なぜ「ロッカーの清掃」が勝てるチームをつくるのか?
企業文化がなぜ重要なのか。
このシンプルな「問い」に対する「解」はこちらのnoteで可能な限り詳細に記させて頂きました。
「企業文化」という捉えにくく、無味無臭な概念に、可能な限り輪郭を与えて扱いやすくする、その重要性の手触りを持ってもらう。そんな目的で多くの人に未だに参照して頂いています。
そうやって少しでも身近になった「企業文化」は、当然それ自体は「目的」ではありません。ただ、「良い企業文化つくる」「強いカルチャーをつくる」ことですら、それは手段であり目的ではないんですね。
企業経営、営利組織であれば、目的は
1. ビジョンやミッションを実現するため
であり、より噛み砕くと
2. 常に競争に勝ち続けて社会に価値と利益を得る
ことです。
つまり、優れたカルチャーデザインとは自社の文化に根ざした「"勝てる"組織文化デザイン」であり、文化というのはハイレベルなデザインレイヤーであり、結局ローレベルで大事なのは「行動」のデザインです。
つまり、本当に必要なのは「強いカルチャーをつくる」ことによる
勝つための組織行動デザイン。
勝ち続けるための組織行動デザイン。
です。
そこで「勝つためのカルチャー」という観点で多くの学びを得られるのが、勝ち負けが短期にも中長期にも白黒ハッキリしつづける「プロスポーツ」の世界。
今回はそんなスポーツの世界とビジネスの世界を「組織」「カルチャー」という観点で向き合い続けてきた元ラグビー日本代表理事であり、主に企業リーダー育成のトレーニングを行うチームボックス代表の中竹竜二さんの最新書籍「ウィニングカルチャー(勝ちぐぜのある人と組織の作り方)」より学びを深めていきます。
特にこのnoteではこちらの書籍より得られた「オフ/余白のデザイン」という視座の元に、
プロスポーツチームに学ぶ「勝つためのカルチャーデザイン」
を深掘りしていこうと思います。
「オフ・ザ・ボール」「オフ・ザ・フィールド」という着眼点
本書では「ウィニングカルチャー」というタイトルの通り、勝つためのカルチャー、文化づくりを抽象的な概念の解説から具体的な導入、改善方法まで事例も交えて丁寧に紹介しています。
冒頭から、著者はウィニングカルチャーを次のように定義しています。
「勝ちとは何か」「なぜ勝つのか」「どう勝つのか」「どこまで勝ち続けるのか」、一度導き出した「解」をあえて自分で疑い、自問を繰り返し、過去の成果に甘えることなく、自分の殻を破って謙虚に学び続け、進化や成長を止めないこと。
「勝ち」を定義し、「勝ち」を目指し、ラーンとアンラーンによる「学習」を積み重ねながらチームとして成長し続けること。
共感と学びの深い内容も多いのですが、特に今回私が深掘りしたかったのは「オン」ではなく「オフ」の重要性。
なぜ「オフ」のカルチャーを強めることで勝てるチームに繋がるのか、という「問い」です。
本書では、この「オフ」に関して
「オフ・ザ・ボール」
「オフ・ザ・フィールド」
というスポーツ・ボキャブラリーを用いて勝つためのカルチャーづくりの一環として注目しています。本書からポイントを引用します。
「オフ・ザ・ボール」
得点を決めるプレーヤーばかりが高く評価されるのではなく、得点を狙える環境をいかに整えることができたのかという観点から、プレーヤーが評価されはじめている。
「オフ・ザ・フィールド」
体を動かしてその競技に取り組むのは、一日24時間のうち数時間しかありません。それ以外は食事や睡眠、肉体や精神の調子を整えたり、リラックスしたりと、競技以外に多大な時間が割かれています。
世界各国、どんなスポーツでも強いチームになるほど、競技には直接関係のないオフ・ザ・フィールドを大事にしている。
この「オフ」の観点が着目されるのと、今の時代に勝ち続ける上で「カルチャー」が問われる背景には、ひとつの共通した背景が存在します。
技術や戦術だけでは勝てない時代で問われる「カルチャー」
