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さようなら、透明だったぼくたち。或いは如何にして色の無かったぼくが初めて立ち上がり、シャニマスというクソデカ感情製造機により怪文書おじさんとしてデビューするにいたったか

 アイドルマスター・シャイニーカラーズというゲームがある。

 御年15周年、バンナムが世界に誇る一大コンテンツ「アイドルマスター」の中でも最も若いシリーズにあたる今作は、先日2周年を迎え、それにあたって新ユニットの「noctchill (ノクチル)」も加わり大きな盛り上がりを見せながら3年目へ向かってこぎ出したところだ。

 ぼくがこの大量情緒破壊兵器の存在に出会ったのは、折しもこのタイミングだった。

 いや、正確にはリリース初日からインストールはしていた。なんなら運命の出会いガチャも回し、何人かのアイドルたちをプロデュースし、最初のシナリオイベントもクリアしていたはずだ。

 はずというのは、結局ぼくが最初の数週間ほどでこのゲームで遊ぶことを諦めてしまい、それ以降2周年を迎えた先日に至るまで、Twitterに流れてくるえっちだったりえっちじゃなかったりするファンアートを保存しては「冬優子は可愛いな~(脳死鼻ほじ)」くらいにしか「シャニマス」というものの存在を認識する事が出来ていなかったからに他ならない。

 きっかけは、とある配信者のシャニマス実況だった。ぼくがシャニマスを諦めてしまった理由はたった一つで、それは「WINGでどうしても優勝出来ない」という、ゲーマーを自称する身には実に情けないものだった。

 実況ならば、自分が諦めてしまった「輝きの向こう側」も見せてくれるのではないか。元々イラストも滅茶苦茶好きだったし、この機会に攻略方法とかもお勉強して復帰出来たらいいな~くらいの気持ちでぼくは配信を覗いた。

 配信開始から数分。配信者はとあるイベントコミュの話を始めた。それが、「あの」有名な「薄桃色にこんがらがって」だった。

 シャニマス三大怪文書おじさんと言えば「チエルアルコおじさん」「ノットイコール三峰おじさん」そしてこの「薄桃色にこんがらがっておじさん」というのがぼくの中で勝手に有名だが、当時シャニマスを真に知らなかったぼくには、おシャニが、感情の化物となったおじさん達がネットのあちこちに怪文書を書き散らすほどにシナリオが良い、という認識は一切なく、その配信者の口から語られた「どうやらこのゲームは死ぬほどシナリオがいいらしいぞ」という言葉を聞いて、ようやく重い腰を上げるに至ったというわけだった。

 タイミングも良く、その時はイベントコミュが一部を除きほとんどが解禁されており、ぼくは言われるがままに「薄桃色」に至るアルストロメリアのイベントコミュを読み進めていくこととなる。

 はじめはオート再生にし、作業用BGMの代わりにぼんやりと流していた。次第に大崎姉妹と桑山千雪が醸し出す「きららアニメ的ほんわか癒し空間」に心もニコニコしてきたぼくは、クエストロメリアのあたりからはオート再生を切り、自らの手でタブレットを握って読み進めていた。

 引きこもり気質で妹と千雪さんにべったりな可愛い可愛い甜花ちゃん。お姉ちゃん大好きでおしゃれな今時女子高生のなーちゃん。そんな二人を実の妹のように優しく包み込むおっとり雑貨大好きな千雪さん。

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 三人の少女たちの聖域、エデンの花園のようなアルストロメリアというグループにこれから訪れる「その物語」について、配信者の口から多少のネタバレを得ていたぼくは、クエストロメリアを読み終えた時点で心穏やかではなかった。

 結論から言うと、ぼくはもうワンワン泣いた。

最期、千雪の提案で始まった「反対ごっこ」。もうこれでダメだった。

「アルストロメリアなんて、大っ嫌い」

反対ごっこのルールに隠して、自分の中の「その気持ち」を吐き出していく千雪の姿に、優し過ぎるが故のその感情の決着の付け方に、ぼくはもう、鼻水をたらして無様に泣きじゃくる事しか出来なかった。

シャニマス、すげえな。

 イベントコミュを三つ読んだだけで、キャラクターの背景を大して知りもしなかった一介の萌え豚が、しゃっくりが出るほど泣き乱し、心を打たれるほどのシナリオがそこにあった。

 これはヤバいコンテンツに出会ってしまったぞ。その時ぼくは確信した。読んでいないイベントコミュはまだまだ残っていて、そのほかにもどうやらアイドルごとの個別コミュにも恐ろしい伏兵が潜んでいるらしい。

 そこからはもうあっという間だった。残っていたイベントコミュを読み漁り(残念ながら解禁期間中にすべては読めなかった)、諦めていたゲーム部分にも手を出した。

 2年という月日の流れの中で、シャニマスくんに「初心者ミッション」というものが追加されていたのも追い風となった。

 はづきちさんの言う通りにしていれば優秀なサポートカードが手に入り、先人たちがこの2年で培ってきた攻略情報も当時に比べて潤沢になっていて、コツさえ掴めばWINGで優勝を掴む事も難しくない。まったくもっていい時代になったものだ。

 「アイドル達が紡ぐ物語」というご褒美を前にしたぼくが、そこから初めてこがたんをトゥルーエンドに導くまではそう長くもなく、色褪せていたぼくの日常は瞬く間に283プロのアイドル達が放つ虹色の輝きによって染め上げられたのだった。

 ニコニコ動画でシャニマスと検索しては、先人たちが残したMADを漁った。しかしそんなに数が無いのであっという間に弾切れになった。Google先生に「シャニマス イベントコミュ」と入力しては、コミュの感想を読み漁った。頷きと気付きがそこには星の数ほどあった。

 この間約三日。シャニマスによって情緒と自律神経と生活リズムを完全に破壊されたオタクは、寝ても覚めても冬優子と”ふゆ”の関係に想いを馳せ、一日一回Twitterで「空から太陽キッスラブコールでっしょ☆」と呟き、アンティーカの絶対的センターはこがたんだけど、何時もこの箱舟の行き先を決めている羅針盤は霧子なんだよなぁ…とうわごとのように漏らす、そんな生活を一ヶ月程続けた。

 シャニマスに触れ、アイドル達の軌跡に想いを馳せ、先人たちの「気づき」を飲み下す度、おシャニに対する感情は膨れ上がり、心の壁にぶつかっては増幅されるエコーとなってぼくの生活を支配していった。

 このままでは、シャニマスに憑り殺される。

 危機感を覚えたぼくは、午前1時にnoteのアカウントを取得し、頭の中で飛び交う無数の言葉の群れを何とかまとめようとキーボードを叩いた。どこから書いていいのかも分からず、ただただ言葉を吐き出しただけのものにならないようここまで慎重を期してきた。だがもうだめだ。体裁なんてとっていられねぇ。この押し寄せる感情を全て吐き出しきるには、文章のお作法なんかに則っている場合じゃねえ。

 とにかく、こんな自分語りの文章でも何でもないものはとっとと切り上げるに限る。切り上げて、各アイドルについて今のぼくが抱いている所感とかそういうのを書いた方がいい。そっちの方がまだ建設的だ。そうしよう。

 そういうわけで今日はここまで。おやすみなさい。歯磨いて寝ろよ!

 

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