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なぜ上司は部下の「やる気」マネジメントを軽視するのか?

上司、リーダー、マネージャ。

呼び方は数あれど、特定の目的を遂行するために組成された「組織という有機体」においては、所属する全員の力を最大限発揮し「チーム」として本来の目的を遂行するために「誰か」がそういった「配役」を受け入れ、徹して、チームでの成功のために「献身」しないといけません。

「会社」はこれの分かりやすい拡大相似形の有機体で、ゲイマンシャフト(家族や村落など感情的な結びつきを基盤にした集団)ではなく、ゲゼルシャフト(目的達成のために作為的につくらりあげられた集団)の典型例です。

故に、会社を前進させようとすればするほど、成長拡大させようと思えば思うほど「人」が中心のチームを、チームとして機能させるための配役である「上司、リーダー、マネージャ」が必要になるんですね。

そして、ウィズコロナ、物理的空間の共有を前提としない新しい働き方において「ピープルマネジメント」の難易度が劇的に上がり始めています。

何も手を打たないと目に見えない「組織的信頼残高」は減り続け、気がついたら重い身体を引きずるように、ビフォーコロナのような走り方ができない会社・組織になってしまうリスクと直面しているのが今この瞬間です。

この未曾有の組織的危機を乗り切るための主人公は、有機的つながりのドライブシャフトとなる「上司、リーダー、マネージャ」に他なりません。このnoteでは、組織の最小単位である「上司と部下(1on1)」の関係値に、ウィズコロナ時代における健全な組織開発への最もクリティカルな処方箋を見出して行きたいと思います。

教育と人類の落とし穴

その人の家庭・社会的環境を除けば、基本的に義務教育に代表される「教育」という現場での物差しは多くの場合が「定量」で測れる成果です。

通信簿、テストの点数、偏差値、取得した単位数...

「人の価値」「成長の形跡」「貢献度」そういった勲章は多くの場合「数字」で測られ、比較され、評価されてきました。学歴、学力、スキル、そういったものが人の価値を測る物差しとして、成長過程のDNAに自ずと組み込まれているが故に、特に日本人は本来生まれ持った心の豊かさ、センスに蓋をするように定量評価マシンを拡大再生産してきたと言わざるをえないでしょう。

人は目に見えるもの、形にできるもの、説明可能なものに逃げやすい弱い生き物なので「定量」の対局にある「雰囲気」「気配」「やる気」のようなニュアンス、個人の解釈が大いに含むものをビジネスの現場に持ち込むことに逃げ腰で、多くの場合否定されがちです。

当然、インプットに対するアウトプットが一定、ロジック一意に決まっている「機関」を扱うのであれば、そんなニュアンスやセンスは必要ありません。しかし「機関」と異なり上司、リーダー、マネージャが扱うのは「人」であり、それは誰一人として同じものが存在しないニュアンスの塊です。

例えば等しく5人のメンバーを持ったマネージャがいるとします。ヘッドカウント上は同じ数字ですが、片方には「自走できる手間のかからない優れたメンバー」ばかり。もう一方には「我が強く、反発も多く手間のかかる問題児」ばかり。その場合、当然同じ「5」という数字でも、実態としては全く「質」が異なる事が分かります。

この「人の質」の差分を、その会社・組織がどのように捉えるのか。ここに、その会社が「会社を人の集合体としてマネジメント」するケイパビリティが現れるように思います。この差分を正確に把握、掌握、アセスメント(評価)できない会社、経営陣、文化というのは、これからの時代より会社経営に中長期的に苦しむようになるでしょう。

リモート環境の拡大によって、難易度が上がり続けるピープルマネジメント

人類の社会、生活が成熟に向かえば向かうほど、ビジネスの難易度は上がり続け、チャンスの隙間は小さくなり続けています。結果、強い組織を作る事、維持する事、優秀な人を採用すること、維持する事。そんな「人」まわりの難易度はこれからずっと緩やかに上がり続けていきます。成長が大前提だった産業革命時代においては、前提が登りエスカレーターなので事業モデルも働く人々の「幸福」という概念も、連立方程式の難易度で言えばかなり変数が少なくイージーだったと言わざるをえません。

社会的にも事業環境的にも複雑さが増大し、人々の価値観は成熟を向かえ真に多様化し、さらに新型コロナウィルスが大きな大きなトリガーとなって、組織で働くひとたちが物理的環境を共有しない働き方へ大きくシフトし始めました。これは会社側の思惑がどうあれ、働く現場・個人の方がメリットを多く享受できる構造なため、不可逆な変化と見る事ができるでしょう。つまり、リモートワークが社会的に正当化されてしまったおかげで、会社が組織と向き合い続ける難易度が飛躍的に向上してしまい、もうリセットボタンを押せないところまで一気にゲームが進んでしまったんです。

故に、今一度立ち戻るべきは、組織における最小単位の「上司と部下(1 on 1)」の関係にほかなりません。

この最小単位の組織力学を真に理解し、定義し、仕組み化し、文化として白黒ハッキリつけなければ、拡大相似形の「会社組織」をこれからの環境で健全に維持し続ける難易度は上がり続けるでしょう。

