"鳴る"ライブハウスをつくった vol.1

まずは自己紹介

東京でSynkという音響の会社を経営しておりまして、私自身もライブサウンド(PAやSRと呼ばれてます)のエンジニアでもあり、弊社としては様々なエンタテインメント施設の音響プランニング、施工などにも取り組んでおります。

どんな記事?

この業界はコロナ の状況下で本当に苦労しております。奇しくもそんな中、弊社が施工を手掛けていた名古屋のライブスペースが1店舗オープンしまして、いろんな想いが詰まった案件になったので、音響に関して発信する事で何かお互いの助けになれば…と思い、書き始めたものの、とてもとても長い記事になってしまいました。
そこに「せっかくならnoteに残した方が良い」との助言を某映像制作の巨匠にアドバイス戴いたのでこちらに残したいと思います。

なるべく専門的な説明にならない様に努力しながら書かせてもらいましたので、専門的な知識のある方からすれば強引だと思う言い方もありますが、まぁ、笑って下さい。笑

STIFFSLACKと、この施工プロジェクトの始まり

さて、まずはそのライブハウスを併設するのが名古屋のレコードショップ 、インディーレーベルである、"STIFFSLACK"。
以前は栄にBarを併設するレコード店として営業しておりましたが、そのSTIFFSLACKがこの度、名鉄瀬戸線の清水駅(栄から2駅)の高架下に引越し、"LIVE VENUE"を併設してオープンしました!(海外だとライブハウスやその会場の事をVenueと呼ぶのが一般的) 

このSTIFFSLACKは、僕が"Detrytus"というバンドに加入した初ライブの時から名古屋に来てはお世話になっている人達が関わっているので、バンドの友達からの相談といった感じでこのプロジェクトがスタートしました。

(ちゃっかりDetrytusも宣伝 活動休止中ですが 笑)

最初この計画の話をLIVE VENUEの店長になる竹岡(タピ)くんから聞いたのが2016年頃だったので、4年を経ての実現!
なかなかゆっくりでしたが、逆にいうととてもじっくり計画できました。(更にコロナで施工もゆっくりできました)
今回はゼロからの新築という好条件でしたので、いろんな夢や希望を詰め込むべく、代表の新川さんとタピくんに会いに東京から遥々…いや、仕事で名古屋へ行く度に、全員仕事前の朝から集まって、相談をしながら進めていきました。もちろん、毎回コメダコーヒーで豆菓子をツマみながら。

ライブハウスの"鳴り"とは?

どんなハコにしたいか?みたいなのはとても大事で、僕の中ではレコ屋の中にある”ハコ”という事なので、STIFFSLACKの取り扱う音楽と自然に繋がっている場所、というのが一番のイメージでした。

ハコにとって最も重要だと言い切れる、"鳴り"の部分になる"部屋の設計"。この段階から口を挟めるというのは本当に贅沢だったなと思います。ここだけはどんな機材を導入しても、変えるのは難しく、その鳴りこそがハコの個性になるんですよね。

最近の日本の小規模な会場は建物事情的にも、吸音材でガチっと吸音した反響が少ない"デッド"な会場が多いかと思うんですが、”デッド”な鳴りのハコはSSの目指す感じじゃ無いよね?っていう意見は最初から新川さん、タピくんと一致していたので、騒音の基準はクリアするのは大前提だけど、部屋の中はあくまでも”ライブ(反響が多い)”なデザイン・設計・工事というリクエストをしました。

この「防音」と「吸音」は似ている様で微妙に違うんです。
「防音」は主に壁の中身に対してのアプローチで、部屋の外、建物の外に音が漏れないようにする、いわゆる”騒音対策”的な事ですね。工事的には、部屋の中にもう一個部屋を作るような感じで、建物の壁と部屋の壁の物理的な接地面を減らして部屋の中の音が、外に伝わらないようにする感じです。

一方「吸音」は部屋の壁の表面に対してのアプローチで、反響を抑えて、部屋の鳴り方を調整するんですね。
ただ、部屋の中の反響を壁の表面で吸収することにより、外への音漏れも少しは防げます。
なので、中古物件にライブスペースを作る場合などは、前述した防音工事が中々難しい事が多く、壁に吸音材を貼る事で騒音対策とする事も多々あります。その結果、部屋の中が”デッド”になりがちなのかなと思います。
もちろん新築でも最初から"デッド"を目指して作られる場合もありますけどね。

"ライブ"なハコは音が暴れやすく、扱い辛さもあるんですが、"ライブ"な部屋を"デッド"にするには吸音材を壁に貼ればある程度解決できるので、後から鳴りを調整する”余白"を残した作りにしたい、というのもとても重要な事でした。

"デッド" or "ライブ"?


と、なんか”デッド"が悪者みたいですが、”デッド”と”ライブ”を個人的な感覚として比べると…

"デッド"
はPAスピーカーの出音に依存するので、音圧のある、タイトでまとまったバランスのライブサウンドを体験できます。また、ステージ上の演者からしても、音の分離が良く演奏しやすい。など良い事があります。
特にクラブとかはデッドな方が、PAスピーカーから出た音がダイレクト(反響音に混ざらず)に耳に届きやすいので、音が近く(スピーカーからの距離に依らず常に目の前で鳴っているよう)に感じられ、キックやベースの低音もタイトに聴こえる(「ボワン」ジャなく、腹に「ドンッ!」って直接来る感じ)ので、気持ちよく踊れると思います。

一方"ライブ
なハコ"は、300人キャパくらいまでだと生音(バンドがステージで鳴らす音)が客席にもかなり聴こえます。
お客さんは”楽器の生鳴り"と"PAスピーカーからの”出音"が混じった音を聴く事になり、よりバンドが鳴らすリアルな音を感じる事ができます。よりバンドの演奏力が求められるのも事実です。笑
そして、PAスピーカーの出音は壁で反響した音と混ざりあって耳に届くので、”空間””広さ”を認識しやすく、視覚と聴覚が一致するので、”臨場感のある音”として感じられます。

というのが個人的なDEAD or LIVE雑感です。

SSからイメージする音楽が、超平たく言えばロック、Spotifyのジャンルで分ければオルタナティブ、もう少し細分化させるとインディーロック、さらに掘ればエモ、ポストロック…この辺りのキーワードが”SS”の音でして(少々乱暴に定義しました、すみません)、さらにこの辺の海外バンドのライブ映像を観ると、バーや、普通に誰かの家の部屋みたいな所でライブをしていたりするので、この部屋でやってる感じが大事で、憧れもある訳です。笑 なので、このSSの音のイメージには間違いなく”ライブ”な部屋だろうという事になった訳です。

Q and not U(というワシントンDCのバンドのライブ映像、まさに誰の家?!って感じ。注:何故か音が右chにしか収録されてません)

次回は機材について書きたいと思います。​

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