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「光る君へ」第一話の冒頭 まひろの両親と伏籠。

開始2分あたり:ちやはと為時登場

まひろの母ちやはは、黄色の単に黄緑の袿を一枚だけ羽織って登場。
(ちやはって名前、馴染まないな…)
柄はなんだろう、最初見た時はコーヒー豆にしか見えなかったのですがそんな訳はないですし。
外を出歩く(という設定)ので長袴ではなく、切袴を履いています。

NHK 大河ドラマ「光る君へ」公式HPより

基本的に平安時代の貴族の女性は肌を見せないのが常だったので、お姫様は足がすっぽり隠れる長袴を履き、装束も手がすっぽり隠れるほど袖が長く、顔も、極めて親しい人以外の前では扇で隠すものだったのです。
とはいえ、この時のちやはの立場は下流貴族といったところなので、お部屋でのほほんとしてる訳にもいかなかったのでしょう。

まひろの父為時は、中国の古典『蒙求(もうぎゅう)』を音読中。
為時の周りには、学者らしく巻子(かんす)が積み上がっています。

藤原為時の正確な生年は不明ですが、977年時点でまだ30歳前だったようです。
式部省に属する官吏養成のための高等教育機関、大学寮を出ていました(つまり式部省での試験に合格した学問のエリート)。
なお、大学寮を出た人を文章生(もんじょうのしょう)と言います。
ただ、出自やコネがものを言う世界なので、大学寮を出たところで必ずしも安定した職にありつけたわけではないようです。

NHK 大河ドラマ「光る君へ」公式HPより

↑今はちょっと30歳前には見えないけど...!
ストーリーが進むにつれて年齢と見た目が一致してくるはずですし...!

為時は大学寮を出たあと、どこかの地方官に命じられ(確かな記録が残っていないのです)、その後968年に播磨権少掾(はりまのごんのしょうじょう)となりました。

  • 播磨国は今の兵庫あたり。

  • 掾(じょう)は前回ご紹介しましたが、その役所の三番手を意味位します。ここでは播磨国の国司の三番手ということになります。おそらく大掾もいて、三番手でも下のほうだったと想像できます。

  • 少掾の官位は基本従七位上。

  • 権官は正規の官に対して、仮に置かれた役職。
    正規の役職の人数は埋まっているけれど、訳あって増やしたいなどの場合に権〜(ごんのほにゃらら)といった名称で任官されるのです。

※役職に関しては以下の記事でも簡単に紹介しているところがあるのでみてみてくださいね↓

国司の任期は4年ですので、972年には任期を終え、その後977年まで正式な仕事(任官)がありません。

ではどうやって生活していたのかというと、上流貴族の家や宮中でたまに催される漢詩の会とか和歌の会とかに呼ばれて、いい詩や和歌を読んで、ちょっとした俸禄を得て細々暮らしていたわけです。

開始4分半あたり:小鳥を飼っている伏籠

最後に、まひろが鳥を飼っているあの籠。
鳥籠ではなく伏籠(ふせご)ですね。伏籠は本来、衣にお香を焚き染める時に使うものでした。
香炉の上に伏せて置いて、その上に衣を被せることで、衣に匂いを移すんです。

伏籠
京都 風俗博物館より
香炉の上に伏籠を被せ、その上に衣を置く事で、衣に香りを移す。

ドラマの演出上は間違い無く、『源氏物語』で光源氏が初めて紫の上を見つけるシーンのオマージュです。
「すずめの子を犬君が逃がしつる。伏籠のうちにこめたりつるものを。」
まひろの小鳥も、このあと逃げてしまうところまで一緒です。

ただドラマ上は、もしかしたらまひろの母のちやはが、「いいよこの伏籠を使って。もう衣に香を焚き染める必要も余裕もないし…。」って感じで、鳥籠にしたんじゃないかと想像。
もちろん伏籠は高級なものではないし、必要となったらまた手に入れればいいこと前提ですが、衣を食べ物に変えるくらい余裕がないあの家で、優雅に香を焚く時間があったとは思えないのです。

まひろのお家で大事にされているのは、母のちやはの琵琶と父の巻子だけ。
さてさて琵琶はこのあと、大事な役割を担っていくのだろうか…。

《参考文献》
倉田実『ビジュアルワイド 平安大辞典 図解でわかる「源氏物語」の世界』
承香院『あたらしい平安文化の教科書』
八条忠基『日本の装束 解剖図鑑』
倉本一宏『紫式部と藤原道長』
NHK大河ドラマ「光る君へ」公式HP
https://www.nhk.jp/p/hikarukimie/ts/1YM111N6KW/


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