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#テレ東ドラマシナリオ『【#100文字ドラマ】そのさよなら、代行します』シナリオ案


完結編

「#テレ東ドラマシナリオ」のコンテスト向けに、シナリオを書いた。

選んだお題は、みねたろうさんの「そのさよなら、代行します」


募集開始からこれまで、途中までできたところで2本のシナリオを公開してきたが、今回はそれらをまとめた完全版だ。(‐1‐、‐2‐までがこれまで公開した部分)

締め切りまであと3時間、まだ終わりは見えないが、ギリギリ書けるところまで書く。

ーあらすじー

人に代わってさよならを代行する「さよならメッセンジャー」、森久保広明。数々のさよならに立ち会った末、森久保は店じまいを決めた。

そんな森久保の元に、さよならメッセンジャーを始めるきっかけを作った女優・夏木秋が訪ねてくる。驚きを隠せない森久保に対し、夏木は意外な言葉を口にする。

「あなたへのさよならを代行してほしいの」

夏木は、ある劇場の舞台上で、森久保に別れをつげたいのだという。

「俺がアンタに代わって?ってことは、自分で自分にさよなら言えってか?」

「ふふふ、違うわ。私があなたの役をやるのよ」

森久保は戸惑いながらも、夏木に言われるがままに、"彼女が演じる自分にさよならを告げる"、という奇妙なシナリオへの準備を進めていく。

さよならメッセンジャー、最後の不思議な依頼が幕を開ける。

ー以下、シナリオ案ー

〇事務所の中

森久保、応接スペースにて、テーブルを挟んで男と対面している。

森「残念ですが、さよならです」

男「あぁ?んだとてめぇ!!」

男、椅子から立ち上がって森久保の胸ぐらをつかむ


× × ×

椅子にこしかけている森久保。

森「残念ですが、さよならです」


女「もういいわよ!」


女、椅子から立ち上がって森久保にビンタし、荷物をひっつかんで事務所を出ていく。


× × ×

椅子に腰かけている森久保。


森「残念ですが、さよならです」


老婆「そうですか……はい、分かりました……」

老婆、両手で目をおおって、静かに泣く。


× × ×

ドア、パタンと音をたてて閉まる。森久保、棒立ちで扉をみる。

森「…あーぁ」

森久保、応接スペースに戻り、椅子にどっかり座る。

森「(大きなため息ひとつ)……」

森久保、両手で目を覆いながら数秒うつむく。

森「(両手を外し、背もたれにもたれながら)……終わりだな」


〇事務所の外


看板 “『さよなら』代行します”


森久保、看板に“サービス終了のお知らせ”が書かれた紙を貼り付ける。


夏「(作業する森久保の背中にむかって)何やってんの?」

森「はい?」

森久保、振り返る。夏木が立っている。

森「どちらさまで?」

夏木、サングラスをはずす。森久保、唖然。


森「秋……!おまっ……えっ、なんで!?」



夏木「(笑顔で)ふふっ、お久しぶり」


〇事務所の中


夏木、事務所の中をながめている。


夏「へぇ、ちゃんとオフィスまで構えてやってたのね」


森「(コーヒーを持ってきながら)まぁな。ほらよ」


夏「あら、ありがと」


夏木、椅子に座る。 森久保も椅子に座る。


森「……大丈夫なのか」


夏「なにが?」


森「その……いそがしいんだろ」


夏「おかげさまでね。だから今日は無理言ってきたの」


森「なんたってこんな急に……」


夏「いいじゃない」


森久保、夏木をまじまじとみる。


夏「(視線に気づいて、にらみながら)……なによ」


森「(目をそらしながら)あ、いや。で、どうしたの?」


夏「決まってるじゃない。さよならを代行してもらいに来たのよ」


森「はぁ?」


夏「どうしたの」


森「どうしたもこうしたも…急すぎるだろ」


夏「依頼なんていきなりくるもんなんじゃないの」


森「いや、そりゃそうだけどさ。でも……」


夏「でも、なに?」


森「もう…やめるんだよ」


夏「これ?」


森「あぁ」


夏「どうして辞めるの?」


森「……答えが出たんだ」


森久保、夏木を見つめる。


夏「(コーヒーを1口飲みながら)……そっか」


夏木、カップをテーブルに置く


森「うん。(背もたれに預けてた体を起こしながら)だから……」



夏「(体を前傾にし、森久保の「だから」に被せるように)

