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企業文化という「山の登り方」で、一番やってはいけないこと。|カルチャーデザイン

最近よくこんな話をします。

"企業文化とは「山の登り方」である。"

正確に言うと、昔からこういった話はしていたのですが、こうやって例えて説明する機会が増えたと言ってもいいかもしれません。

特に変化と成長角度、人の入れ替わりと変動著しいスタートアップにおいては、この「山の登り方」がよく変わってしまうんですね。

どんな頂上に向けて、どんなルートで、どんな態度で登るのか。

これが企業文化そのものです。

例えば
"最短・最速で致命的な事故や怪我以外はお構い無しにハードコアに攻める"
のか、
"同じ頂きを目指しつつも登るパーティー・環境に最大限配慮しながら着実に歩みを進めていく"
のか。

両極端で言うとそんな山の登り方のグラデーションの中に「企業文化」とは確かに十人十色に存在していて、短期的に言えばそこに「良い」も「悪い」も無いんですね。あるのは「その登り方を選択した」とう事実です。

こういった構図に、経営陣もそのパーティーに参加する登山者も、あまりに振り回されすぎているので、この「山の登り方」は確実に良くデザインされるべきであると思っています。

先ほど「短期的」と言いましたが、狙いを定めた目指すべき「山頂」への「登り方」によっては、最短で登頂するこも失敗することもあるでしょう。故に、事業領域や競争環境次第ではどんな登り方を選択するかはものすごく大事であるものの、特に「態度」といったような経営者を中心とした属人的なものは無意識下に埋め込まれたものなのと、短期的にはそれが良いか悪いかなんて残念ながら分からないものです。5年10年スパンでしか測れない物差しの良し悪しを短期的に議論しても仕方ないのです。

一番やってはいけないこと。

クライミングの過程では、特に変化の激しいスタートアップやベンチャーでは突然の大嵐に見舞われたり、他のパーティーに足元を救われたり、パーティー内での内紛が起きたり。

それはもう波乱万丈の登山になります。だからこそ、どんな「頂上」に向けて、どんな「ルート」で、どんな「態度」で挑むのか。これをしっかり定義してパーティー全体に伝える努力が必要なんですね。

頂上 = 「ビジョン」
ルート = 「ミッション」
態度 = 「バリュー」

と大雑把に代入することができるわけですが、結局「ビジョン」というのはお山のテッペンから見える世界なので、大体どんなスタートアップも目指す場所は一緒なわけです。大切なのはそこに向けての「ルート」であり「態度」。つまり、目指すべき山頂にむけて「挑み続ける姿勢」にこそ企業文化が色濃くにじみ出ます。文字通り、山の登り方に企業の個性が出るんですね。

このように、よく「ミッション」「バリュー」を可視化しよう、可視化しないのが良くない。と言われますが、本当に不味いのは可視化をしないことではないんです。

山の登る工程で、一番やってはいけないのが

「山の登り方を変えた(変わった)ことを丁寧にパーティーに伝えないこと」

なんですね。特にスタートアップでは成長のフェーズが変わったり、意図的に成長のギアを入れ替えたり、トップの人材がたった一人入れ替わることで良くも悪くも登り方、登るペースが大きく変わることが多々あります。

こうした時に、経営陣がやるべきはまず「自己認識」なんですね。

こういうルートに変えた、ペースを変えた、態度はよりこういう形にシフトしてく。こういった変化や意思決定はむしろ現場の方が敏感に察知しますから、それを丁寧に正確に伝えないこと自体がパーティ全体への不和に繋がります。

むしろ、「変わっていない」と過去の「ルート」や「態度」の旗を振りづづけながらも、実態は全く別の振る舞いをするというのが良くある遭難事故の典型かもしれません。

プレイボーイではいけない。

これまた良く言う例えですが、働く会社を決めること、個人と法人のマッチングは「結婚」に似ています。お互いの機能的かつ情緒的相性を総合的に勘案して、相思相愛になったことを確かめ合って初めてひとつになるわけですが、長い結婚生活を続けていればどうしてもお互い成長し、変化し、すれ違いが起きてきますね。