プロスポーツの世界でもビジネスの世界でも、共通して昨今「カルチャー」が注目される理由のひとつとして、著者は「科学テクノロジーの進化」をあげています。
戦略や戦術のオープン化による深い理解と、GPS等による選手単位の膨大なデータを分析することによって、「勝つための戦略」がよりリバースエンジニアリングできるようになったからです。
これによる恩恵は、チームの技術・戦略/戦術レベルの拮抗に他なりません。つまり、技術や戦術レイヤーでは勝負がつかなくなってきているということですね。
故に、勝ち続けるための土台としての「カルチャー」と、競技には直接関係の無い「オフ」が大切であるという理屈です。
ここでさらに私として深掘りしたいのが「強いカルチャー」をデザインし続けることの本当のメリットの観点からです。
それが、
カルチャーの強化 = 感情エネルギーの最大化
という視座です。これを軸に、もう少し「オフ」のカルチャーデザインを噛み砕いていきます。
カルチャー強化の恩恵は「感情エネルギーの最大化」
「企業文化」というキーワードは最近各所で多用されることもあり、故に「企業文化」や「カルチャー」というものに対して、多くの期待(目的)を背負わせすぎていると感じています。
文化のデザインで最もわかりやすいのが「ビジョン」「ミッション」「バリュー」の策定(ひっくるめてVMVとかMVVとか言わるやつ)ですね。
例えばバリューの策定が分かりやすいのでこちらのnoteにも書きましたが、
あえて極端に言い切るのですが、次の目的はコアバリューの仕事ではありません。
× 自社の方針や戦略に沿って一貫した行動が組織が大きく拡大し続けても自律的に取れるようにする
→ これはコアバリューだけの仕事ではない。時にこれは「戦略(からの方針)」の仕事で、優れた本物の戦略は一貫した行動を生み出す
× 今できていない理想の価値観・理想を組織にインストールする
→ 組織改善の方針として打ち出す、グレード要件などで定義する、など他の方法はいくらでもある
× 間違った人を採用しないようにする
→ コアバリューも含めた「理想の人物像」として定義すれば良い
企業活動においてコアバリューを定義・活用する唯一の目的は
○ 組織の感情的エネルギーを最大化させる
にフォーカスすべきです。
企業文化を強化する、その最もたる恩恵は組織の感情的エネルギーを最大化させることです。
個人の成果 = スキル × モチベーション
という普遍的公式がありますが、
こちらを「チーム」「組織」に進化させると
チームの成果 = スキル × "戦略/戦術" × モチベーション
と「戦略/戦術」が大きな変数として登場しますね。
これを先ほどのプロスポーツチームの昨今の状況に照らし合わせると
「スキル」「戦略/戦術」では勝負がつかなくなってきている。
故に、「モチベーション」が大切であり、このモチベーション最大化し続けるのが「カルチャーの強化」というロジックになります。
ちなみに余談ですが、プロスポーツの世界では「スキル」「戦略/戦術」では勝負がつかなくなってきている先の「競争優位性」として「カルチャー」はもちろんですが、特に個人プレーヤーとしての「ブランディング」が挙げられます。本論とは別の視点となるので深掘りは避けますが、こちらのnoteで言及している「アスリートの評価基準がコロナで変わった」という着眼点はとても興味深いです。
「カルチャー」と「ブランド」は表裏一体だと思っています。
誤解を恐れず言えば
・表に見えないのが「カルチャー」
・「カルチャー」が表面化したものが「ブランド」
です。良いカルチャー、強いカルチャーを育む先にはそういったブランディングへの副次的効果もあると思っています。
美意識に訴えかける、「余白のデザイン」
それでは、あらためてなぜ「オフ」のカルチャーを強化することによって「チームモチベーション」の最大化ができるのでしょうか?
