小説を書き始めるのに29年かかった

2021年の元日から中編小説を書き始めて、本日完結した。

高校生の時に短編小説を書いてから29歳の今に至るまで、私は気まぐれに短い物語を書いては「いつか長い小説を書いて作家になって、自分の本が本屋に並ぶといいな」と漠然と夢想していた。

腰を据えて長い物語を書くタイミングなどいくらでもあったのに、ここまで手を付けてこなかったのには、主に2つの理由がある。

一つは、自分に物語を書く才能がないことを知るのが怖かったから。

もう一つは、人生をかけて打ち込めるほど、物語を書くことが好きと言えるレベルではなかったから。

そう、本当に情熱を持った人は「いつかやりたい」なんて言う前に、勝手に走り出しているものである。

言うまでもなく、世の中には「物語を書くために生まれてきたような人」がわんさかいる。書店に並ぶ小説の数だけプロがいると考えると、なんとまぁ広くデカく、そして狭き門なんだろうと思う。

対して私は、身を成すための1手段として「物語を書く」ことに漠然と憧れていたわけだ。世間一般的に見れば、適正ナシに分類されるタイプだろう。

「いつか書こう」のままでいれば、自分の才能のなさに気付くこともない。「いつか」は適度に心地よい良い夢を与え続けてくれる。

しかし、頭の中ではこれが非常に虚しいことだと分かっていた。見て見ぬふりしてきた虚しさがじわりじわりと積もって、ようやく漠然とした夢の楽しさよりも、やらない虚しさのほうが勝った。それが今年だった。

かくして、私は物語を書き始めることにしたのだ。

テーマは

「心霊専門家が、物分かりの良い一般家族とサクサク悪霊を攻略していく話」

である。私はホラー映画をよく見るが、ホラー映画にはたいてい、明らかに被害が出てるのになかなか霊を信じようとしない夫や、まともに取り合ってくれない警察といった阻害要因が登場する。私にはこれが何ともストレスで、登場人物皆物分かりのいい話があったら面白いんじゃなかろうか、と思っていたのだ。

幸い、これまでの人生の中で、自分の挫折ポイントはよくわかっている。私は大変打たれ弱い。しょっぱなから上手くいかないとすぐ嫌になっちゃうだろうから、執筆するにあたってのハードルを思いっきり下げることにした。

・準備し始めたらいつまでも始まらないから、とりあえず書き始める

・設定は書きながら考える

・1回の更新はワード1P(450字くらい)

・毎日更新を目指すが、休んでもいい

1日1P書けばいいわけだから、一日の執筆時間は30分~1時間くらい。これくらい自分を甘やかして、とにもかくにも1作を完走することを目的とした。

さらに、一人でやってたって続かないだろうから、精神的なハリを保つ意味で、Twitterのアカウントで公開しながらやることにした。

さて、いざ書き始めると、まぁ書けない。登場人物のキャラクターに一貫性が無い、風景描写が浮かばない、物の名前が分からない、空間が見えない、登場人物に動きが無い、同じ表現・展開・セリフを何度も何度も繰り返しちゃう。

予想通りというか、もう本当に散々なものだった。頭の中で物語を構築して、外に展開するための知識・インプットが全く足りていないのだ。自分がこれまで見てきた、経験してきた世界の解像度がいかに低いか、書くことで思い知ることになった。

こんな具合だったから、書き始めてしばらくは非常にテンションが下がったが、途中「始めてなんだから書けなくて当たり前だろ」「今書けないことはほっといて、次書けるようになりゃいいんだよ」「どうせ誰も読んじゃいないんだから」と半ば開き直った。それ以降は、割とスイスイと筆が進むようになった。

書き始めて5か月が経過した頃、晴天の霹靂が走る。

TwitterのDMに、ある方から「同じページが更新されている」と連絡があったのだ。

継続的に読んでくれている人がいるなんて思ってもいなかったから、大変驚いた。その方はありがたくも「毎日楽しみにしています」と書いてくれ、もうどれだけ嬉しかったか分からない。

ハードルを下げに下げたことと、幸運にも「読んでくれている人がいる」という燃料をいただけたことも相まって、トータルで大変楽しく一作を書き終えることができた。

そして「もっとうまく書けるようになりたい」という確かな欲が生まれたので、物語の作り方を本腰を入れて学ぶことにした。

もっと早く始めればよかった、言っても仕方のないことは言わない。

まずは、自分でスタートラインを引けたことを喜こぶことにする。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?