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ベン・ホロウィッツが『HARD THINGS』で書ききれなかった企業文化デザイン論

前著が困難に立ち向かっている起業家に大きな共感を読んで大ヒットとなった『HARD THINGS(ハード・シングス)』の著者でAndreessen Horowitzの共同創業者、 ベン・ホロウィッツ待望の新著がが10月に発売された。

同氏によれば本書は前作『HARD THINGS』で欠けていたピースを補う、むしろ中長期では最も大切なテーマだという。それが「企業文化」だ。

タイトルはズバリ
What You Do Is Who You Are: How to Create Your Business Culture
ということで早速手にとって読了している。
ここでは、著書による「企業文化」に関する幅広い経験からの深い洞察や最新の事例を紹介しつつ、私が論じる企業文化デザイン論との合流を試みたい。当然ながら、突き詰めるとそれらはかなり相似形と言っていい内容だった。

本題に入る前に、TechCrunchのインタビューから彼の本作に関する彼の想いを引用する。

" いかにして企業文化を確立すべきかという本を私が書いた理由は、スタートアップを立ち上げたCEOにしてみたら、企業文化なんて小さい問題だと思えるかもしれない。しかしやがて大問題に発展するのだ。倫理問題というのはセキュリティ問題に似たところがある。あまりにも本質的な問題なので実際に問題が起きるまでは問題だと気づかない。"
" 今何をしていようと文化を作ること以上に重要なことはない。 社員たちに常々言っているのだが、10年後、20年後、30年後に振り返ったときに個々の取引で勝ったとか負けたとか、どれだけ儲けたとか覚えている人はいない。覚えているのは、ここで働いていたときの気分、我々とビジネスをしたときの気持ちや印象、我々が周囲に与えた影響だ。つまりそれが企業文化であり、誰もここから逃げることはできない。"

その行動が、全てを形作る。

各論に入る前に、本書の全体像をご紹介したい。
まず最初に本書のハイライトと言ってもいい一文を引用させていただく。企業文化の本質に立脚した、非常に納得感のある概要で、これだけ心に刻んでおくのでも価値がある。

This book is not a comprehensive set of techniques for creating a perfect culture. There is no one ideal. Instead, the book will take you on a journey through culture, from ancient to modern. Along the way, you will learn how to answer a question fundamental to any organization: who are we? A simple-seeming question that’s not simple at all. Because who you are is how people talk about you when you’re not around. How do you treat your customers? Are you there for people in a pinch? Can you be trusted? Who you are is not the values you list on the wall. It’s not what you say at an all-hands. It’s not your marketing campaign. It’s not even what you believe. It’s what you do. What you do is who you are. This book aims to help you do the things you need to do so you can be who you want to be.
=== 意訳 ===
この本は完璧な企業文化の包括的なテクニック書ではない。そもそもそんな唯一理想のカルチャーなど存在しない。代わりに、古代から近代まで"カルチャー"に関する旅路を通じ「我々は誰なのか?」というシンプルで根源的な問いに対する解がいかに重要かを伝えられればと思う。この問いは至極シンプルに聞こえるが、実はそうではない。なぜなら、「我々は誰なのか」とは、実際我々がいないところで人々が我々に関して話すこと、噂することそのものだからだ。どのように顧客と向き合っているのか?誰かが窮地に陥った時、我々はそこにいるのか?信頼されているのか?「我々は誰なのか」は壁にかけられた価値観(コアバリュー)のリストではない。オールハンズ(全社集会)で何を言ったかでもない。ましてやマーケティングキャンペーンの内容でも、究極何を信じているかですらない。
何をするか、何をしたかが全てだ。
その行動が、全てを形作る。

本書は、あなたが成りたい形へ導く、行動の指南書である。

まず、「企業文化」を語る上で、それは人の化身であり、誰1人として同じ人、企業文化は存在しない。これは企業文化の本質を語る上でまず最初に必要なマインドセットだ。100社あれば、100社異なり、血液型のように類型はできるが個体のDNAレベルでは全くの別物である。故に、本書でも唯一の一般解を提示するようなことはせず(そもそもそんなものは存在しない)、代わりに歴史から得られるエッセンスだけを汲み取り、最新の事例で再度証明することで我々にとって消化しやすいものにし、最後に可能な限り普遍的で共通して心得るべき学びへと昇華している。