こんなにシンプルな「成果」の方程式

では、そんな組織における最小単位の「上司と部下」の関係を理解する上で、上司が最初に頭に叩き込み、胸に刻み込むべき最もプリミティブで重要な方程式は、小学生でも分かるこんなシンプルなものだと考えています。

部下の成果 =「能力」×「やる気」

あえて公式をシンプルにしているので「部下の成果」というアウトプットを最大化するための最大公約数のみを残し、細かい変数は敢えて無視、もしくはインクルードしています。

目を凝らして、心を澄ましてこの方程式を見れば、そんなの当然だろうときっと思うでしょう。自分が部下として上司に仕えた過去のユーザー体験を振り返れば、この方程式が要所要所で当てはまるのは自明です。

その上で、世の中の全ての上司、リーダー、マネージャに問いたいのです。

「あなたはどれだけ本気で、目の前の部下のやる気をマネジメントしてますか?」

カタチの無いものと向き合い続ける強さ

先ほども申し上げたように「雰囲気」「気配」「やる気」...という「気」にまつわるものを「人類」は内包し、逆に感じ取れるわけですが、どうしたって定量化、相対評価できないために目的を遂行するための機関であるゲゼルシャフト前提の会社・ビジネスの現場においては仕組みや精度として絶望的に組み込み辛い変数なんですね。

なのに、やっかいなことに上司が目の前で向き合っている部下という機関のアウトプットは、その「やる気」を変数として含んでいるんです。どんなに能力が高い部下でも、やる気がゼロになればアウトプットも成果もゼロということです。

部下の成果 =「能力」×「やる気」

全上司を代表して言います。「コノヤロウ」ですよね。でも、それが部下というもの、人というもの、自分自身もエンジンとして積んでしまっているものが、そんなニュアンス前提の危うい内燃機関なんです。

だからこそ、会社は組織の最小単位である「上司と部下」という「機関」において、変数としての「やる気」をしっかりと定義して、向き合って、その変数の改善の手法や仕組みをエンパワーし続けないといけないんです。これは経営陣の大きな責任であるとも言えます。

もっと組織論的に言うと「やる気」をマネジメントできない人を、リーダー・マネージャにプロモーションさせては絶対にいけないということです。

これはプラスもマイナスも、どちらも最も振れ幅の大きい意思決定の一つなのでもう一度言います。

「やる気」をマネジメントできない人を、リーダー・マネージャにプロモーションさせては、絶対にいけない。

なぜなら、今その「やる気マネジメント」の難易度が飛躍的に向上し始めてからです。

リモート前提でさらに霞んでいく「やる気」という空気

コロナ禍において、

「組織の信頼残高の貯金が尽きてきた。。」

悲鳴のように聞き始めたこのワードは、ビジネスの現場だけでなくネット上の論調としても見るようになってきました。「効率」という観点で大きくメリットのあるリモートワークと大きく距離を置くように「人と人」の本質的な繋がりを生む「質の高いコミュニケーション」が飛躍的に少なくなっているからだと言えます。

今までは構造的に言えば、縦のライン(上司<>部下)でやる気マネジメントに失敗しても、横や斜め(同期や同僚など)から「やる気」の補給が適切に、偶発的に行われる構造になっていたのが「オフィス」という物理的空間でした。特に昨今の進化したオフィスやそれを前提とした仕組みというのは、そういった「垂直ライン以外からのやる気の補給」をうまく組み込んで進化してきたと言っても良いでしょう。

そういった補給船が、リモートワークという霧に阻まれて、劇的に届きづらくなっているのが今という時代背景、ウィズコロナの会社運営です。

現状分析においてはこれ以上は言わずもがな。故に、考え抜いていきたいのは「ではどうしたら良いのか」という一般解です。組織運営の不可逆な変化、ピープルマネジメントの難易度上昇に対して、今向き合うべきは組織の最小単位における「やる気マネジメント」だと思うのです。

もう少し大人っぽく言うと「感情的エネルギーマネジメント」とでも言いましょうか。人間は論理の動物ではなく感情の動物です。時に論理が感情を押さえつけることもができますが、基本的には「激しい情動」が論理を簡単に吹き飛ばしてしまう生き物なんです。そんな「算数/数学」ではなく「動物的」な「人」を扱う以上、そのエネルギーの源泉をマネジメントする、心と心で向き合う以外に、これからどんな解決策があると言うのでしょうか。

感情的エネルギー(やる気)を因数分解する

成果の方程式

部下の成果 =「能力」×「やる気」

は、逆に言うと人類という危うい内燃機関の「希望」の側面でもあります。つまり、仮に能力はそこそこでも「やる気」を大きく引き出すことができれば成果(アウトプット)を飛躍的に向上させることができるということです。

