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【鈴木優プロ編】天鳳名人戦観戦記【第3回】

天鳳名人戦の第2節は、11月17日に行われたのですが、1卓だけ別日対局として翌週行われました。理由は、天鳳名人戦に出ている2名の選手がその日に行われていた最高位決定戦の最終節に臨んでいたからです。

たいとる

皆さんご存じの通り、最終半荘まで勝負がもつれた中、激戦を制し最高位となったのは鈴木優プロでした。

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そして、惜しくも敗れてしまったのが45期最高位の醍醐大プロです。

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天鳳名人戦2節の別日対局はこの翌週に行われ、早速、新最高位VS前最高位の再びの直接対決の舞台となりました。
新最高位となった鈴木優プロはこの天鳳名人戦の出場権を、多くのプロが参加した一般予選を見事勝ち上がって手にしているわけで、それがなければこのカードは実現していないわけであります。これには、さすがになにか運命的なものを感じざるを得ないですねぇ・・・!!

さらに、同卓者には天鳳名人戦最多タイの2回の優勝を誇る福地誠氏と、18期雀王でMリーガーの堀慎吾プロまでいるという、とても豪華な4名で行われました。

そして、なんと大変ありがたいことに、わたくしこの注目のカードの解説をさせていただきました。

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画面の上から、

左が高津圭佑プロ(日本プロ麻雀協会) twitterID:@kekke_man
中央が牧野伸彦プロ(最高位戦日本プロ麻雀協会) twitterID:@mi1kteaa
右がわたくしでございます。

当日の配信はアーカイブが残っていて、全編無料で観れます。
高津さんと牧野さんの安定感のある解説やトークと、わたくしの初々しくてとってもレアな解説を是非ご覧くださいませ。

それでは、本題へ。

今回は、新最高位の鈴木優プロの視点から記事を書いていこうかと思います。

鈴木プロの麻雀の特徴と言えば、相手の手出しツモ切りはもちろん、間合いや挙動などから情報を読み取る力と、その読みに基づいた鋭い押しですね。
そんな鈴木優プロらしい著書も出されています。
こちらも是非に!

天鳳はリアルでの麻雀と違って、相手の挙動や雰囲気といったものは汲み取れないですが、この舞台でも鈴木優プロらしい鋭い切り込みが観れるのか。
注目していきましょう。

1半荘目


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親番でダブ東対子のチャンス手。
ダブ東はホンイツやトイトイもしくはドラを絡めることで効率よく高打点を作ることができる牌だ。逆に言えば、その材料を持ってダブ東のみの2900点にするのは勿体ない。赤5pや456の三色、マンズのホンイツやイッツーなどを見据えて打点に絡まない12p外し。
これは割と自然な一打と言えるだろう。

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しかし、この2sを選べる人がどれくらいいるだろうか?手牌が整ってきたので、手なりでオタ風の北に手をかけそうになるが、北を重ねることで一応マンズのホンイツのターツが足りる。北は他家からも切られやすい牌なので、これを重ねることでホンイツの成就率がグッと高まるということだろう。

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その後、赤5pを上手く活かしてイッツー含みのリーチまで辿り着いた。ただ、よく見ると下家がドラポン含みの2副露で序盤の切り出し的にマンズのホンイツの可能性もあるという、放銃したら高打点濃厚の仕掛けが入っていたのだ。しかし、鈴木は自身の手牌価値に忠実に、2枚の危険牌を勝負してリーチまで辿り着いた。押していく勇気ももちろんだが、こういった仕掛けにもひるまずに押せるように、序盤から価値ある手に育てるための手組をしているのだ。自身の手牌にそこまで価値のないイーシャンテンでは、ドラポン含みの2副露に対してはなかなか押しづらい。早速新最高位の「らしさ」が垣間見えた一局だった。

南2局、下家が1人抜けた展開になっているところにライバルから早いリーチが入った。

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自身が親番ということで、ここでアガられてしまうと連対は難しくなってしまうが、ラスのペナルティが非常に大きいこのルールにおいて、ここから放銃をして一人離れたラス目になるのも避けたいところ。1pと中を安牌を切るかのように押したあと、5mを重ねて七対子のテンパイとなった。赤5m切り立直のため5mをまたぐ待ちにはなっていないはずで、4mが当たりうるのは14mの両面だった場合のみ。6sは36sにも69sにも愚形にも当たりうる牌なので、安全度は4mの方が高いのだが、