さらに、一貫して強調しているのが「行動」による企業文化デザインだ。
その企業、組織が実際に何を信じ、何を表面上伝え、可視化しようが、最終的に「行動」として現れたものでしか企業文化は形作られないというのが本書のコアである。

そして、それこそリーダーシップの責任だ。

僭越ながら、こちらでも企業文化とはを論じる先に、企業文化デザインのコアとして次の一言に集約している。

企業文化は、経営陣やマネージャの日々の振る舞いによって規定される

"企業文化とリーダーシップ"について、さらに本書のシンプルな一文を引用する。

Culture only works if the leader visibly participates in and vocally champions it.
企業文化は、リーダーが目に見える形で参加し、声高にそれを支持する場合にのみ機能する。

歴史からの普遍的な学び

他の多くが、人類の長く深い歴史から今に活きる普遍的で汎用的な学びを見出すように、本書でもまず「Cultural Journey(文化への旅路)」として4つの史実から企業文化への洞察を得ようと試みている。

1. トゥーサン・ルーヴェルチュール(ハイチの独立運動の指導者)
2. サムライ&武士道(約700年に続く日本文化のコアを形作ったもの)
3. チンギスハン(当時世界人口の半分をも納めたモンゴル帝国の祖)
4. Shaka Senghor(刑務所のカルチャーを激変させた歴史的ギャング)

同時に、そこから得られた企業文化デザインエッセンスに対する現代の生きた事例を紹介している。Apple、Amazon、Yahoo!、Slack、Netfrilx、Uber...。もちろん、自身がCEOとして務めたLoudCloudの経験も赤裸々に語っている。

こちらでは、特に我々日本人にとって馴染みのある「サムライ」からの学びに触れておこう。

《Value(価値)ではなく Virtue(美徳)》

企業文化デザインにおける「行動」の重要性を、著者はサムライの行動様式すべてにおける「美徳」への徹底から見出している。言葉の定義に依存する部分であるが、単なる信念としてのValueではなく、日々の行動にまで色濃く落としこまれるVirtueというレベルまで浸透しきったものが本物の企業文化を形作るという学びだ。

そして、その徹底した行動をベースにした「美徳」への源泉を「葉隠・武士道」における思想の原点である「死」に見出している。

「武士道と云ふは死ぬ事と見つけたり」

侍はこのマインドセットから、揺るがない信念を美徳として携え、日々武士として一貫性のある思考や行動に落としこんでいる。そうすることによって、武士は常に心と体を、いついかなる時も戦場に置いている。この美徳が必要なのは武士だからだ。それは彼らの宿命であり、いついかなるリスクに対して備えて置かなければならない。そして、単に危険に備えるだけでなく、そこに武士としての美学を持ち合わせているため、人々からの尊敬も集め700年にわたる文化的繁栄を持つに至っている。

ここから現代の「企業文化」への学びは、まさに「己を知る」ための旅路である。武士道が常に「死」と向き合うことによって自らを常に正しい道へ歩ませたように、最悪の自体を常に心で描くことによって、その企業、組織において本当に必要なものだけが見えてくる。ともすると現代の企業はビジネスゴールやKPI、KGIなどにそのアテンションが執着しすぎる。それは大抵の場合「数字」で構成され無味乾燥だ。我々はお金のために働いているのだろうか?数字は多くの人の魅了し続けるものなのだろうか?
その結果として訪れるのは「人への無関心」であり、700年も続いた誇るべき日本文化の根底から、何も受け継いでいないことを危惧してやまない。
ビジネスゴールや数字目標を軽視すべきという話ではない。HOWも大事だが、それ以前の「WHY」からはじめ、「WHY」から組織と日々向き合う必要があるのだ。

BE YOURSELF, DESIGN YOUR CULTURE

歴史からの学びに続くチャプターのこの題目以上に、本書から得られる深い学びや伝えたいコアを語るものはない。

Be Yourself, Design Your Culture

史実から「文化的学び」の本質を横串で刺しても、どの会社にも当てはまるべき唯一の文化は存在しない。大切なのは「Be Yourself(あなた自身でいること)」であり、デザインすべきは我々自身のオリジナルなカルチャーだ。

