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アドベントエッセイ(3/356) 高級寿司とピザポテト

早いものでクリスマスまであと362日を切った。


アドベントエッセイ、3日目は「高級寿司とポテチを一緒に食べた話」である。


勤務先で忘年会があった。今年は飲み屋の予約が取れず、お寿司職人によるケータリングサービスを頼んで、社内で握ってもらうことになった。


何でもミシュランの店で働いていた職人が独立して始めたサービスだそうで、一人あたりの価格は約6000円。


普段、くるくる回るタイプのファンシーなお寿司たちを「うめぇだすうめぇだす」といいながら食べている私にとっては、生活水準を超えた高級寿司である。



プロによるお寿司は、それはもう美味しかった。どっしりとした本マグロ、熟成させたブリ、肉厚なクエ、口に入れた瞬間溶けるアナゴなど、普段口にすることの無い食材の目白押し。



明らかに良い。大変良いお寿司だ。しかし何故か、美味しさにどっぷりと浸ることができない。

なぜなら、お寿司の傍らにピザポテトがあったからだ。


社内での忘年会ということで、当然持ち込みは自由。これまで出前のお寿司を頼んだ時も、お寿司のほかにお菓子やその他惣菜が用意されていた。今回もそれを踏襲した形だったのだろう。


だから、ふと手元に目を落とすと白い紙皿の上にピザポテトが乗っている。スルメもある。なんならその横にはセブンのハンバーグまである。いい匂いだ。


一方お寿司は、揺るがぬハイクオリティで、握った側から職人が席に届けてくれる。

その場で作ってくれるから、次のお寿司が来るまでにタイムラグがある。その間、手持ち無沙汰で皆ピザポテトを食べる。合間にオレンジジュースとか飲んでる。


口の中にピザの風味が広まったところで、次のネタが来る。「ああ、やっぱり味が全然違いますねぇ!」とみんなでどよめき、終わればまたピザポテトを食べる。






・・・なんだ!!!!!!
なんだこの混沌とした状況は!!!!!!
一体どう反応すればいいんだ!!!!!!!!!!!!






なんか、圧倒的に間違ったことをしているのはわかる。おかしいだろ、職人が握った寿司とピザポテトが同じ土俵に立ってる机。絶対そうじゃないだろう。

なのに、目の前に広がっている光景はいつもの職場と宴会机。唯一違うのは、視界の先に立っている寿司職人だ。


つまり、社会通念上はピザポテトが異質だが、
視覚情報的には寿司職人が異質なのだ。

この空間において、誰に、何に、どんな配慮するのが正しいんだ。寿司か。職人か。社員か。場の空気か。和の心か。ピザポテトか。ってかセブンのハンバーグめちゃくちゃうまいな。

こんな具合だから、脳がバグってしまってせっかくのお寿司に心から浸ることができない。最終的になんか笑えてきた。


途中から考えることをやめた私は、

「やっぱ味が全然違いますね」

といいながらピザポテトを齧った。

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