ジェットモグラ

 高校の時に、初めてプラモデルのモーターライズキットを買った。

 何の事か分からない人もいることだろう。ただ、難しい言葉は入っていないので何となくの類推でも十分意味は分かる。要は最初からモーターで動くような仕組みが組みあがるようにしてあるプラモデルだ。

 そのキットは表題の通り、ジェットモグラだ。

 ジェットモグラと言えば、英国で作られた特撮人形劇『サンダーバード』に登場する救助メカのひとつだ。

 戦車のようなクローラーを装備した落ち着いた金属色の車体部の上に、鮮やかな黄色い筒状の本体に巨大な銀色のドリルを装備したモグラ部が乗っかったデザインをしている。

 勿論その見た目の通り地中を掘り進む。ジェットの名を冠する通りモグラ部の後部からジェットも吹かす。それはそれは凄い速さで穿孔するのだ。

 ただし地中へ潜る際には車体部は地上に置いて行ってしまう。モグラ部の運搬と、モグラ部の後部をぐいと高く持ち上げてドリルの切っ先を地下へ向けるのが車体部の役目であるからだ。

 父親と共に、借りてきたVHSを見ながら、その思い切りが良すぎる設計思想に驚愕した幼少の時のあの時間を今でも覚えている。

 そんなジェットモグラのプラモデルが、つい先日完成した。

 たしか高校二年生の時に買ったはずだから、もう10年前だろうか。

 10年間、ジェットモグラはモグラ部だけ組み立てられた状態で棚で眠っていた。いや眠らされていた。過去の自分によって表面処理も何もなく、ただただラッカー塗料で雑に色を付けられたモグラ部だけ、まるで地中に取り残されたように箱の中で眠らされていた。

 それを発見した僕はなぜだか嬉しくなって、表面処理も何もなく、ただただラッカー塗料で雑に色を付けて、クローラーに至っては塗装すらせずに、土台部を組み上げた。

 ジェットモグラを買ったのは高校の帰り道にあった模型屋でだった。ああでもないこうでもないと何の益もないが楽しい、口論にも似たやり取りをしながらうずたかく積まれた模型の箱をかき分けていると、ふと目に留まったがジェットモグラだった。

 箱に書かれたモーターライズの字を見て友人は

「完成したら動画でも写真でもいいから見せてくれ」

 と興奮気味に言った。私はそれに

「勿論」

 と目を輝かせて約束をした。

 彼とは今連絡がつかない。

 何気なくした約束はもはや夢の彼岸にある。

 モグラのスイッチを入れるとドリルは勢いよく回った。それに合わせてモグラ上部の警告灯もチカチカと点滅する。

 車体のスイッチを左に動かすとクローラーがゆっくりと地を踏みしめて前進した。右に動かすとまたゆっくりと後退をした。

 さあお前をどう動かしてやればあいつとの約束を果たせるだろうか。

 地を掘ってたどり着ける場所にあいつはまだいるのだろうか。

 そんな答えは出せないまま、私はジェットモグラを箱の中に戻した。

 またしばらく眠っていてくれ。あいつを見つけるその日まで。

 こればかりは、救助メカに頼り切りにはなれないから。

 ただ、あの日に置き去りにした約束もいつかきっと絶対に果たせるだろう。

 だってお前もちゃんと、いつも律義に土台を迎えに帰っていただろうから。

 なあ、ジェットモグラ。

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