これは「カルチャー」という概念に似た「美意識」というデザインボキャブラリーを用いると理解しやすいです。
「美意識」というのは、文字通り「何を美しいかと思う感覚・感性」のことですね。スポーツチームであれば、こういうプレーはうちらしいとか、企業であればこういう意思決定の仕方であるべきだ、情報共有はこのようにされるべきだ、など言い換えると「カッコいいか悪いか」という感性レベルの良し悪しの尺度です。
これは当然人やチーム、組織によって様々です。つまりそこに根付く文化に依存する分かりやすいカルチャーの手触りになります。
「美意識に訴えかける」ものというのは、つまり「心が動く」ことに他なりません。心が動けば、それが行動に繋がり、それが結果に繋がります。つまり、モチベーションという「気」を持ち上げる変数として「美意識に訴えかける」というレバーが人間にはあるんですね。
そんな人間独自の心のレバーである「美意識」に作用する効果的な手段が「余白のデザイン」です。次の写真をご覧ください。
紅葉の美しさもさることながら、絵の全体感として心が動くのは「漆黒の余白」の美しさです。この写真で心が動いた人は、それは「余白のデザイン」によって「美意識」を刺激されたことに他なりませんね。
ちなみにこのnoteのカバーに用いた画像も、余白が巧みにデザインされています。主たる対象物(チームの円陣)以外の全体像とのコントラストによって、結束するチームに見えない強烈なスポットライトを当てていますね。これが「余白のデザイン」から感じる美意識です。
余白にこそ、色濃く美意識が滲み出る。
と言い換えても良いかもしれません。
事件は「現場に近いインフォーマルな場」で起きている
参考図書「ウィニングカルチャー」でも組織文化が色濃く現れる「場」として「現場との距離」「フォーマル/インフォーマル」による"4象限のマトリクス"を用いて"余白"の重要性を解説しています。
つまり、4象限の中でも「現場と近いインフォーマルな場」に最も組織文化が反映されるとして、「現場と近いインフォーマルな場」におけるカルチャーデザインの重要性が挙げられます。著者の指摘する「現場と近いインフォーマルな場」は例えば「朝会・喫煙室・日常的な雑談・昼食・飲み会」などです。
そしてさらに重要なのが、こういった「共通の美意識を共感」できる「人」や「組織」への帰属感と高揚感です。特に余白に美を感じる感性というのは、西洋人ではなく東洋人に由来しますね。
禅に代表されるあの心が落ち着く世界観を「美」として、さらに「共通のカルチャー」として何千年と育んできたのが東洋人のまさにカルチャーです。
これで、なぜ「オフ=余白」のカルチャーデザインが、「勝てるチームカルチャー」に繋がるか理屈で理解できたと思います。
あらためて「勝つためのカルチャー」というコンテキストに立ち戻ると、目的に対する主活動(プロスポーツであれば競技スキル、戦略/戦術)ではなく、あえてインフォーマルなサイドストーリーである「オフ」に着目すること。
そして、そこに根ざした「美意識」をチーム全体で共有し、共感し、体現し続けることによってチーム全体の帰属意識、高揚感を高め続る。その結果として勝ち続けるためのチームモチベーション(エネルギー)を作り続けることができるということです。
【実例】プロスポーツチームにおける余白のデザイン
実際に、そんな「余白のデザイン」によってチームを勝利に導いた事例、勝ち続けるチームの実績が、ありがたいことにプロスポーツの世界にはいくつも存在します。
ここでは、そんな「実例」を引用しつつ今回の学びをより具体的なストーリーとともに強化・補完したいと思います。
ー 実例【1】ー
レギュラー/スタメンではない「チームのまとめ役」の戦略的配置
そのチームのカルチャーを誰よりも体現し、チーム全体に「愛」によるポジティブエネルギーを与え続けている人財を、私は便宜上「インターナルリーダー」「エモーショナルリーダー」(以下、I/Eリーダー)と呼んでいます。
優れた指揮官によるI/Eリーダーの配置。引用したい事例と実績はサッカー日本代表岡田監督(当時)が2010年W杯南アフリカ大会でチームメンバーに「第3のGK」として配置した川口能活選手です。
