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狩猟免許の申請をしてきたんだが、俺はもう限界かもしれない。

こんにちは会長です。今回は長文となります。

当方は夢が星の数ほどある男として神戸市中央区あたりに名を馳せているのだが、その夢の一つに「山籠もりをする」というものがある。山籠もりと言っても空手バカ一代みたいに熊やら牛やらをぶちのめす類のものではなく、山の中で山菜やら野鳥やらをとるサバイバル生活がしてみたいということである。美しい自然と触れ合い、様々な困難も己が手一つで切り抜け、神羅万象のすべてを噛み締めようというのはまさに漢のロマンでしょうが。

すればいいじゃんと思うかもしれないが、山籠もりには必要不可欠のものがあるのだ。それこそが「狩猟免許」である。狩猟免許は野山にいる動物を捕まえてもいいという国からの許可証のことであり、もし狩猟免許なしに猟を行えば、たちまち兵庫県猟友会によって捕獲され、牡丹鍋にされて食べられてしまうという噂である。兵庫県猟友会、恐るべし。

当方も第一段階として狩猟免許を取ることにした。狩猟免許にもいろいろ種類があるが、当方はとりあえず一番初期費用が安く済む罠猟免許を取ることに決めた。本当は第一種狩猟免許(ライフルの所持が許可される)がほしかったのだが、初期費用が最低でも20万円かかると言われ泣く泣く諦めた。とは言っても、罠猟免許でも10万円くらいはかかるのだが。背に腹は代えられないだろう。

狩猟免許を申請するために必要なものは4つある。①収入証紙(5200円)申請書医師からの診断書写真 である。③「医師からの診断書」というのは、例えばライフル免許を取ったある人がそのライフルで人のどてっ腹をブチ抜くようなやべー奴かもしれないので、心療内科の先生に「この人は頭おかしくありませんよ」という診断書を書いてもらわなくてはいけないのである。①、④に関しては購入すればいいだけなのだが、②と③が色々と面倒くさかった。あまりにも面倒くさかったのでブログに書くことにした。

まずは医師の診断書をもらおうと思って、芦屋市内にある心療内科に片っ端から電話をかけてみることにした。まずは一軒目。

「こんにちは。〇〇クリニックです。」

「そちらで狩猟免許取得の際の診断書を書いてもらいたいんですけれども…」

しゅ…えっと…何免許ですか?」

「狩猟免許です。あの…狩りをするための免許です。」

「か、狩り…ですか…あー、狩り、狩猟ですか…。」

「そちらで診断書をいただけますでしょうか?(半ギレ)」

「そ…うですね、そのような方が来られたことがないもので…その…ちょっと難しいですね…うーん」

「分かりました、別のところにします」

二軒目

「はい××心療内科です。」

「そちらで狩猟免許取得の際の診断書を書いてもらいたいんですけれども…」

「しゅ、りょう…?すみません、もう一度言ってもらっても…。」

「狩猟免許です。狩りの狩猟!(半ギレ)」

「し、少々お待ちください…」

テレレレ~テテ~♪(G線上のアリアが5、6分流れ続ける。その間携帯を耳にくっつけ待ち続ける。)

「お待たせして申し訳ありません。今××(院長の名前)に聞いてみましたところ、そのような診断書はこちらではご用意していないt(ブツッ


n軒目

「お電話ありがとうございます、△△医院です」

そちらで狩猟免許取得の際の診断書を書いてもらいたいんですけれども!(すでに半ギレ)」

「免許…?運転免許ですか?」

狩猟免許!!!!狩りの!!免許!!っっっつってんだろ!!(ブチギレ)」バァン!(何かを殴る音)

「え、えっと…狩猟免許ですか…こちらではちょっと…」

うわああああああああああああああああああ(発狂)」


危うく心療内科を探すことが原因で心療内科に通う羽目になるところだった。木乃伊取りが木乃伊になるとはすなわちこのことか。全然違うか。

ようやく一軒診断書を書いてくれるという診療所が見つかったので、飛んで行った。院内でも30分くらい待たされた。まあ、別にいいが。診察室に入り、当方は手ごろな椅子に腰かけた。

「今日は狩猟免許の診断書をもらいに来られたんですよね?」

「はい、そうです」

「ええっと…狩猟免許の診断書…ってどう書けばいいんだ?ハハ、分かんねえやこりゃ」

え?

「いや、こんな診断書書くの初めてだからね?どういうフォーマットで書けばいいのかな、っていう…」

「何言ってんだヤブ医者が(まだ書かれたことがなかったんですか?)」


なんとここの医者は狩猟免許の診断書を一度も書いたことがなかった。なんでOK出したんだよと今にも啖呵を切りそうだったが、何とか自制した。

「まあ、こんな感じでいいか…。なんか…てんかんとか…無い?」

「ないです」

「大麻とかも吸ってないよね、まあ、そりゃ吸ってないか…タハハ」

「はは…」

「…うん、オッケオッケ、診断書書いといたんで。」


尋常じゃないスピードで診察は終わった。あまりにも早すぎたので常人にはほぼ観測不可能である。早く仕事を終わらせて昼休憩に入りたいという執念が感じられた。

応接室でまた10分ほど待たされた後、ようやく名前が呼ばれた。

「会長さーん」

「はい」

「今日のお会計がですね、診察費1100円と、診断書代6600円合わせまして、合計7700円となっております」


!?!?!?!?!?!?!?