”だから”、ちょうどいいわね」


森「えっ」


夏「ちょうどいいじゃない。私が最後の依頼人」


森「嫌だよそんな」


夏「(人差し指を顔の横で立てながら)受けてもらうわよ。大切な依頼なんだから」


森「(一瞬唇を舐めてから)いやしかし…」


夏「私、このために1個仕事蹴ったんだからね。CMの」


森「嘘だろ」


夏「だから大切だって言ってるでしょ。分かったの」


森久保、頭を抱えながら再び背もたれに身を預ける。


森「はぁー。分かったよ。どうせ言い出したら聞かないんだから」


夏「よく分かってるじゃない。変わらないのよ、そこは」


森「そうかいそうかい…」


森久保顔を上げる。


森「(夏木を見ながら、唾を飲み込んで)で、どなたにさよならを告げて欲しいんです?」


夏「あなたよ」


森「……はい?」


〇事務所の外


森久保、事務所のドアから、靴をつっかけながら出てくる。

鍵を鍵穴に差し込んで、一瞬停止。


夏木NA『劇場で待ってるわ。傘、忘れないでね』


森久保、傘をちらりと見る。森久保、空を見る。晴天。


森「あーぁ、変なことになっちまったな」


森久保、階段を降りていく。


ー2ー

〇駅前

森久保、スマホを取り出し、マップで劇場の位置を確認。歩き始める。


〇劇場の前

森久保、劇場の敷地前まできて立ち止まる。森久保、ポケットからメモを取り出して見る。


〇事務所の中(回想)

