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#夢日記:ライオンはいつからここに

実家のある町

 ここは自分が生まれた実家があった町だが、ずいぶん時間が経っており、全く様相が変わっている。
 地形を頼りに周囲を歩くと、急な坂道の中腹が、大きくえぐられて、みたこともないような空間が出現していた。洞穴のような。ここは本当にあたしが知っていたあの坂なんだろうか?いや、そもそもこんなに大きな場所じゃなかったはずだ。地殻変動でも起きたんだろうか?

ショーが始まるかのように

 坂の途中の傾いた道の上に、子どもたちが集まっている。みんな中腹の洞穴の中を見つめている。

 奥の奥の、暗いところに目をやると、大きな鉄の扉や、池や、石で作った渡り廊下が見える。古代遺跡のような。あるいは地下世界への入り口がぽっかり開いてしまっているような。

 その奥から、ぞろぞろと動物たちが出てきた。確かに動物だけれども、何かちょっと違和感がある。ライオンが出てきた。犬や猫もいっしょに。象のように見えるものまで出てきた。クマのようなものもいる。何か名前がわからない生き物も混じっている。

 してみるとこれはサーカスか何かなのだろうか?訓練されているから、こんなにごちゃまぜで一緒にいても、混乱がないのだろうか?

だけど猛獣使いがいない

 動物たちはえぐれた空間の中から外には出てこなかった。あくまで洞窟の中にいて、非常にゆっくりと横一列に整列した。大きいものも小さいものも。

 動物たちを統率する人間の姿を探したが、そんなものはいなかった。犬は服を着て立ち上がっていたが、それは芸をしているつもりのようだ。人間がなにかに化けているとか、どれかがキグルミなのだろうかと疑って目を凝らすがわからない。

 こんなことってあるだろうか?だいいちオリも柵も、観客と動物を隔てるものがなにもない。猛獣使いもいない。だけど一列にならんで、舞台の上の演者のように、動物たちはこちらを向いているのだ。

 危なくないんだろうか?と思って周囲の人達をみた。みんなリラックスして、拍手したりしている。子供に混じって老人もいる。普段着の、近所の人びと。特別なこととかではなく、散歩のついでにこれを立ち見しているかのような雰囲気だ。

 「これ大丈夫なの?」と、おじいさんに話しかけたら、
「無料なんだよ。昔っから」と答えた。
「お金のことじゃなくて、猛獣に危険はないの?」
「昔から、一回も危ないことってないよ」
「昔からっていつから?」
「さあ。前は命令する人間がいたけど、その人も老衰で亡くなったようだね。でも続いている。そのぐらい昔から」

夢_ライオンはいつからここに

ライオンが吠えた

 わけがわからない。
 でも、目の前で当然のようにそうなっているんだから、納得するしかなかった。

 一列に並んだ動物たちは、お辞儀のような仕草はしたが、別段なにかスペクタクルをするわけでもなかった。ただテレビやパソコンのスクリーンでは決して感じられない存在感のある姿をそこで見せているだけだ。 

 不意に中央に立っていたライオンが、大きな口をあけて吠えてみせた。ものすごくめんどくさそうな、あくびのような咆哮だったが、それがサービスであることはわかった。映画会社のあのライオンのモノマネをしているというか、ライオンらしいことをする、というのが彼の「芸」なのらしい。
 いるはずのないものがこんなに近くにいる、というだけで、あたしは確かに感動した。
 まばらな拍手が聞こえた。

動物園はどこに行ったのか

ショーはたったそれだけだった。動物たちは奥に引っ込んでしまった。あれほど奥深く見えたその「奥」は、鉄の扉に隠されてしまった。

 それはいつものことらしく、人々もすぐ散っていった。

 あたしは好奇心にかられて動物が去ったあとのその舞台にあがってみた。鉄の扉は青銅のようにみえた。巨大で堅牢で地下世界の蓋にふさわしいように見えた。何百年も開いたことがないようにさえ見えた。

 もうなんの物音もしなかった。だけどかすかに動物の匂いがした。土と石の粉を踏み固めたような舞台の上に、動物の毛も落ちていた。

 そういえば幼児の頃、この坂を登ったところに小さな動物園があった。小さいけれども幼児の世界にとっては小さくはない。
 そこにサルとか、うさぎとか、亀とか、迷って捕獲されたインコとかがいた。なぜかカラスもいた。あれはどこに行ってしまったんだろうか?と考えた。散歩の途中に立ち寄る、全く日常の中にある動物園だった。

 あれが今は地下にあるのだとしたら?いや、ライオンなんかいなかった。もちろん象なんかいなかった。名前のわからない不思議なかたちの動物もいなかった。いなかったけど、でもあれらは本物だった。

 幼児のときは考えた。ライオンがいるときもあったかもしれない。その時から、いやもっとずっと前から、地下にはいろいろな動物がいたのかもしれない。地下には命の限りなどなくて、人間が滅びても生き続けて、今たまたま出てきて姿をみせてくれているだけなのかも。

#夢日記
#動物

このnoteマガジンは下記のお知らせにある恩田好子個展『Tagged Tales/タグ付きの物語』と連動しています。





おひねりをもらって暮らす夢は遠く、自己投資という名のハイリスクローリターンの”投資”に突入。なんなんだこの浮遊感。読んでいただくことが元気の素です。よろしくお願いいたします。