川口は岡田監督からのミッションを果たすべく、選手たちにどう対応すべきか、少し悩んでいた。脳裏に浮かぶのは、過去に3度経験したW杯において、唯一結果が出て、成功したと言える2002年の日韓共催大会のことだった。
「日韓共催W杯のときは、中山(雅史)さんや秋田(豊)さんが、ベテランとしてうまくチームをまとめていました。日本が勝つためには、そういう選手が絶対に必要だと思っていました。ただ、僕は中山さんや秋田さんのようなキャラじゃない。中山さんのように笑いが取れるわけではないですからね。
それでいろいろと悩みましたが、(自分は)特別なことはできないので、自分は自分らしく、練習を100%でやった。試合に出るための準備や姿勢をしっかり見せて、若い(本田)圭佑や(長友)佑都らに声をかけたりして、(みんなが)いい雰囲気でプレーできるように心がけました」
オン・ザ・フィールドで成果を出せる選手だけを寄せ集めるのではなく、オフ・ザ・フィールドで各プレイヤーの心の拠り所となる存在。背中で美意識を体現してくれる存在。そんなI/Eリーダーの存在が、結果他のメンバーの心を動かし、チームを一つの方向に力強く推進させる原動力となります。
当時同じような境遇だった中村俊輔選手は当時の川口能活選手を次のように語っています。
「能活さんは日本のために自分自身の身を削っていた。(自分は)ろうそくとなって、他人を明るく照らそうとした。犠牲心を持ってやれるか、という部分でお手本になってくれた。ほんと、助けられた」
参照|エースの座からサブへ。傷心の中村俊輔を救った川口能活の存在
こういった献身的な「ギバー」の存在は、企業文化とはまた異なる観点で健全な「チーム」であり続けるには欠かせない存在です。「ギバー」がいかに組織において重要かはこちらのnoteも参照してください。
結果論ではありますが、日本代表は2010年W杯南アフリカ大会において当時の「史上最高の成績」を残しています。
今回の好成績は、そうしたサッカーの面だけで語るのでは不十分だ。戦略や戦術以上に大きな力になったのは、チームの結束だった。先発メンバーは4試合ともまったく同じで、交代選手も限られており、川口能活(磐田)、楢崎正剛(名古屋)の両GKだけでなく、DF岩政大樹、内田篤人(ともに鹿島)、FW森本貴幸(カターニャ)と、合計5人もの選手がまったくピッチに立つことなくワールドカップを終えた。それでも、チームは一丸となって戦いぬいた。
「選手だけでなく、コーチ陣、スタッフを含め、全員がひとつとなって戦った」と、デンマーク戦後、岡田監督は語った。
(省略)
もちろん、日本だけが一体になったわけではない。今回のワールドカップで高評価を得たのは、大半がそうしたチームだった。大きなクラブでプレーしているとか、年俸を何億、何十億もらっているとか、そうしたことは関係ない。祖国で声援を送る無数のファンのために、自己を捨て、すべてを出し尽くして戦う――。ワールドカップは、いまやそうした戦いとなっている。
ー 実例【2】ーロッカールーム、スタンドを綺麗に片付ける礼儀
サッカーやラグビー日本代表で度々話題となる「ロッカールーム」清掃の美学。同様にサポーターがスタンドを清掃する姿もまた、特に負け試合後の態度として世界から賞賛されることも多く、ご存知の方も多いと思います。
参照|世界中で話題になった「来たときよりも美しいロッカールーム」
これも分かりやすい「余白のデザイン」事例ですね。特に日本人の整理・整頓のカルチャーは日本人の我々にとっては至極当たり前に映りますが、世界の人々からすると時に驚きと賞賛を持って評価されます。
「外部からの賞賛」は副次的効果ですが、特に日本代表などの「ナショナルチーム」が「日本人の美意識」を体現することには「ナショナリズム」にうったえかける強烈な効果があります。
当然、それを見た我々日本人は「日本チームってなんて素晴らしいんだ」「もっと日本チームを応援しよう!」となるわけですね。ポジティブエネルギーサイクルの好循環です。
