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良いコアバリュー、悪いコアバリュー。|10のデザイン要件

端的に本題に入ります。

本件を語るために、先ず企業活動においてコアバリューを定義・活用する目的(WHY)を明確にします。

私がここで書き記す目的は一般的なコアバリューの目的に照らし合わせるとややフォーカスされすぎている印象を受けるかもしれないですが、企業文化と、その他組織・人事・戦略等の境界マネジメントを考慮すると極めて現実的で、実行可能なもので、真に意味のあるものだと信じています。

コアバリューの目的と役割

次の目的はコアバリューの仕事ではありません。

× 自社の方針や戦略に沿って一貫した行動が組織が大きく拡大し続けても自律的に取れるようにする

 → これはコアバリューだけの仕事ではない。時にこれは「戦略(からの方針)」の仕事で、優れた本物の戦略は一貫した行動を生み出す

× 今できていない理想の価値観・理想を組織にインストールする

 → 組織改善の方針として打ち出す、グレード要件などで定義する、など他の方法はいくらでもある

× 間違った人を採用しないようにする

 → コアバリューも含めた「理想の人物像」として定義すれば良い

自社や過去の経験はもちろん、様々な企業の「コアバリュー」「文化デザイン」に寄り添うたびに思うことは「コアバリュー」に人事・組織的な仕事を任せすぎる(期待しすぎる)ということ。

本来であれば他の経営・人事的な活動におけるにハード・ソフトの両面から様々な形で解決すべき「組織課題」の多くを「コアバリュー」という幻想に背負わせすぎないように。

あらためて、
企業活動においてコアバリューを定義・活用する唯一の目的は

 ○ 組織の感情的エネルギーを最大化させる

にフォーカスすべきです。コアバリューの意義はこの1点にあるという前提で、デザイン要件10つを以下にまとめます。逆説的に、なぜこの目的1本に絞るべきかという内容も含まれています。

真に意味のあるコアバリュー10つのデザイン要件

やや重複する内容もありますが、消化しやすく箇条書きでまとめます。

コアバリュー10つのデザイン要件

1. 限りなくシンプルである
2. 全てを可視化しようとしない
3. 重要なものにフォーカスされている
4. コアバリュー以外の文化もデザインし続ける
5. 正論ではなく行動に結びついている
6. 実行されることでポジティブなエネルギーが生まれる
7. 組織が体現できていないことは含まれていない
8. 経営・マネジメントが誰よりも完全に体現している
9. 自社のコア事業に対して足枷とならない
10. コアバリューを額に飾らない

1. 限りなくシンプルである

膨大なリストと、冗長な説明文のコアバリューは絵に描いた餅になる
・日々意識され(もしくは無意識的に)行動とセットになっていないものは文化ではない
・組織の大半が暗唱できるレベルでないと自律的なコアバリューにはならない

2. 全てを可視化しようとしない

実際の文化は暗黙的なものを含めると実に膨大であり、全てを包括的に明文化することは不可能という現実を知る
・要件1にも起因する
・さらに「理想の組織」などありえない。理想を描いた瞬間にそれは過去のものとなる(特に内外の変化が重要な競争戦略、生存戦略となる昨今においては)
・つまり、時代や理想は常にダイナミックに進化・変化する
・故に、理想を正確にもれなくダブりなく行動に落とし込むようなデザインはしない
・文化でのデザインで重要なのは、細かくデザインし過ぎないこと

3. 重要なものにフォーカスされている

・シンプルでそぎ落とされたものは、膨大な"文化の候補"リストの最大公約数であってはならない
・最大公約数は切れ味に掛け、行動に訴えかけるレベルの度胸と迫力を生まない
最も重要なものだけにフォーカスする、それ以外は切り捨てる