では、己を知り、唯一無二の企業文化をデザインするために留意すべきことは何だろうか。本書から得られるいくつかの学びを以後に列挙していきたいと思う。

《戦略を支える企業文化とは》

ドラッガーは文化と戦略の関係において、有名な言葉を残している。

Culture eats Strategy for breakfast
文化が戦略を食う(つまり、企業文化は戦略に勝る) 

企業文化の重要度に関しては違いない指摘だが、もし戦略を食ってしまうような企業文化であれば、その文化すらワークしない。

Amazonにおいてベゾスが作り上げた「長期視点」の戦略における土台は、コスト構造の圧倒的な低価格化だ。故に、彼らの文化である「frugality(倹約)」が事業戦略においても重要な意味を持つ。

一方でAppleは世界で最も美しい最高のプロダクトのみを作ることが戦略であり、「frugality(倹約)」ではその戦略すら実現できない。

Facebookのイノベーティブなカルチャーである「Move fast and break things」は革新的なスタートアップには有効かもしれないが、航空機を作るエアバスがこれを実践したらどういう末路をたどるかは火を見るより明らかだ。

《「人」に対する向き合い方》

唯一無二の企業文化をデザインする上において、環境としてインストールされていないといけないのが「人」に対するケアの意識だ。突き詰めれば人事的問題、課題、そして企業文化的なイシューのすべてはこの「人」という一文字に行き着くといっても過言ではない。

著者も度々本書で言及している「根源的な人に対するケア」が全ての会社が持つべきたった一つの要素と断言している。

巷には様々なテクニックが溢れているが、どんなHOWを適用しても、徹底的にその組織の「人」と向き合い、彼らに対して真に意味ある形で「承認」を与え、意義のある形で「報いる」ことができなければ、血の通った本物企業文化デザインというものはできない。

《採用における心得》

我々は何であるか。どのような想いで、行動で企業文化を培っていくべきかのか。その北極星と道筋が明確になってきたのであれば、採用ほど重要な輸血作業はない。また、採用において真に大切なのは、その人が何を信じているかではなく、実際にどんな行動をしてきたのかだ。ここでも、単なる信念と、結果としての行動を明確に区別する。行動こそが真の文化へ繋がる道であると。なぜなら、インタビューで信念的な嘘をつくことは容易いからだ。逆に、結果として現れた行動を後から否定することはできない。その真にある「美徳」レベルで自社のカルチャーとのフィットを診ること。
また、スタートアップであれば最初の20人で企業文化のコアが規程され、その後の文化の強力なドライバーとなるとも。

採用においては様々な企業が「カルチャーフィット」の観点で四苦八苦している。あくまで一例であるが、Amazonは通称「the Bar Raiser(ハードルを上げる人)」を面接官として必ずアサインする。彼らのミッションはリーダーシップにおけるAmazonの原則やカルチャーフィット視点で候補者を評価する。また、さらに大切なのが彼らが一方的にカルチャーフィットの観点から評価するだけではなく、Amazonがどんな企業文化なのかを徹底的に伝えることだ。入社後のEX(Employee Experience)の観点からもこの時点での期待値の調整が中長期でボディーブローのように効いてくる。採用プロセスで築き上げられた期待値が、その後のパフォーマンスを大きく左右する。

《抽象化して、誤魔化さない》

己を知る旅を通じて見出され、掲げられたバリュー(価値観)、美徳のいかに抽象的なことか。

Integrity(一般的には"誠実さ"と訳す、が)

と一口に言ったところで、実際どのように振る舞えば良いか、その解釈の幅は広い。企業文化をデザインするとはつまり、グレーゾーンを徹底的に排除することだ。優れた企業文化は、曖昧さを許さない。右か左かの論争に、白黒はっきりつける。

著者は以下3つを抽象化を避ける上での重要な要素だと提言する。

1. 行動につながっているのか?
2. 他の企業文化と差別化されているのか?
3. その文化のテストに、本当にあなたはパスするだろうか?