I/Eリーダーの川口選手の事例でも同様ですが「勤勉」「整理・整頓」など「日本人が持つ美意識」をナショナルチームで発揮することは、ナショナルチームそのものへの文化の敬意と帰属意識を強める効果があると言えるでしょう。
当然こういった「余白のデザイン」によって決して個々のスキルやチームとしてのケイパビリティが上がるわけではありませんが、特にチームプレーが需要となるラグビーやサッカーといった競技においては個々のプレーの自己規律を高め、戦略・戦術の実効性を高めるという効果も認められます。
ラグビー世界最強軍団であるニュージーランド代表チーム「オールブラックス」もまた、ロッカールームの掃除という"行い"を通じてチームカルチャーの余白をデザインし続けています。
オールブラックスは基本と基本的価値を重視し、才能よりも品性に基づいて選手の抜擢を行なっている。選手たちは決しておごることなく、小さなことを大事にするよう教えられている。
こうした条件は文化、つまりチームの品性(エトス)を育てるのに役立つ。謙虚さはチーム内のコミュニケーションのレベルで力を発揮しはじめ、問いかけによる、一歩進んだ学ぶ環境をつくりだす。
誰もが目の前にある問題の解決に貢献するように求められる。このことは文化的なつながりを通じて強さを維持するための重要な要素である。
参照|問いかけ続ける(世界最強のオールブラックスが受け継いできた15の行動規範)
オールブラックスから学ぶ余白のデザインとは、チームのカルチャーレベルで「謙虚さ」に伴う行動をオン・オフ問わずにデザインし続けることによって、日々の練習や大事な試合でのプレー等全てにおける「問い」から謙虚に学び続け、成長し続けることが結果的に勝ち続けるチーム(カルチャー)を作るという理屈です。
「謙虚さ」がプロスポーツチームのみならず、勝ち続ける企業においても重要であることは、スティーブ・ジョブズやグーグル幹部等名だたるシリコンバレーのIT企業のメンターを務めた元コロンビア大学アメリカンフットボール部コーチのビル・キャンベルの次の一言に集約されます。
謙虚さが重要な理由は、リーダーシップとは会社やチームという、自分よりも大きなものに献身することだ(ビル・キャンベル)
参照|一兆ドルコーチ
ー 実例【3】ー
生え抜きの登用による「余白のデザイン」
プロスポーツチームの事例としては、上記2点はどちらも短期的なナショナルチームの事例でした。では、より企業経営に近い、もっと長期視点で勝ち続ける文化がより重要なクラブチームの事例を紹介します。
サッカープレミアリーグの「FCバルセロナ」「レアル・マドリード」はご存知の方が多いと思います。どちらも常勝軍団と称される世界有数のプロスポーツチームですが、実はどちらも「文化」を何よりも重んじる「カルチャーデザイン」がそのクラブ経営に根付いています。
例えばレアル・マドリードであれば、文化の可視化やカルチャーフィットを重視した選手はもちろんのこと、文化の純正培養システムである「カンテラ」という下部組織が存在します。
多くの企業が新卒採用を通じてカルチャーを構築していくように、レアル・マドリードも文化の伝承において所謂「生え抜き」選手の育成と雇用を徹底している。
レアル・マドリードには「カンテラ」と呼ばれる下部組織が存在する。多くが10代前半で入団し、そこで育った生え抜き選手がチームメイトに対する規範となるのだ。
2014年のチャンピオンズリーグ決勝に挑んだ25名(28%)のうち7名はカンテラ出身だ。彼らはクラブが新しく迎えたメンバーたちと、レアル・マドリードの精神と期待を共有し、クラブの歴史と真髄をピッチの上で体現する。
彼らが目指すのはカンテラ出身者と新参選手との融合であると断言する。「カンテラ出身者と世界のトッププレイヤーの共演」というコンセプトがぶれることはなく、「文化のベテラン」がいかに強い組織を作る上で重要かを熟知しているのである。
そして、生え抜きの活躍にはこんなおまけがついている。
地元から排出された才能は、コミュニティの情熱に火を点ける。
レアル・マドリード同様に、FCバルセロナもその文化の純正培養システムに洗練された重みを感じます。
こちらも以前のnoteから少し引用します。