分給7000円って…仕事なめとんのかお前は!?何が悲しくてニンゲンブタモドキと雑談して7000円もとられにゃならんのだ!キャバクラのほうが万倍良心的じゃボケ!!!

…と捲し立てたいところをぐっと我慢し、血の涙を流しながら当方は1万円札を手渡した。その手は震え、口からは嗚咽が漏れていたので、受付の人もよほど重い病気なのだろうと心配になっただろう。もう二度と心療内科などに行くまいと、心を新たにした瞬間であった。


病院から出ると当方はその足で市役所へと向かった。狩猟免許の申請書をもらいに行くのと、来月から自動車免許合宿に行くので、そこで必要な住民票を取りに行くためである。

市役所で面倒な手続きを終えた後、当方は申請書をもらえる課を探した。と言っても狩猟免許の申請書がもらえる課などその辺の職員にも、ましてや当方にも分かるはずがなかったので、取り敢えず市役所地下一階にある「おこまりです課」に行ってみることにした。

おこまりです課には女性職員が二人おり、雑談に興じていた。とても暇そうである。このクソ税金泥棒どもが。

「すみません…」

「はい、何かお困りですか?」

「狩猟免許の申請書をもらいに来たんですけど、どこの課でもらえますか?」

「しゅ…え?」「運転免許…?」

またこの流れか…いや、もう何も言うまい。当方は噛んで含むように説明をした。

「はあ~…狩猟免許ですか…。ちょっ……とお待ちいただけますか?」

「はい」

どうやらおこまりです課の人間も狩猟免許の申請に関しては何も知らないようだった。いったいどれだけマイナーな免許なんだ。もはや市内で狩猟免許の申請を行っている人間は当方だけだと言っても過言ではない。

数分後、書類の山を抱えた職員がやってきた。申請書を持ってきてくれたのかな、と思ったが甘かった。

「あのう…狩猟免許の申請書は、多分…市役所ではもらえなくて…書いてあるところによると、阪神農林振興事務所でしか配布していないらしいんですよ…。」

と言いながら、阪神北県民局阪神農林振興事務所の場所を地図でおずおずと指さした。なんとそこは三田市、神戸から電車で2時間近くかかるド田舎だったのである。どれくらい田舎かというと、三田プレミアムアウトレットとフルーツフラワーパーク以外何もないくらい田舎である。でもよく考えたらアウトレットもフルーツフラワーパークも神戸市北区だった。終わりやね。

なんで紙切れ一枚もらうために三田まで行かにゃならんのか、人は怒りを通り越すと涙を流し始めるというが、当方も例にもれず静かに涙を流し始めた。あまりにも絶望的な空気感に、目の前の職員も唇をかみしめ俯いたまま沈黙していた。もう仕方ない、三田に行こう。プレミアムアウトレットでレゴブロックでも買おう。帰りはフルーツフラワーパークで梨狩りでもしよう。どっちも神戸市北区だけど。半ば諦観していたその時、もう一人の職員が声を上げた。

「今見た書類やと、こっちでももらえるらしいよ!」

何だって!?一気に期待感が高まった。どうやらその職員が言うことには、市役所内ではなくそこから少し外れた、地域経済振興課というところで配布しているようだ。何とかその課と電話をつないでもらい、申請書をもらいたいという旨のことを伝えていただいた。これで最果ての地、三田に行くことはなくなっただろう。当方は胸をなでおろし、改めて市役所職員一同に感謝した。

しかしまた問題が発生していた。

「その地域経済振興課がですね、5時半には閉められてしまうんですよ…」

時計を見ると、なんと針はきっかり5時25分を指していた。走っていけばちょうど5分で間に合うと言われた当方は、韋駄天のごとくその場を後にした。警察署を越え、カトリック教会を越え、ようやく地域経済振興課にたどり着いたとき、時刻はなんと5時29分。数十秒の差で間に合わなくなるところであった。

汗だくの状態で申請書をもらい、帰路に就いた。色々なことがあってへとへとであった。しかし、まだ狩猟免許取得までの道は始まったばかりである。申請書を出しても志願者が多ければ落選する可能性もあるし、仮に受かっても初心者講習会やら、実技試験やら、芦屋市狩猟免許技術養成講習会やらが待ち受けている。申請するだけでここまでしんどいなら、一体この先どれだけしんどいんだ⁉午後5時半、まだ夕焼け空とはいいがたい空の下、恐ろしい幻影を振り払うかのように、ロマンチック通りを自転車でひた走る俺がそこにはいた。