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第46期最高位決定戦観戦記(前編)

11月といえば、何を思い浮かべるだろうか?

秋が深まり、役目を終えたカボチャたちとバトンタッチをして、街には綺麗なイルミネーション。少しずつクリスマスムードが漂い始める。
日に日に肌寒くなり冬の訪れを感じ始める頃、麻雀に人生を捧げた男たちの、1年で最も熱い戦いが始まる。

そう、今年も最高位決定戦の季節がやってきた。

現在、最高位戦にはD3リーグからA1リーグまで、全部で10個のリーグが存在する。会員数は総勢600名を超える。1年で、半期リーグなら40半荘、年間リーグでも48半荘という限られた対局の中で、1つでも上のリーグへと進むために何百人もの麻雀プロたちがしのぎを削っている。麻雀プロをこころざし、最高位戦の門を叩いた者たちほぼ全員がこの舞台で打つことを心の底から願い、日々練習や研究に励んでいる。
この最高位戦決定戦という舞台は、最高位戦のプロたちにとっての夢であり、憧れなのだ。

しかし、この何百人といる麻雀プロの中で、最高位決定戦に出場することが出来るのは、A1リーグを勝ち上がった3名と現最高位の計4名のみ。

今年もスリアロスタジオにポツンと置かれた小さな卓の上で、麻雀に人生を捧げた4人の男たちの壮大なドラマが始まった。

けっか0

1節目、2節目は「醍醐の節」だった。
正確な手順と、手牌に溺れない我慢強さで抜群な安定感を誇った。
2節目ではそこに運も大きく味方し、8半荘にして167ポイントもの貯金を積み上げた。安定感が武器の醍醐にこれだけの貯金を持たせたら、なかなか崩れるイメージは沸かない。2節目にして今年も醍醐最高位の連覇で決まりか?というようなムードさえ漂い始めた。

3節目は「新井の節」だった。
1、2節目で大きなビハインドを背負ったという状況も相まって、高打点を見据える思い切った新井の手筋がピタリとはまり続けた。
3連勝を含む、全連帯で1節で136ポイントをプラスした。
それだけにとどまらず、トータルトップの醍醐に3ラスを引かせることに成功し、上下の差が一気に詰まり、勝負を振り出しに戻した。
2節目終了時から一転、誰が最高位になるのか、一切分からなくなった。

そして全員スタートラインに並びなおして迎えた4節目。

12半荘で2トップながらもなんとか凌いでトータルポイントをほぼフラットに抑えていた「鈴木の節」となった。

初戦をトップで終えて、迎えた14回戦目に事件は起こる。

しょーすーしー

(画像引用:麻雀プロ団体LINEチャンネル/Ⓒ株式会社スリーアローズコミュニケーションズ)

東1局に醍醐から役満を直撃。醍醐を大きなラスに沈め、7万点の大トップとなった。
15,6回戦もトップ・2着となり、トップ3回、2着1回と、1節で182ポイントの大きすぎるリードを築き上げ、最終節を迎えることになった。

けっか0-1


そして、11月17日(水)
最高位決定戦の最終節が行われた。
泣いても、笑っても、あと4半荘。
この4半荘で、今年の最高位が決まる。

最終節を△115ポイントの4位で迎えたのはこちらの選手。

いんたびゅ あらいさん

38期最高位の新井啓文。

1節目、2節目ともに大きなマイナスを背負うのだが、対局終了後のインタビューでは誰よりも明るく、誰よりも楽しそうに対局を振り返っていた。インタビューの中で「めちゃくちゃ楽しいです!」という言葉を何度も口にしていたが、それは強がりではなく、嘘偽りない本心のように感じた。

そして、最終節を迎えた今日も、新井はいつものように明るくインタビューに答えていた。
実況の浅見さんが、対局者の4人それぞれに
「あなたにとっての最高位決定戦とは?」
という質問を投げかけていたのだが、新井はそれにこう答えた。

