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『美味しんぼ』伝説の「寿司CTスキャン回」は、他にも伝説ポイントがあったんじゃないか

『美味しんぼ』の中に、寿司をCTスキャンする伝説の回があることはTwitterなんかで割と有名である。

こちらは、原作第3話の「寿司の心」というタイトルの回。

傲慢な態度の寿司屋の大将・銀五郎の鼻面を折るべく、主人公の山岡士郎が銀五郎をより美味しい寿司屋に連れて行き、なぜ銀五郎の寿司より美味しいか理由を示すためにさらに大学院の研究室に連れて行き、両者の寿司をCTスキャンして違いを分析する、という流れだ。

この回をはじめて読んだとき、私も御多分にもれずCTスキャンのインパクトに脳をやられたのだが、個人的に印象に残っているポイントは別にある。それは、山岡さんに論破された後の銀五郎の捨て台詞である。

自身の技術の至らなさを、明確な根拠をもってつきつけられた銀五郎は、

「この銀五郎をどうしようってんだ……大学院まで引っ張りまわしたあげく、さんざんこきおろしゃあがって!!いってぇてめぇにえどんな得があるってんでぇ!!」

雁屋哲:『美味しんぼ』1巻,78P

と言って、そのまま部屋を去っていくのである。

美味しんぼに出てくるヴィランたちは、だいたい山岡さんに論破され、己の至らぬ点を認め、それを真面目に言語化して退場することが多い。

この様式美に慣れると読者も自然に受け入れてしまいがちだが、ふと立ち止まって冷静に考えると『美味しんぼ』は「料理の不備を指摘するために、そこまでやる必要ある?」となるオーバーキルな演出だらけである。

そう考えると、銀五郎の捨て台詞は、そんな読者側の冷静なツッコミに言及した貴重な一コマとも言える。私も原作を全巻履修しているわけではないのではっきりとは言えないが、これまでたくさん美味しんぼの話を読む中で、この点を踏み抜いたヴィランは多分銀五郎くらいないんじゃないかと思う。

今思えば、まだ作品の様式や方向性が固まりきっていない、初期も初期の話だからこそできたツッコミだっのではないか。

ちなみに、この回はのちにアニメ化もされているが、アニメ版では残念ながら(?)捨て台詞のくだりは改変され、銀五郎は物わかりの良いヴィランになってしまっている。

銀五郎の捨て台詞はアニメ制作サイドとしても「野郎、タブー中のタブーに触れやがった」という扱いだったのかもしれない。

銀五郎の捨て台詞に対して山岡さんが返した反応もまた、非常に味わい深いので、気になった人はぜひ原作を読んでみて欲しい。

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