彼らの強さは実績が物語っているのでこちらで多くを語る必要は無いが、移籍スタープレーヤーとカンテラ出身メンバーとの比率が平均して7:3のレアル・マドリードに比べ、FCバルセロナは時に9割を超えるカルチャードリブンの生え抜き選抜メンバーでそんなスター軍団に打ち勝つ。サッカーに詳しく無い人でもメッシやJリーグに移籍したイニエスタといった名前は聞いたことがあるだろう。彼らも何を隠そうカンテラ出身だ。
FCバルセロナはそういったカンテラ出身のスタープレーヤーに限らず、バルセロナがバルセロナであるために「Cultual Archtect(文化の設計者)」としてピッチ内外で文化のグレーゾーンを埋める人材を重用する。ゴールの背後で献身的にプレーする選手はもちろん、控えのベンチやロッカールームでの振る舞いも彼らは最終的な成果に重要な文化のワンピースだと信じて各所に「Cultual Archtect(文化の設計者)」戦略的に配備しているのだ。そうやって対極にいる「文化の暗殺者」の台頭も水際で防いでいる。
末長く勝ち続けるチームカルチャーを作るための、回り道は無い。
根気強く「自社の文化」を体現する生え抜きを育成し続け、カルチャーの「余白をデザイン」し続けることが、結果的に中長期で「勝てる」エネルギーを枯渇させずに捻出し続けることになります。
「余白のデザイン」を活用した企業のウィニングカルチャーづくり
勝つ、勝ち続ける続けるプロスポーツチームが、なぜ「オフ」を強化するのか。「美意識」に立脚した「オフの行動デザイン」が、いかにチームをひとつにまとめ、チームモチベーションの最大化に繋がるか。
これらを整理した上で、最後に私たち「企業組織」への転用アクションをステップにまとめてこのnoteの締めとしたいと思います。
また、「オフの行動デザイン」を今の企業組織活動に適用しようとした時、避けて通れないのが昨年からの新型コロナウィルスによる「リモート環境以降」による「オフ」「インフォーマル」な場の激減ですね。
そういった時代背景も踏まえて、前例にとらわれない「余白のデザイン」によるカルチャー強化が求められているとも言えるでしょう。
〈前提準備〉
0. 現場組織が「体現」されると高揚感、帰属感が増す"その組織固有"の「美意識」を探し出し、認識する
〈余白のデザインアクション〉
1. 固有の「美意識」を最も体現するメンバーを評価・登用する
・・・現場が知る縁の下の力持ちを評価承認すること
・・・陽の当たらない努力者に目を向け、陽の目を当てること
・・・「I/Eリーダー」を承認し、重要・課題チームに戦略配置すること
※(何度も繰り返しますが)「誰を何で評価するか」、これがカルチャーを強める上において最もインパクトが高くバレッジがきく
2. オフ・ザ・フィールドにおける「美意識」行動をエンパワーする
・・・「オフ」「インフォーマル」の場を活用すること
・・・「オフ」におけるその組織のおける「美的行動」をカルチャーを強めるチャンスとして認識して意図的にエンパワーすること
3. 新卒採用等によって文化を純正培養し続ける
・・・オフ/インフォーマル含めて美意識を体現するメンバーをゼロから育てること
・・・上記美意識を体現できる「I/Eリーダー」をメンターにあてること
・・・中途採用の「スター」のオンボーディング期間はこういった「文化の体現者」と並走させること
4. 「オフ」「インフォーマルな場」を意識的に作り出しデザインする
・・・前提としてより「現場に近い」「インフォーマル」な場づくり、場のデザインを意識すること
・・・オフィスの目的を「オン」の場ではなく「オフ」「インフォーマル」な「場」として活用すること
・・・「朝会」などの"儀礼的ルーチン"の場で意識的なカルチャーの「余白のデザイン」を行うこと
・・・チャットツールの「雑談」「各趣味」等の現場に近いインフォーマルな場のデザイン、より自社のカルチャーにあった行動のエンパワーすること
みなさんのカルチャーデザインの航海の先に、強くて美しい希望の光が見出せますように。
了)
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