森「はぁ?つまり俺が、アンタに代わって、俺にさよならを言えと?」

夏「そうよ」

森「いやいやちょっと待てよ。てことはなんだ、自分で自分に向かってさよならしろってか?」

夏「あはは、違うわよ。馬鹿ね」

森「じゃあなんだよ!」

夏「”私が”、あなたの役をやるのよ」

森「はいい?」

夏「あなたは、あなたの役をやる私に向かってさよならを言ってくれればいいの」

森「いやいやいや、もう全然わかんないって」

夏「まぁまぁ。とりあえず、ここにきて頂戴。詳しくはそこで話すから」

夏木、ポケットからメモを取り出し、森久保にわたす。

森「(メモもみずに)でも……」

夏「じゃ私、もう行くわね。このあと打合せあるから」

夏木、荷物を持ってドアに向かってカツカツ歩いていく。

森「えっ、あ、ちょっと」

森、夏木を追いかけようとする。

夏「あ、そうだ」

夏木、ドアの前まで来て急に振り返りる。

森「うぉっ、なんだよ」

夏「傘、忘れずに持ってきてね」

森「傘?」

夏「えぇ。じゃね」

夏木、颯爽とドアを出ていく。

ドアしまり、残された森久保。渡されたメモに目を落とす。劇場の名前が書いてある。

森「ここかよ……」


〇劇場の外

メモの文字。森久保、メモから目を離す。劇場の看板。


森「……すげー久しぶりだな」


〇劇場の中


森久保、劇場の扉を開けて、中をのぞきこむ。

夏木、舞台中央に椅子を置いて脚本を読んでいる。森久保に気づいて顔を上げる。

夏「あら、ちゃんと来たわね」

森「お前が呼んだんだろ」

夏「(笑いながら)そうね。ありがとう、こっちきて」

森久保、舞台の前まで行って夏木を見つめる。

夏「どうしたの?」

森「この角度、懐かしいな」

夏「ふふふっ、そうでしょ。ここからあなたを見るのも久しぶり」

森久保、少し顔をそらす。

夏「今日は、あなたも"こっち側"に来るのよ(足元を指さしながら)。さ、上がって」

森「……おう」

森久保、席に荷物置いて、舞台に上がる。

夏「傘は持ってきた?」

森「あぁ」

夏「えっ。それって、もしかして」

森久保、傘をひらいて夏木に見せる。

夏「……まだ持ってたんだ」

森「まぁな」

森久保、傘をたたむ。

森「で?」

夏「えっ?」

森「俺は、何をやればいいんだ?」

夏「あっ、あぁ!そうよね。はい!(夏木、持ってた脚本を森久保に渡す)」


森「はいって……なんだよこれ」

夏「台本よ」

森「台本?」

夏「そ、あなたが今からやるセリフが書かれてるのよ」

森「いやいやいや、俺は演技なんてできないぞ」

夏「ふふっ、知ってるわよ。大丈夫、あなたは、ただその台本どーりにセリフを言ってくれればいいの」

森「はぁ。でもそれで?別れの代行はどうするんだ」

夏「いいの。やればわかるわよ」

森「いや全然分からんって。お前は何をやるんだよ」

夏「私はあなたのセリフに合わせて、あなたの役をやる」

森「あぁ、そういう。てか、(脚本かざしながら)これ、なくていいのか」

夏「私を誰だと思ってるの。セリフなんて全部入ってるわよ」

森「ふん、すっかりベテラン女優だな」

夏「まぁねー。ほかになんか、聞きたいことある」

森「はぁ。よくわからんけどまぁ……(森久保、台本をめくろうとする)」

夏「だめっ」

森「(森久保の手をとめて)うぉっ、なんだよびっくりした」

夏「まだ読んじゃダメ」

森「なんで」

夏「ネタばれになるでしょ」

森「そりゃそうだけど、その……なんだ」

夏「どうしたの?」

森「あのさ、やっぱおかしいって」

夏「えっ?」

森「なんでさ、今更?」

夏「あぁ。まぁ、そうよね」

森「そうだよ。おかしいだろ、こっちはもう二度と会うことなんてないと思ってたんだ」

夏「私だってそうよ。あんなひどい別れ方されたら」

森「うっ……。ならなんで」

夏「答えが出たの」

森「えっ」

夏「あれからずっと考えてたの。あの時私、どうすればよかったのか。それでね、分かったの」

森「……」

夏「だから、最後に付き合ってよ。やっと答え、見つけたんだから」

森「……わかったよ」

夏「ふふん(いたずらな笑み)。じゃ、早速やりましょうか」

森「でも、どうやって始めればいいんだ」

夏「私が合図したら、ライトが消える。で、またすぐつくから。そしたら、はじめ。あなたのセリフからね」

森「了解。あぁ、なんか緊張してきたな(そわそわ動く)」

夏「あはは、大丈夫よ。誰も見てないんだし」

森「そういう問題か?」

夏「私も、のびのびやれるわ。じゃ、始めるわね」

森「えっ、もう?ちょっと待って」

夏木、舞台袖に入る。

夏「はい、ライト消すわよ。Take it easy~!」

森「あぁもう……」

ライト、暗転。

ー3ー

ライト、明転。

森「うぉっ、眩しい」

夏木、森久保の前に腕を組んで仁王立ちで立っている。二人、しばし向き合って沈黙。

森「ん、もう始めていいのか?」

夏木、無言で森久保を見つめる。

森「……秋?」

夏木、目を閉じて待つ。

森「あっ、俺のセリフからか。(恐る恐る台本をめくる)えーっと、『なんでそんなこと言うの?』」

夏「なんでって、お互いのためだろ」

森「えっ?」

夏木、黙って森久保を見る。
森「……あぁ、それがセリフか。で、えーっと……『お互いのため?なにそれ』」

夏「だってそうだろ。もうネットで拡散もされちゃったんだぜ」

森「拡散……?おい、秋、これってもしかして」

夏木、黙って頷く。森久保、夏木の目をうかがいながら、台本に目を落とす。

森「あぁ……なんかやな予感すんなぁ。次は……『何か問題でも?』」

夏「問題だらけだろ。お前がようやくこれからってタイミングでさ、こんなしょーもない男とくっついてるのがバレるなんて」

森「ぐっ…『関係ないじゃない。浩明はしょーもなくないし、何も悪くない。堂々としてればいいのよ』」

夏「いや、お前が良くてもさ、女優ってのはその……イメージ商売なんだから」

森「『なら、私このキャラで行くからいい。出始めが肝心だから』」

夏「そうじゃないだろ!俺は、お前のために言ってるんだぜ」

森「『さっきから何なの?そのやっすいセリフ』……あっ」


〇アパートの一室(回想)

森久保と夏木、ちゃぶ台を挟んで向かい合っている。森久保はあぐら。夏木は正座。

森久保「えっ?」

夏「さっきから、お互いのためとかさ、世間体がどうのとか。私たちが1番嫌ってきたやつじゃない。なんで、そんなやすいセリフ吐くの」

森「(少し声を震わせながら)やすく……ないだろ!」

夏「ねぇ、浩明、ホントにどうしたの」

森「どうかしてんのはお前のほうだよ!なんでわかんねぇかな、売れ始めの女優が、前科持ちの男と付き合ってるなんてばれたらどうなるか、目に見えてるだろ!」

夏「あなたは悪くない。だから今、こうして私の前にいるんでしょ」

森「いや、事実はそうだけど、世間はんなの知ったこっちゃねぇんだよ!今まで誰に、何度説明したって、全く聞いてもらえなかったんだぞ。何ひとつ染みなく生きてきたお前にはわかんねぇだろうけど!」