それでは、この成果の方程式を起点に再出発することを心に決めたら、次にやることは「感情的エネルギー(やる気)」を因数分解して、上司がよりコントローラブルにすること、アクションプランに落とし込めるようにすることです。この因数分解の定義や粒度は、それこそ会社の文化や分解能に大いに依存するところなので、経営陣、人事、組織開発...それぞれの機関で十分に議論をしつくして欲しいと思いますが、ここでは最新の一般解を列挙しておきたいと思います。

「感情的エネルギー(やる気)」分解

《ディレクション》
1. 向かうべき方向が明確である
2. 向かうべき方向が魅力的である
3. 向かうべき方向と自分のキャリアの方向がアラインしている

《ハンドリング》
4. 自分の強みが発揮できている(自己肯定感)
5. 意思決定の裁量が適切にある
6. 所属している組織が自分に合っていると主観的に思える

《エンパワーメント》
7. 心理的安全性がある
8. 後援者がついている

ディレクション(方向性)、ハンドリング(操作性)、エンパワーメント(安全性)というパートに分けましたが、お気付きの通り感情的エネルギーマネジメントとは車の運転に近いと感じています。

行くべき目的地、方向が明確であること。
乗っているマシンが自分に合っていること、操作性が良いこと。
そして、安全性が高く安心して運転できること。

そんなワクワクする部下のハンドリングを、上司は常に演出してあげる。適切に誘導しつつも、自らの意思で運転を楽しんでもらう。ハンドリングにも、ある程度の遊びを許容してあげる...など。

あらためて俯瞰すれば当たり前のことすぎるかもしれませんが、それこそが、今こそ立ち戻るべき健全な組織を作る最小単位、人間本位のソリューションであると思っています。

方程式のリアリティを高める、上司のマインドセット

「やる気」を因数分解し「やる気」の観点から部下に対して介入すべきポイントが明確になったら、あとは実践するだけ。1on1などの方法論はおいておいて、あらゆる場面で上司はそれらを念頭にアクションし続けなければいけません。ここで、もう一つ上司にとって大事なマインドセットがあります。それは

「何を言ったか」よりも
「何が伝わったか」よりも
「行動が変わったか」が遥かに大切である。

当然上司が部下の成果に対して責任を持たないといけない、という前提におけるゲゼルシャフトの中で、一番大切なのは上司のアクションによって部下の「行動が変わったか」が先ず大事です。

行動が変わったか >>  何が伝わったか >> 何を言ったか

人間の本質は「内燃機関」です。外から「あれやれ、これやれ」と言われるより、自ら「これがやりたい!」と言って行動する生き物なんです。物理的空間を前提としない「行動デザイン」の難易度は、多くの上司・リーダー・マネージャをこれからも苦しめ続けることでしょう。

故に、この「部下の行動デザイン」を突き詰めていくと、必ず最後に行き着くのが「信頼(TRUST)」というビックワードです。

全ての土台は「信頼」である

部下のやる気を引き出す、行動を変える。それら全てのアクションにおいて、必ず土台となるものがあります。それが、「上司と部下の信頼関係」です。

あまりに普通の事すぎて、書いているこちらが恥ずかしくなる内容ですが、上司のスタンスとして「先ず部下との信頼関係を作る」という観点で努力しているリーダー、マネージャがどれだけいるでしょうか。

会社の組織開発におけるスタンスとして「リーダー、マネージャーとして何より大切なのは部下との信頼関係である。故に、先ずはそれぞれが自分のメンバーとの信頼関係を築くことに尽力してほしい」と声高にエンパワーする経営陣がどれだけいるだろうか。

あらゆる危機において、立ち戻るべきは極々シンプルな「原理原則」です。「約束は守る」「嘘はつかない」...そんな基本的な世界の真理において、チームワークにおいては「信頼関係」がやはり出発点なんです。日々膨大な業務に埋没していくと、そんなシンプルな「人としての原理原則」がどうしても疎かになるんですね。

特に物理的環境の共有を前提としないこれからのバーチャルハイブリッドな組織では、組織の最小単位となる「上司と部下」がある程度の信頼関係で結ばれていないと「やる気」のマネジメントはおろか、心的ストレスに代表される労働衛生すらベースラインを築くことが難しくなってきます。バーチャルを前提とした組織では、上司は部下が本当のところいつどこで、何をしているかというマイクロマネジメントは不可能になります。実際は自宅でどれだけYouTubeを観ていようが、Slackの返信があれば「今は問題ない」ということになるわけです。そんな状態では、どれだけ言葉を尽くしても「行動」が変わることはありません。

それを前提としたこれからのゲームにおいては、先ず「人と人」としての「信頼関係」を作り、その「信頼関係」を土台に「やる気」や「行動」をデザインしていくことが、これからの会社運営、組織運営に真に求められているということになります。

先ず会社として信頼されること。
組織の最小単位が信頼関係で結ばれていること。

そんな当たり前の組織デザインと、今一度正面から向き合っていきたいと思いませんか。

(了)

「感情」や「行動」のデザインに関してはこちらのnoteでも触れています。

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