「昔は良かった」

というワードは仕事でもプライベートでももう何万回聞いたか分かりませんが、本人がどれだけ「変わっていない」と言ったところで、「変わってしまった」ものを認めない前に進まないのと、人は「過去の良かった体験」という慣性で生き続ける弱い生き物なんですね。それは若いカップルも熟年の夫婦も、そして企業組織も同じです。

特に経営レイヤーがプレイボーイだと最悪です。八方美人に愛想を振り巻いて厳しい現実を伝えない、山の登り方が合わなくなってきた人や事象に対してハッキリした態度を示さない。

こうすると、心の底では「変わってしまった」事実を理解しつつも、また昔のように楽しくやれるんじゃいかと「期待」する人たちを引きづりながら登り続けることになります。

登り方、登る態度、そういったものが合わなくなれば「離婚」すればいいんです。その方が、残念ながら中長期でみればお互いのためになります。当然、実際の結婚生活と同じで、期間が長くなればなるほどサンクコストや抱える荷物が増え、現実的には難易度が高いのですが。。

ですから、トップや経営レイヤーは常に正しい「自己認識」をして、「変わった/変えた」ものがあれば面倒ですが都度丁寧に説明して、コミュニケーションをして、お互いの「期待値のずれ」を最小限に留め続ける努力が必要なんです。お互いの人生のダメージコントロールを最低限にし続ける努力が必要なんです。

EXとは期待値のずれである。

小難しい話は上記のnoteに任せておいて、要は

従業員体験(EX)」とは「期待値のずれ」です。

パーティー全員が「健全」に山に登り続けるためには、この「期待値のずれ」を最小限にし続ける努力をすること。これしかないんですね。

出会って、デートして、付き合って、結婚して。この過程は、お互いの期待値の発生とすり合わせの歴史とも言えるでしょう。出会った瞬間からお互いの期待値が発生し、最初はどうしたって自分のことを良く見せようと思いますから実態とは違った背伸びをしたり、無理をしたり、厚く化粧を塗り重ねます。しかし、結局大切なのはお互いスッピンで愛し合えるかかなんですね。

採用候補者からすると、その企業を知ったその瞬間から「期待値」が発生し積み重なっていきます。採用面接で会う人、聞くストーリー、オンボーディングで語られる魅力的な制度や生き生きした先輩社員からの熱い言葉。この外に対して語る山の登り方・態度と実態が実態と100%一致していることがむしろ希なので、可能な限りスッピンの姿を伝えること。さらに、そんな素の自分の内面に何か量的・質的変化が大きく起こって、心が変わりしたのであれば、素直に正確に伝えること。

こういった例え話に乗せると、それがいかに難しいことか体感として分かるのですが、一方でそれらは結婚生活と同様、お互いの人生を賭けているわけですから、正面からしっかり向き合わない理由がありませんね。

何を伝えたかではなく、何が伝わったかでもなく、行動が変わったか。

当たり前なのですが、こういった話を「伝える努力をしていない」ことは実際なくて、当のトップ・経営陣は十分に伝えた「気」になっているものです。しかし、残念ながら大切なのは「何を伝えたか」が大事なのではなく、実際「何が伝わったか」が大切。そして、もっと言うと「何が伝わったか」よりも「実際に行動が変わったか」で事実を判断しないといけません。

ある程度の組織サイズになってくればオールハンズ1発で全体にしっかりと「伝わる」ことは難しく、階層の隔たりを均等にうまく乗り越えることの難易度が高いんですね。故にミドルレイヤーを通じて組織の末端まで浸透するように、あらゆる社内チャネルを駆使して、一度ではなく何度も繰り返伝え続けるというコミュニケーションデザインが最後は要になります。

このように「良い企業文化デザイン」というのは、実際行動レベルまでのデザインなんですね。定義して可視化しておしまい、ではないんです。

結び|先頭で見えている景色を。

「人」という生き物は、思っている以上に目に見えないものを「感じ取る」能力に長けているのですが、同時に「希望的観測」を持ち続ける生き物でもあります。長く険しい山を登る過程で、先頭で見えている景色、想い、覚悟、方針、戦略、リスク...こういった本当に大切な事を、パーティー全体に常に正しく、伝え続ける健全な組織でありたいものです。


〈関連note〉



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