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「あざらし的」その2 4つ打ちDJのジャンルごとのプレイ方法の違い

DJ Mixとは何だろうか、ということを哲学的に考えてみたことがある。

まず、クラブDJとは「曲と曲を、そうとわからないように繋いで音を途切れさせない人」と説明されることは多い。
じゃあ、その2曲?数曲?をあまりに完璧に、そうとわからないように繋いだらそれは良いDJなのだろうか?

あざらしがDJを始めた当初は、それこそが良いDJだと思っていた。
自宅で練習するときも「きれいに繋ぐ」ことを第一として練習していたし、それを長年練習し続けてきたのだから、出演するようになってもそこそこズレずにMixができていたと思う。

だけど、サイケ以外のジャンルで出演をしたとき、自分の中では非常にきれいに繋げたという手ごたえがありながら、あまり盛り上がらないことが多かった。

当時のあざらしは「ちゃんと繋げているのに、何がいけないんだ」と思っていたんだけど、実際にフロアが求めていたのは「繋ぎのきれいさ」ではなかったということだ。

読んでいるDJのあなたも、普段プレイしないジャンルを人前でプレイしてみたら、何らかの消化不良を感じるのではないだろうか。

それを痛感したあざらしは、ジャンルってそもそも何だろう、と考えてみた。その結果、たどり着いた結論は、

「ジャンルによって、求められる繋ぎ方が違う」ということだった。

音楽ジャンルとは、ただ曲の雰囲気が違うとかそういうものではない。
明確に「そのジャンルで成したいこと」があるからジャンルなのであり、聴き方からプレイの仕方まで何もかもが違う。

ちゃんとズレずにピッチを合わせてきれいに繋ぐというのは、いうなれば自転車のペダルの漕ぎ方みたいなもの。自転車に乗れるようになってからペダルの漕ぎ方を意識している人はまずいない、それこそ競輪選手とか競技用自転車とか、そういう世界の人くらいだ。
最終的にその自転車でどこに行きたいか、何を成したいかということがDJであり、ジャンルの存在意義だと思う。

あざらしは、どんなジャンルのDJもそつなくこなしている、という評価を得たいと思って試行錯誤を重ねた。
その方法は、いろんなジャンルのDJを見て聴いて、その人たちが語るDJ論は何が言いたいのか、ジャンルの傾向やしたいことは何か、ということを考えたうえで、そのときプレイするジャンルごとに繋ぎ方を変えることだった。

今回の記事では、そうした「あざらしがこうだと思った」ジャンルごとのプレイスタイルを書こうと思う。
あざらしは四つ打ちしかできないので、ここに書くジャンルも四つ打ちのみとさせていただく。

ある意味、これはDJの奥義のようなもので、あまり表立って書くものでもないのかもしれない。
だけどきっと、書いたところで参考にしない人はいくらでもいるだろうし、文字ではニュアンスしか表現できないのだから、参考にしてくれた人がDJのレベルアップができたら嬉しいと思い、思い切って書くことにした。

各ジャンルのオーディエンスやDJが何を成し、どんな出音を聴きたいのかを考えて、柔軟にプレイの様相を変えられるのが、本格的セレクターDJと言える気がする。
あざらしはそんな本格的セレクターDJをやっていきたい。


テクノ

テクノDJは口を揃えて「Mixにこそ真価がある」と言っているように感じる。

テクノにおける曲とは楽器であり、道具である。曲単体にストーリー性があるわけではない。ストーリーは、曲と曲が混ざり始めた時に初めて発生するものであると考えているテクノ好きは多そうだ。
テクノが好きな人は、曲単体ばかりを聴きたいわけではなく、曲と曲を混ぜている間やその混ぜ加減で、その瞬間にしか発生しないストーリーを探し、それをグルーヴ感と表現しているんだ、とあざらしは思っている。

なので、あざらしがテクノをプレイするならば、ロングミックスをすることが前提かつ、各音域の細かな音の大小を気にしながらMixをする。
ミキシングは遅く、じっくり、慎重にやると思う。
プレイ時間のうち、曲が混ざっていない時間の方が短いくらいでいいと思っている。
混ぜない時間というのは、アンセムなどの曲単体を聴かせたい時や、次の曲を準備する時間だけでいいんじゃないだろうか。

テックハウス

音の質感や響きはテクノに近しいながらも、曲自体にある程度のストーリー性を持たせて作られているジャンル。

このジャンルがやりたいことは、テクノとは逆に激しいミキシングでストーリーを切り替え続けることだと感じた。
小刻みで性急な繋ぎであっても、曲同士の持つストーリーが統一した空間を作ってくれる。
ハウスで「手元のテクニカルさを表現したい」のであれば一番やりやすいジャンルなんじゃないだろうかと思う。

