、もう完全にバトル漫画なんですよね。

Nidra Assassin vs 呂布カルマ 凄くわかりやすい、個性の対比となっているバトル。両者とも、ルックスの時点で既にバリバリに個性満点で、「おいおいおい…お前ら、富樫漫画のキャラか?」と胸が熱くなるものだけど、ラップを聴いたら聴いたで度肝を抜かれる。

 Nidra Assassin 何言ってるか全くわからない。

呪文か?高速詠唱?圧縮言語?えぇ…全然わからねえ…置き去りにされたような気持ちで呆然としていると、後攻の呂布カルマがこう言った。

Nidra Assassin やっぱ言う事ないらしい 何言ってるか分からない」

 あ、俺だけじゃなかった~良かった~!

 甘いルックスと高速ラップのNidra Assassin 一方、オールバックにサングラスというイカつい見た目に、落ち着いたペースながら確かな殺意の籠った言葉のナイフで切り返してくる呂布カルマ。個性と個性のぶつかり合い、バトル漫画に例えると、美形のスピードタイプキャラと、無慈悲で冷酷無比な殺し屋キャラのバトルを見ているよう。ニドラが最後に物販の告知する時だけ何言ってるのか分かるのは笑った。

 ……ラッパーというとドレッドヘアやダボっとした格好、いわゆるBボーイファッションというイメージがいまだに根強いかと思われがちだけど、世の中にはネクタイに眼鏡、スーツという、まるでサラリーマンみたいな恰好でフロアを沸かせているMCもいる。

 MC DOTAMA はその見た目の通り、一見して飄々とした言葉運びでギャグラップのように見せながらも、「刺す」所では一転して熱量のあるソウルフルなシャウトで俺たちを魅せてくれる、まさに個性の塊のようなラッパーだ。このバトルでは対するR指定が、ヒップホップの王道を極めたようなスタイルであるのもまた、バトル漫画的対比構造として燃える。DOTAMAの展開した「領域」に対して、R指定が相手の土俵に自ら立った上で、相手よりも更に上を行く、という戦い方を見せていて、これももう滅茶苦茶熱い

 YouTubeで検索して上の方に出てくるようなバトルをパパっと貼り付けてみただけでも、かなり個性的で熱いバトルが見られるという事が分かったと思う。ここまで見て、少しでも興味を持った人は今すぐYouTubeで適当に検索してみたらいいと思う。きっと楽しいから。

「で、結局MCバトルって何をした方が勝ちなの?」

 MCバトルを初めて見る人は150%の確率でこう思うのです(1度疑問に思ってググった後、納得できずにもう一回ググる可能性が50%ある)。

 結論から言うと「聴いてる人たちが、”こいつの勝ちだろ”と思った方が勝ち」です。

 俺は個人的に、MCバトルを見るうえでラップの知識は全く必要ないと思っているんだけど、その理由の6割くらいを占めるのがこの部分。韻をどれだけ踏めてるかとか、舌戦において筋道の立った反論が出来ているかとか、リズムにちゃんと乗れているかどうかとか、論理的な評価基準を上げていこうと思えば幾らでも挙げられると思うけど、結局聴いてみて自分の心がどう動いたかについて、後付けで色々言ってみてるだけだと思っている。感想ってそういうもんだし。聴いてみて、なんかいいな、なんかこの人カッコイイな、なんかグッとくるな、そう思ったらもう究極の所「好き嫌い」の単純な話になるんですよね。そこがいい。多くのラップバトルでは、会場の観客の声援の多さで勝ち負けを決めるほかに、運営側が用意した審査員の判定も加わる事もあるんですが、結局誰が判断するにしても最後は「好き嫌い」になるところが、しっかり芸術してるなって思って凄く良い。「よくわかんねえけど、なんかグッとくるわ!」で行ってしまってもいいし、そこから色々と自分の中に評価基準を作っていってもいい、そんな部分もまた理屈付けしたいオタクにマッチしていると思います。