夏木、ちゃぶ台に拳を突き立てる。

夏「(声が震えている)何よ……それ」

森「秋……」

夏「ねぇ、浩明……。私のためじゃなくて、自分のためでしょ」

森「うっ」

BGM、窓の外から雨の音。

夏「そうなの……?(顔を上げる。表情は真っすぐ。目からは涙)」

森「……あぁ。そうだよ。正直、もう無理なんだ」

夏「何が?」

森「お前は正しく生きて、正しく努力して、正しく栄光をつかもうとしてる。俺とは住んでる世界が違いすぎる」

夏木、無言。

森「だましだまし来たけど、街中でお前の看板とか見るとさ、もう自分が惨めで仕方ねぇんだ。隣にいるのが、耐えられない」

夏「……そう。そうだったんだ」

森「あぁ。だから、はっきり言う。頼む、俺の前から消えてくれ」

夏木、コップをつかんで投げようとする。

森「(森久保、とっさに身構えて)っつ!」

夏木、静かにコップを置き、居住まいをただす。

森「秋……?」

夏「いままで、ありがとうございました」

夏木、床に手を置いて、静かに座礼。体を起こして、カバンをひっつかんで出ていこうとする。

森「待てよ」

夏木、振り返る。顔真っ赤で泣いている。

夏「何よ?」

森「傘、持ってけよ(傘を渡そうとする)」

夏「(声をかみ殺しながら)いらんわ。馬鹿っ」

夏木、そのまま逃げるように部屋を出る。

残された森久保、ドアに背を預け、泣く。

〇劇場

画面、暗闇。

夏「傘、持ってけよ」

森「はっ」

画面、明転。夏木、森久保に傘を差しだしている。

夏「傘、持ってけよ」

夏木、森久保をじっと見つめる。森久保、台本に目を落とす。

森「『えぇ、ありがとう』で、傘を受け取る……ん?」

夏「あれ、秋は傘持たずに行かなかったか」

森「えっ?」

夏「いや、ってかなんでまだ台本が続いてるんだ?俺たちは、あそこで別れて終わったはず」

森「そうだよ」

夏「展開が違うじゃねぇか。いや、とりあえず先を読んでみるか」

森「いや、あの、秋?」

夏「(一段声を張り上げて)とりあえず先を読んでみるか」

森久保、怪訝な顔をしながら台本に目を落とす

森「『あのあとね……CM、受かったんだ』」

夏「あぁ。よかったじゃねぇか」

森「『そのあと……事務所からあなたに送られたメール……読んだんだ……』って!?」

森久保、ばっと顔を上げて、夏木の顔を見る。

夏「(森久保の反応にかぶせて)えっ、なんでそれを?」

森久保、またすぐ台本に目を戻す。

森「『マネージャーのパソコン、開いてたの。びっくりしたわ、浩明のアドレスからメール届いてたんだもん』うそ……」

夏「(森久保の反応にかぶせて)嘘だろ?」

森「『言われた通り、秋と別れました。もう私は、彼女とは一切関係ありません。付き合っていたという話も、デマだってことにしてください』」

森久保、唖然。

夏「いや、待て。じゃあ、全部知ってたってことか?」

森「『マネージャー、”かしこまりました。スポンサーにもそのように伝えます。夏木のCM、決まると思います。ご協力ありがとうございます”ってさ。何、それって』……あの」

夏「(森久保にかぶせるように)あのバカ野郎……!」

森「『でも、受けたの。浩明のために。あなたの下手なさよならを、無駄にしないために』」

夏「そうだったのか」

森「『そして、決めたわ。下らない圧力なんて跳ね返せるくらい、売れてやるって』」

森久保、顔を上げる。夏木、涙を流している。

夏「CM一本蹴ったって、もしかして」

森「『そう。あのスポンサーのやつよ。(震える声で)……ざまぁみろって』」

夏「お前は、本当にバカだな」

森「『お互い様でしょ。でも、ようやく言えるわ』」

夏「うん」

森「『浩明、本当にありがとう。今でも大好きよ。そして……』)」

森久保、言葉につまる

夏「最後まで、ちゃんと言って」

森「『そして……さようなら』」


森久保、夏木、抱き合って泣く。

ライト、暗転。


〇事務所の中

森久保、応接スペースにて、テーブルを挟んで女と向き合っている。

森「さようなら、代行完了しました。最後は、納得していただけました」

女「(泣きそうになりながら)本当に、ありがとうございました。なんとお礼を言ったらいいか」

森「辛かったですよね。でももう、大丈夫です」


〇事務所の外

森久保、女を見送る。事務所の看板、「さよなら、代行します」。


〇事務所の中

森久保、デスクについて、深く腰掛ける。両腕を頭の後ろに組みながら、壁をみつめる。

視線の先、扉の横に、夏木が移ったポスター(小さめ)が貼られている。

ドアをたたく音。

森「どうぞ!お入りください」


                             ―終わり―



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