《意思決定プロセスをデザインする》

「意思決定」が日々のカルチャーを強める、逆を言えば、間違った「意思決定」の数々が文化を破壊する。

さらに、その「意思決定プロセス」こそが文化を保ち、強め続けるコアとなる。典型的な意思決定プロセスの3つを類型化すると

a. トップダウン型(私が決める)
b. ボトムアップ型(みんなの声で決めよう)
c. バランス型(全員に伝えるが、最終的には私が決める)

当然だが、ビジネスにおいては3つ目の型が最も良くワークする。これを念頭に置いた上で、健全な企業文化における意思決定プロセスの先にあるべきなのが

Disagree and Commit(反対だが、最終的にコミットする)

だ。仮に反対意見を持っていたとしても、十分に与えられた前提条件の中で最終的にトップが決めた事に関しては全力でコミットする。当然ながら、その中核となるのがマネージャーを中心とするミドルレイヤーだ。彼らが組織の噛み合わせとしての駆動ドライバーとして同じ方向に動かないと、組織全体の歯車は効率的に回らない。
故にトップは意思決定に対するプロセスを明確にし、最終決定の理由を明確にし、ミドルレイヤーをエンパワーする必要がある。

《信頼とロイヤリティ》

本書の結びに、あらためて著者があらゆる企業文化が取り入れるべきユニバーサルな要素をあえて挙げるとすると究極的には次の2つだと断言する。

TRUST(信頼)

なぜ真実を伝えるの一見簡単なようで、これほどまでに難しいのだろうか。仮にあなたがCEOだとしよう。
・セールスの不振を素直に伝える事
・株主を不安にさせてしまうような事実
・解雇しなければならない財務状況であること
・コアな役員が競業会社へ移ってしまうこと
・プロダクトの深刻なユーザー減...
例をあげればキリがないが、一見真実を伝える事をためらう胃の痛い事象ばかりだ。しかし、ビジョンやミッションに照らし合わせ、なぜそうしなければならないのか、真実をクリアに伝えるしか最良の道はない。
組織や企業文化はあなたの鏡だ。あなたが嘘をつけば、組織や従業員も嘘をつく。

LOYALTY(ロイヤリティ)

ビジネスを真の意味で成功させる上において、変化の大きい今という時代ほど顧客・ユーザーからの「ロイヤリティ」がもたらす恩恵が重要な時代もない。それは「雇用」の関係においても重要だ。どんな企業文化であれ、優秀で(その企業にとって)欠かせない人材との長期的なリレーションシップはマスト要件であり、その良好な関係こそが良い企業文化の土台となる。

また、著者の言葉を借りれば

Loyalty emerges from an expectation that the other party feels the same way(ロイヤリティは、その会社の他の人たちが自分と真に同じような考え、行動を持てているという期待値から醸成される)

という。つまるところ、ロイヤリティとはその組織の人間関係そのものだ。Stripeのco-founder Patrick Collisonはロイヤリティを次のように考えいている。

明らかに生涯における雇用をお互いに約束する時代ではないが、私は従業員が過去15年を振り返った時に、それぞれの人生において本当に意義のある仕事ができた、と思ってもらえることを願っている。そのためには、会社としての倫理的な誠実さと、何よりも彼らが会社自体に強くエンゲージしてもらうことだ。

多くの人は会社から離れていくのではない。マネージャー(上司)から離れていくのだ。そのマジョリティの事実を踏まえ、ロイヤリティを組織にインストールできるかが企業文化デザインの土台となっている。

===

「人」から逃げないこと。

最後に、後味として思うことは、目の前の「人」から逃げないという原則。

それは目の前の従業員、ステークホルダーのみならず、自分自身からも。

全ては自らの写し鏡となる。表面上どんなに良いことを語っても、自分は騙せない。結果的に、行動も騙せない。故に、組織も騙せないのだ。

「人」と向き合うこと。

企業文化デザインは、そんな内面と外界とのキャッチボールでもある。そのボールの一投一投が、誰よりもうまく出来、心地よく、絶妙なリズムで投げ続けられること。

そんな唯一のオリジナリティを探し続ける長旅の先に、色褪せない、流されない、力強い企業文化の礎が築き上げれていく。


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USEN→VOYAGE GROUP(genesix創業)→創業期のSmartNewsでGrowth全般から最後は人事責任者、現在も企業文化のAdviserとして関わりつつ本業はRuntrip, Inc. 取締役。家族が大好き二児の父。

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