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鈴木の選択は6sプッシュ。安全度がマシな4mを中途半端に切ってアガリ目が薄い6s単騎にするよりかは、他家からの出あがりも少し期待出来て、2mや4sが暗刻になった場合に36mの両面リーチを打てるこちらを選択したということだろう。6sの方が危ないのはもちろん承知の上だが、ここはこの半荘の勝負所ということで、果敢にリスクを取りに行った。

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結果は、その後3mを持ってきて待ち替えをしたところで放銃となってしまった。3段目に入ったということで安全に現物の5mを切ってシャンポン待ちに受ける手もあるが、こちらの方がアガリが見込めると判断したのだろう。勝負所であるこの局を絶対にアガリ切るという強い意志を感じる選択だった。

そしてその後、満貫テンパイから醍醐の親リーチに飛び込んで親マンの放銃となってしまい、3300点持ちでオーラスを迎えた。

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厳しすぎる展開な上に、着アップまでは倍満ツモか対面から跳満の直撃というとても難しい条件を突き付けられた。ドラも無い配牌でさすがに無理か、と諦めてしまいそうになる方がむしろ自然な人間の心理だが・・・

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なんとあの手を見事ここまで育て上げた。結果は実らずラスに終わってしまったが、どんなに僅かな可能性であっても、それを目指して手作りをする。
まるで鈴木の執念が、牌にも伝わっているようだった。

Ⓟ醍醐大(+85.4) Ⓢ福地誠(+19.7) Ⓟ堀慎吾(-7.1) Ⓟ鈴木優(-98.0)
https://tenhou.net/0/?log=2021112320gm-0009-10011-fd0e23ed

そして2半荘目も変わらず厳しい展開が続いたが、オーラスにラス争いをしている堀から2900を直撃して、天鳳名人戦のルールにおいては非常に価値のあるラス回避を果たした。

Ⓢ福地誠(+66.6) Ⓟ醍醐大(+27.8) Ⓟ鈴木優(-7.8) Ⓟ堀慎吾(-86.6)
https://tenhou.net/0/?log=2021112320gm-0009-10011-dcae7b8a

3半荘目

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ここまでの2半荘で苦しい展開が続いていたが、3半荘目の開局についに鈴木にチャンス手が入る。メンタンピンのイーシャンテンで、受けであるピンズ、マンズともに場況は良好。すぐにでもテンパイをしそうなこの手牌だが

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今日の鈴木は、この手牌ですら先制リーチを打たせてもらえない。鈴木が欲しい牌が無常にも他家にツモ切られていく。牌の積まれ方が少しズレているだけで展開は大きく違うのだが、これが麻雀の残酷なところである。そして三段目に入って、不要牌の1mを持ってくる。前巡ツモ切った東を親が仕掛けて、打3mとしたところだった。鈴木はここで数秒の少考ののち、

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1mを止めて打8sとした。たしかに、親の河を見ると4mを切っているにも関わらず、ポンして打3m。223mや233mであれば前巡の4mがおかしいので、113mと持っているところからの打3mが濃厚で、1mを対子読めば、シャンポンテンパイだった場合はこの1mは放銃となってしまう牌だ。1134mと持っているところから両面を残さずに打4mとしたところからも、トイトイなどの高打点も連想させる仕掛けだ。牌譜を見返してゆっくりと考えればそう結論付けて8sで回るという選択肢を取れる人も少なくないかもしれないが、あの大チャンス手を何巡も空ぶった後、親の仕掛けが入ってすぐに掴まされたこの牌で、ここまで冷静に対処することは見た目ほど容易なことではない。

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結果、最終手番でもう一度1mを切ればテンパイを取る機会が来たものの、1mを切らずにノーテンを受け入れた。麻雀の名場面というのは、なにもアガリだけにあるわけではない。
鈴木は鋭い押しが注目されがちだが、それを支える読みと、苦しい展開でも正着を選べる冷静さを伺うことができる一局だった。