もちろんテクノに近いということもあるので、あるときは上記テクノのような繋ぎをすることもあるだろうけども。

ハウス

ハウスは「雰囲気を生み出す」ジャンルだと思っている。

各曲にはわかりやすいメロディもあり、歌もあり、曲自体のストーリー性はあるのだが、主役に立つためのジャンルというよりは、最もBGMに徹することができるジャンルであると思う。

日常の様々なところに様々な雰囲気は存在し、眠っている。人の気分もその人の性格や体調によって千差万別だ。
ハウスは、その雰囲気や気分の数だけ曲が存在していると考える。

選曲も、雰囲気の移り変わりを表現できるように選曲する。その場はどういう雰囲気を求めているか、そんな中で目の前の人間をどう過ごさせるか、を曲の持つストーリー性でコントロールし、場に色合いをつけていく、グラデーションのように色を変えていくことを考えながらDJする。
そういった意味もあり、曲数は可能な限り多く持っていたほうがいい。

また、ハウスをプレイする際に「ボーカルや主旋律が被るようなMixはご法度」とよく聞く。これは、前後の曲のストーリー同士がぶつかり合い、きれいなグラデーションにならないから。過度なロングミックスはしなくてもいいのかな、と思う。

トランス

上記ジャンルとは一線を画するのがトランスで、トランスという楽曲は、各曲ひとつひとつの中で「ストーリーが完成されている」。それが意味するものは、トランスは「フル掛け」を前提にしているジャンルだということだ。

1曲でストーリーが完成しているのだから、小刻みなミキシングは曲を完全に殺してしまう。
基本的には1曲フル掛けで、曲のおしりと頭を繋げるようにDJをする。一つのストーリーを抑揚をつけてしっかり読み、終わったら次の物語を読み上げていく、といったように曲を選ぶ。

トランスの考え方は実際の物語に置き換えればわかりやすい。
「桃太郎」と「シンデレラ」の2曲を繋ぐことになったとする。
トランスをフル掛けしないのは、イヌキジサルが揃った後、いよいよ鬼ヶ島に行くはずが急にかぼちゃの馬車が出てくるようなものだ。桃太郎の鬼退治の活躍を期待していたのに、桃太郎がいつの間にかシンデレラに入れ替わっていたら、オーディエンスは大変困惑する。
桃から桃太郎が生まれるシーン、イヌキジサルが仲間になるシーン、鬼退治のシーン、そして、宝を持ち帰った桃太郎と違う国にはシンデレラという人が小間使いをさせられていて…と、情報の抜けがなく順番に、抑揚をもって伝えるのがトランスのプレイ。

ミキシングというより、抑揚にあたるイコライジングが重要なジャンル。

サイケデリックトランス

なにしろあざらしがサイケDJなので、サイケの説明が一番長くなってしまう点はご了承いただきたい。

サイケで最も重要なのは、サイケとサイケじゃないトランスの一番の違いを理解しているかどうかとなる。

トランスは、アーティスト各自が思う、まだ見ぬ「幻想的」とか「恍惚」のストーリーを音楽で創り出そうとするジャンルだが、サイケには「当時のヒッピー達が薬物によってトリップしている時に見える景色、聴こえる音」を音楽で再現しようという考えが源流にあると思っている。
つまり、サイケが求める音には明確なゴールがあるのだ。トランスに様々なストーリーがあるのに、サイケは多くの曲が似通って聴こえる理由はそういうところにあるんだと思う。

だからといって全てが同じ音に収束するわけではない。何しろそのヒッピー達も何人もいたのだ。彼ら一人一人が見えていた景色は全員違う。だからこそ似通っていながら、DJによって表現する音も少しずつ違うのが自然だ。

(もちろん、自分でそのトリップをしようとしてはならない。違法薬物は使ってはいけないなんて小学生でも知っている。あざらしは薬物なんか使ってないのに今の出音を出せているんだから。)

ミドルやフルオンの考え方はハウスに似ている。似た曲の中にも少しずつ異なる風景や雰囲気を持っており、それを少しずつグラデーションしていくことによって精神的な旅を表現する。

でも根本はトランスだから、曲としてストーリーが完成されていて、最後まで聴かせるプレイをする点は他のトランスと同じ。

ただし、フォレストやトワイライトなどの「ダークサイケ」と呼ばれるジャンルは、多くの音を混ぜ合わせて「曲がる」という楽しみ方をするそうなので、テクノの考え方でプレイしたほうが良いのかもしれない。

注意するべきは、サイケオンリーのパーティーにおいてサイケはBGMではない。オーディエンスは「自分と音だけの世界」に浸ろうとする。
他のジャンルは仲間と騒いだり、酒を交わしたりする時間も同じくらい欲しいと思っているが、サイケを聴きに来る人間はそれよりも音を浴びたい時間の方が圧倒的に長い。
DJがフロアの全てを作っているという意識をもってプレイしたい。