4. コアバリュー以外の文化もデザインし続ける

・1〜3より、コアバリューとして重要なのは最大公約数ではなく、シンプルで最重要な文化の上澄みである
・それ以外は引き続き経営・マネジメントや人事を中心に日々注意深くデザインし続ける
・必要なタイミングでコアバリューの昇格・降格を行う
・また、組織が大きければ部門ごとのサブカルチャーはあってしかるべき。あくまで全メンバーが等しく体現すべき「コア」のみにフォーカスする
・そしてコアバリューは組織に関わる全員が等しく体現していることが理想、故に「コアバリュー」として定義すべきか、もしくは「職能」「グレード」に紐づく要件として定義すべきか、など明確に分けてデザインをする

5. 正論ではなく行動に結びついている

・例えば「誠実」はそうすべきことが自明で議論の余地もないただの「みんなの理想の価値観=正論」である
・敢えて自社の文化・コアバリューとして規定すべきは「ウチならこう判断して行動する」という独自の視点
・正論を言い続けることはできるが、行動レベルで可否が見えないと文化・コアバリューとしての価値は無い

6. 実行されることでポジティブなエネルギーが生まれる

・コアバリューが組織のあらゆる日常で発揮されることでポジティブなエネルギーが生まれるか
文化・コアバリューの価値はその組織固有の感情的エネルギーの促進にある
・良いコアバリューは平時も有事も安定も危機も、常に組織を動かす燃料となる
・良い戦略も良い文化も優れた行動を促すものだが、戦略は理屈であり、文化は感情に訴えるもの

7. 組織が体現できていないことは含まれていない

・文化は組織の感情に訴え、行動をデザインする。故に、組織の強みが生かされるポジティブなものであるべきである
・逆に「できていないがこうすべき」という理想を掲げると時にその文化はネガティブに働く
・ネガティブパワーを持つ「できていない」弱みにフォーカスするのではなく、ポジティブな強みにフォーカスする
・強みを強めれば相対的に弱みの影響は小さくなる
できないことを担保するのは「経営・マネジメント」の仕事で文化の仕事ではない
・具体的に組織に対して担保したい価値観や行動があるなら、組織改善"方針"として打ち出す、採用要件に盛り込む、マネジメントの昇格要件に盛り込む、グレーディングで定義する...etcなど特に人事ハード面の整備でデザインする
・その結果、このリストの要件を満たす「文化」と呼べるレベルになったら、そのタイミングで後からコアバリューに昇格させれば良い
曖昧な「理想」や「願望」を架空の文化にしてしまうと、そのGAPがネガティブポイントとなり、さらに文化のupdateがハイカロリーとなる。方針なら、究極朝令暮改でも良い
・コアバリューの最も重要な役割は、感情的エネルギーをポジティブに爆発させ行動を起こさせること

8. 経営・マネジメントが誰よりも完全に体現している

・文化のデザインがポジティブ感情のデザインならば、ネガティブ感情の代名詞が「経営・マネジメント」の言行不一致
・ゆえに、掲げたコアバリューは常に誰よりも組織のピラミッドの上位レイヤーが日々体現して強め続けなければならない

9. 自社のコア事業に対して足枷とならない

文化は戦略を食う
・日々、コアバリューを実践して判断、行動した結果がコア事業の戦略や成功の足枷となっていないか
・文化と戦略の相性が優れた組織行動につながるよう、文化と戦略を往復しながら必要に応じて文化もしくは戦略を修正する

10. コアバリューを額に飾らない

・要件1〜9まで徹底さえすれば、キレのあるコピーやキャッチーなポスターデザインにする必要もない
・毎日全組織メンバーが体現し、その結果ポジティブエネルギーが充満し、さらに結果として事業に打ち勝ち、中長期でのビジョン/ミッションの実現につながる
・コアバリューはあくまで「文化と呼ばれるもの」の一端であり、その境界線には「組織課題」「人事」「採用」「カルチャーフィット」といったボキャブラリーで語られる重要課題が確かに存在する
・重要なのは、それらをコアバリューの仕事とするのか、そうでないのかの認識と判断であり、コアバリュー自体も不変ではなく、常にアップデートされるべきものである

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