そして、私がこの4半荘の中でもっとも「鈴木らしさ」を感じた局をこれから紹介する。

親から早いリーチを受けながら、役牌を仕掛けてこの手格好。

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赤が3枚、ドラが対子の大チャンス手だ。とはいえ親からのリーチを受けていて、自身はイーシャンテン。もちろん、一番受け入れが広いのは赤5p切りだが、このイーシャンテンから親リーチに両無筋でドラの赤5pを切るのはやや乱暴だろう。端っこの1sを切りつつ、お茶を濁すかな?と思いながら観ていたが、

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鈴木の選択は、なんとドラの5s切りだった。親の河には2sが切れているので、たしかに片無筋ではある。しかし、おそらく鈴木の狙いは

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この5s切りに呼応するように上家から2sが切られた。この2sをチーして満貫テンパイ。先ほどのイーシャンテンの手格好とは違い、両面の満貫テンパイであれば当然ドラの赤5pでも切る価値は十分にある。すぐに立直者の堀が4sを掴み、満貫のアガリとなった。上家の切った2sはツモ切りだったので、たまたまと言ってしまえばそうなのかもしれないが、イーシャンテンからドラの5sを勝負して、上家から2sを引き出そうという発想は、鈴木のアガリへの嗅覚そのものと言っていいだろう。

3半荘目は上位3名の三つ巴の格好でオーラスを迎え、ツモればトップというリーチを打つところまではいったものの、競りの相手から出たロン牌を見逃すわけにはいかず、2着で終了となった。

Ⓢ福地誠(+63.5) Ⓟ鈴木優(+30.5) Ⓟ醍醐大(+1.5) Ⓟ堀慎吾(-95.5)
https://tenhou.net/0/?log=2021112321gm-0009-10011-f09619f9

4半荘目も変わらず苦しい展開が続いた。
しかし、東2局6本場でこの日一番の盛り上がりを見せた局があった。
バラバラの手牌から仕掛けはじめたが、数巡後にはなんと高め大三元テンパイ。そして、大きなラス目だったということもありなんと安めのアガリ牌(安めと言っても小三元なので満貫ですがw)である9mを見逃し!!からの同巡に9mをツモ!!なんていう鈴木らしさ全開の局もあったが、紹介したい局がありすぎたので、記事のボリューム上割愛させていただく。
そのシーンは↓にある牌譜から、是非一度ご覧いただきたい。

そんな大きな見せ場は作ったものの、その後は手牌に恵まれず手痛いこの日2度目のラスとなってしまった。

Ⓟ醍醐大(+71.0) Ⓟ堀慎吾(+31.2) Ⓢ福地誠(-12.4) Ⓟ鈴木優(-89.8)
https://tenhou.net/0/?log=2021112322gm-0009-10011-36b36040

そして2節目終了時の成績がこちら。

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4324で170ポイントほど溶かしてしまう苦しい節となってしまった。
しかし、順位点が非常に大きいルールなので、大きく負けることもあるが、裏を返せば大きく勝つことも出来るのがこのルールだ。実際に、別卓の木原は1113で200ポイントのプラス、同卓だった醍醐も1231で180と大きくプラスしている。
前最高位VS新最高位の対決は前最高位である醍醐に軍配が上がった形にはなったが、決勝まで数えれば全11節の長丁場でまだまだ戦いは始まったばかりだ。6節目以降から足切りが発生するため、5節目までの卓組しか出ておらず、5節目までに鈴木と醍醐の同卓の予定はないが、ここからプラスを積み重ねてどこかで醍醐へのリベンジをする姿にも期待したいところだ。

最後に

この記事を書く上での裏話的なことを書いて締めとしようと思います。
牌譜を見ていく中で(合っているかどうかはおいといて)、私なりに「こういう意図かな?」というものを考えながらいくつかのシーンをピックアップしているのですが、その中で鈴木の意図が汲めないシーンがいくつかありました。それに関して、恐縮しつつもご本人にLINEで直接聞いてみたのです。
すると、こんなどこの馬の骨かも分からないような若手プロの質問に対しても、とても真摯的かつ丁寧にご返信をいただきまして、頂点に立つ人というのは、麻雀だけではなく人間性も別格なのだなぁと再確認しました。麻雀の内容はもちろんのこと、麻雀に対する姿勢や常に謙虚な人となりなど、本当に見習うべきところが多い鈴木最高位の今後のご活躍を、心より願っております。


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