「なんか、ライムとかパンチラインとかバースとか、専門用語が多くて分からない…」

 ヒップホップを聴いてみようと有名どころのアーティストの公式YouTubeチャンネルなどにとんでみて、楽曲を垂れ流しながらなんとはなしにコメント欄などをスクロールして見ると「ここの押韻が半端ない」とか「ここのバースがどうたらこうたら」のように、ヒップホップ好きの人たちが専門用語を交えてコメントをしている所によく遭遇する。

 どんな分野であっても、「なんかよく分からない専門用語を連発する玄人達の存在」というのはそれだけで初心者を威圧し、二の足を踏ませてしまうものと相場は決まっている。決して彼らに悪意はないし、専門用語を使って会話する事に対して善悪を持ち込んで糾弾する意図はないものの、取り合えずで聴いてみようと思った時に専門用語の羅列が出てくると脳味噌ショートする、という気持ちは滅茶苦茶良く分かるし、日々世界のあちこちで起こっている止めようもない現象でしょう。

 もしも、専門用語の意味が理解できないからヒップホップを聴くことを躊躇っている、という方が居たら、俺は「別に難しい事を考える必要はない。専門用語も覚える必要はない。ただ聴いてみて、良かったかどうか。大事なのはそれだけ」だと伝えたい。ヒップホップに限らず、芸術、エンタメ、全般に言える事で、少しその分野に明るくなった人間というのは、どうしても自分の知識を総動員して自分の感情、感想を伝えたくなって、結果、専門用語を連発する存在になってしまうものの、知識を持たない人間がそれに対して引け目を感じる必要性は一切ない。ただただ聴いてみて、ピンとくるかどうか。それだけでいい。実際俺も、MCバトルを知って2日目でこの記事を書いている。好きになるために、知識は必要ない。

「で、結局何を見ればいいの?」

 ラップの知識が一切ないと、どういうラッパーさんがいるのかも分からないでしょうし、最後に有名どころのラッパーさんの名前を紹介して終わりにしたいと思います。取り合えずGoogleの検索窓に「名前 バトル」みたいに入力して、適当なヤツを再生すればいいと思います。

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R指定

名実ともに今現在日本で最も有名なラッパー。Creepy Nutsというユニットのメンバー。あまりに有名過ぎてラップを知らない人でも知っているので、ラップバトルに出てくると「ガキ向けのラップを作りやがって」と煽られる。ラップの技術がちょっとどうかしてるレベルで凄すぎるので、最初にR指定を聴いてしまったが為にこれを基準にしてしまうと多分滅茶滅茶耳が肥える。

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呂布カルマ

 「MCバトル最強」と呼ばれる事もあるが惜しい所で勝ちきれなかったりもしていて、シルバーコレクター的側面も持つ。でも実力は間違いなくトップレベル。個人的に滅茶苦茶好きなラッパーさん。音源(楽曲のコト)では内省的でいて独特な世界観を見ることが出来る。カリスマ性が凄いのと独自の世界観を持っているからか、MCバトルでは「宗教臭ぇんだよお前」と罵られる事がある。

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MC DOTAMA 

 眼鏡にネクタイ、スーツ姿でマイクを握る異色のラッパー。ユーモアと皮肉のきいた言葉選びと、オタクっぽいセンスでラップに抵抗感がある人でも割と親近感を覚えやすいラッパーさん。ホームセンターの社員としてサラリーマンをしながらラップをやってた人。あのヒプノシスマイクにも楽曲提供している。

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Diggy MO

 アラアララァ SOUL'd OUTのメインMCとして活躍、後ソロでも華々しい活動を続けるラッパー。オタクはみんなDiggyが大好き。ラップが上手すぎるのと言葉選びのセンスが独特過ぎるのとで、何を言っているのか先ず聞き取れないし聞き取れても意味が分からないが兎に角聴き心地が良すぎるので驚異的な中毒性を誇る。SOUL'd OUT時代にはジョジョのテーマソングを歌ったり、荒木先生の仕事場に遊びに行ったついでにメンバーの一人がジョジョの1コマを描くお手伝いをしたこともある。近年ではヒプノシスマイクに楽曲を提供した事に加え、辻野あかりに楽曲提供していない事でも有名。MCバトルに出場したことはない。わかってんだろ?ペイス…

今日はこんなところでおやすみなさい。歯、磨いて寝なさいよ。

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