EDM(ビッグルーム系)

どちらかといえば「決まった展開」と「わかりやすい音」で、「約束された展開」を楽しむ音楽ジャンルだと思っている。

そのパターンはEDMのイベントに通うことですぐにつかむことができる。基本的にそのパターンを崩すべきではない。

わかりやすい音が多いということは、それはトランスのように1曲が完成されたフレーズであり、そのフレーズをMixで崩してしまうと、客が求める音を取り上げてしまうようなものになってしまう。
それでも曲数は多いから、差別化はできる。

アンセム曲が多いジャンルであるが、アンセムを連打するのは勇気がいること。だけど、客層がライト層が多いのであれば、迷わずアンセムを連打できる思い切りの良さが必要。

メロディック・プログレッシブハウス

ハウスと名前がついており、BPMこそハウスと同じくらいであるが、曲の持つ性質はトランスであることが多い。
なので、「BPMの遅めのトランス」だと考え、1曲フル掛けでイコライジングを重視したプレイのほうが映えるはず。

メロディックハウスとプログレッシブトランスは近しい音であるので、境目に近い音であればまるで同じジャンルであるかのようにプレイすることもできる。

情緒を訴えるメロディが多いジャンルであるので、その情緒を最も刺激する音量調整を目指す。
泣きで盛り上げるジャンルなので、わかりやすくパーッと盛り上がることを狙ってもうまくいかない。世界観に集中させるだけの展開が必要になる。

その他ジャンル

紹介していない4つ打ちで考え方が違うようなジャンルとしてハードテクノ、デトロイトテクノ、ハードコア全般、フューチャーハウス、ユーロビート、ハンズアップ、他にもベース系などもあるが、あざらしはやったことがない。やったこともないジャンルを知ったかで解説しても迷惑でしかないので、今回の記事にはない。そもそもベース系を繋げられない。

言語化できる人がいたらどんどん教えてほしい。

繋ぎ方の理解とは、楽しみ方を理解すること

あざらしはサイケのDJなので、例えばテクノの有名なDJを教えてくれと言われても、ジェフミルズとか石野卓球とか、それこそ世界的アーティストしかわからないし、誰の何ていう曲があるかなんて全く知識がない。

なんだけど、「テクノっていうジャンルがこういう音楽で、こうすることでグルーヴ感を得られる」ということが自分なりにわかっていれば、その「こうすること」を実行することで、そつなくテクノがDJできる。
他のテクノDJのUSBとかを借りてプレイしたとしても、100点満点中65点くらいのDJはできる気がする。

もちろん、今のあざらしがテクノを極めようとしている人にかなうようなプレイができるはずもない。
だけど、各ジャンルをそつなくこなせられるということは、ただプレイできるだけじゃなく、そのジャンルの楽しみ方もわかっているということだ。
ということは、各ジャンルをメインに据えるDJを聴いたとき、自分がやっていることをさらに高めたハイレベルな音として、素直に「すげぇ!」と受け止めることができる。

なんとなくすごいなぁ…と感じるのと、今自分はこうやってるけど、こういう表現もあるのか!すげぇ!となるのでは、後者の方が音楽を楽しめているのは言うまでもない。

ここまで書いといてなんだけど…

ただ、最後に一つ言いたいこととしては
「そのDJが良いと思った通りにプレイしてほしい」ということ。

DJも仕事もなんでもそうだけど、人が言ったことは正解とは限らない
そもそも、DJのプレイに正解なんてものはあってはならない。
この記事も、あざらしがこうだと思っていることを書いただけで、絶対的な正解だと思ってほしくない。
だって、DJに正解なんてものがあったら、それこそAIにやらせればその正解をプレイしてくれてしまう。ぼくらがDJする意味がなくなってしまう。

誰々さんがこうやって言っていたからこれは正しいとか、そういう意識の人はすごく多い。
その意識について、非常に悪意のある言い方をすると「誰々がこんな風に言ったからこのようにプレイしたのであって、ミスっても自分が悪いわけではない、そいつがそう言ったんだ」と言ってるように聞こえ、責任のすり替えをしているようにしか見えない。
そう言っている人たちは新しいことにチャレンジできず、そのDJの音というものがいつまで経っても見つけられないと思う。

DJみんながみんな、揃って同じような出音ばかり出されても面白くない。
オーガナイザーはあなたを呼んだんだから、あなたの世界の中にある最高の音を聞かせてほしいんだよ。

誰かの受け売りで練習するのは全く問題ない。ペダルを漕げなきゃ自転車に乗れないんだから。
でも、ある程度できるようになった後は、いかにあなたにしか出せない音があるか、いかに人と自分の音楽観が違うか、自分の持つ感覚や世界とは何なのか、突き詰めていってほしい。

そうなっていくと、DJはいい趣味にできるし、他のことにも活かせるようになると思う。


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