「最高位決定戦は僕にとっての青春です。」

新井の青春を、人生を賭けた4半荘。
新井の執念が、鈴木をどこまで追いつめるか。

△40.4ポイントのトータル3位でこの日を迎えたのは、園田賢。

いんたびゅ そのだ

新井同様、インタビューでは多くの笑顔が見られた。

これは園田と麻雀やお酒の席で一緒になったことがある人なら知っている人も少なくないかもしれないエピソードだが、園田はスマートフォンの待ち受け画面をリーグ戦の成績表の画像にしているのだ。リーグ戦のことを、いつも頭から離れないようにするためだそうだ。
園田はMリーガーにドラフト1位で指名され、初代チャンピオンにもなり、順風満帆な経歴にも見えるが、決勝の舞台には何度も立ってはいるものの、意外にも個人のタイトルを手にしたことはない。

第4節が終わってから今日に至るまで、園田のスマートフォンの待ち受け画面には、きっと第4節終了時の成績表が貼ってあったのだろう。
その待ち受けを見るたびに、何度も、何度も、この日のことを考えてきたのだろう。
どうすれば自分が最高位になれるのか、と。

ここまで16半荘を終えて2トップと苦しい中、最善を尽くしてマイナスを最小限にとどめてきた。
この最終節が、「園田の節」になることを信じて。自身初のタイトルに向けて、いざ。

独走する鈴木の一番の対抗馬となるのは
△13.9ポイントで2位の現最高位、醍醐大。

いんたびゅだいご

1、2節目で大きなリードを築きつつも、三者からの厳しいマークにあい、ついにはトータルマイナスで最終日を迎えることとなった。

しかし、醍醐には一切の焦りは見られなかった。

インタビューではいつものように落ち着いて喋っていて、ここまでの内容に関しても満足のいくものだったそうだ。

対局前に醍醐が発信したツイートがこちら。

だいごついった

「3戦で6着順差をつけて、最終戦を着順勝負に。」
言葉にすると簡単そうだが、そうすんなり行くものではないことは重々承知しているだろう。しかし、出来ることは限られている。
「ただ、最善の打牌を繰り返す。
あの後の勝負の結果は、牌が決めるもの。」
醍醐はそう話したそうだ。

現最高位としての、誇りを、威厳を、風格を。
その打牌に込めて。

そして、2位以下に大きなリードを広げて最終節を迎えたのは、鈴木優。

いんたびゅすずき

トータル+168.3ポイントで4位の新井とは283ポイント、2位の醍醐とさえ182ポイントのリードがある。
4節目を終えてからの2週間、どんな気持ちで今日を迎えたのだろうか。

「圧倒的有利。」
数字だけ見ると間違いなくそうだろう。

しかし、そう簡単にいかないのがこの最高位決定戦という舞台である。3者が鈴木のポイントを削るため、少しでも鈴木が損になるように、最高位戦を代表するトッププロの3人から、麻雀というゲームのルールの範囲で、出来うる限りの「嫌がらせ」をされ続ける4半荘。そうなることは、鈴木も当然分かっている。だからこそ、今日もやることはいつもと変わらない。
自身の読みを信じて、ひるまずに押していくこと。

数えきれないほどの応援を背に、東海をはじめとする多くの仲間たちと磨いてきた腕を信じて。

そして始まった46期最高位決定戦、最終節。
17、18回戦は醍醐に牌は味方した。

けっか

2連勝で開始時に180あった鈴木との差を50にまで一気に詰めてみせた。
また、初戦で鈴木を大きなラスに沈めたことで、トータルラス目の新井でさえ230の差となった。最高位戦ルールの順位ウマではトップラスを決めるだけで60ポイント縮まる。初戦のように鈴木を箱下まで落とし、自身が6万点のトップを取れば1半荘で120縮まる計算だ。当然険しすぎる道のりではあるが、最高位への道が閉ざされているわけでは決してない。ほんの少しでも可能性がある限り、それを実現させるために牌を選ぶだけだ。

そして、残すところあと2半荘。

この2半荘で、最高位が決まる。

後編に続く。

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